RF の基礎
アメリカ合衆国では、工業用、科学用、および医療用(ISM)のライセンス不要の用途のために 3 つの帯域が割り当てられています(図 3-1 を参照)。
これらの ISM 帯域は、次のように定義されています。
• 900 MHz 帯域:902 ~ 928 MHz
• 2.4 GHz 帯域(IEEE 802.11b/g/n):2.4 ~ 2.4835 GHz
• 5 GHz 帯域(IEEE 802.11a/n/ac):
– 5.150 ~ 5.250 GHz(UNII-1)
– 5.250 ~ 5.350 GHz(UNII-2)
– 5.725 ~ 5.875 GHz(UNII-3/ISM)
各帯域には異なる特徴があります。より低い周波数の 2.4 GHz 帯域は、広い範囲まで届きますが、帯域幅は限られているため、データ レートは低くなります。より高い周波数の 5 GHz 帯域は、狭い範囲しか届かず、固体の物体の場合は減衰量が増えることがあります。
この項では、規制区域とその動作周波数の概要を示します。
規制区域
ライセンス不要の帯域で動作するデバイスは、正式な認可を得るプロセスは必要ありませんが、ISM 帯域で動作する際、ユーザはその地域に対して定められた政府の規制に従う必要があります。世界中の各規制機関は、それぞれの基準に従ってこれらの帯域を監視しています。WLAN デバイスは、該当する政府規制機関の規格に従う必要があります。規制要件が IEEE 802.11b/g/n および 802.11a/n/ac 準拠製品の相互運用性に影響することはありませんが、規制機関は規格で特定の基準を設定しています。たとえば、無線が生成したり、近接した場所の別の無線から受信する干渉の量を最小限に抑えるための、WLAN のエミッション要件があります。該当する規制機関から製品の認証を受けることは、WLAN ベンダーの責任です。
多くのベンダーでは、規制当局の要件に準拠するほか、Wi-Fi アライアンス(WFA)( www.wi-fi.org )を通じて、他のベンダーとの互換性も確認しています。
動作周波数
802.11b/g/n の 2.4 GHz 帯域の規制は、動作時間の点では、比較的変わりがありません。FCC(米国)は 11 チャネル、ETSI(世界中の他のほとんどの地域)は最大 13 チャネル、および日本は最大 14 チャネル許可していますが、チャネル 14 で動作するには特別なライセンスが必要になります。802.11a/n/ac の 5.0 GHz 帯域の規制を準拠する国では、追加チャネルのために追加スペクトルを開放する方向で動き始めています。
これらの周波数帯域と関連するデータ レートについては、以降の項でより詳しく説明されています。
2.4 GHz:802.11b/g/n
1999 年に批准された 802.11b 規格は、1、2、5.5、および 11 Mbps のデータ レートをサポートし、幅広いユーザの承認とベンダーのサポートを獲得しています。802.11b は、最初に標準化された WLAN 通信方式として、何千ものエンタープライズ組織で展開されています。
2003 年に批准された 802.11g 規格は、802.11b と同じスペクトラムで動作し、802.11b 規格との下位互換性を備えています。802.11g 規格は、さらに、6、9、12、18、24、36、48、および 54 Mbps のデータ レートをサポートし、2.4 GHz 帯域で最も一般的な WLAN 通信方式です。
2009 年に批准された 802.11n 規格は 2.4 および 5 GHz 帯域で使用できます。2.4 GHz 帯域は、最大 144 Mbps までのデータ レートをサポートします(20 MHz 帯域幅と単一の送信ストリームを仮定した場合)。より高速のボンディング チャネル(20 MHz を超えるスペクトラムを使用)は、300 Mbps まで高速化できますが、これは家庭での導入において一般的であることに注意してください。企業ネットワークは 2.4 GHz 帯域で 20 MHz のデータ レートに限定されますが(スペクトラムの量が限られるため)、802.11n や 802.11ac テクノロジーによる 5 GHz 帯域を使用してさらに高速化できます。
5 GHz:802.11a/n/ac
5 GHz 無線帯域の無認可領域で動作する 802.11a/n/ac は、2.4 GHz 帯域で動作する電子レンジ、さまざまなコードレス電話、Bluetooth(狭い範囲での低速なポイントツーポイントのパーソナルエリアネットワークの無線規格)などのデバイスからの干渉の影響を受けません。802.11a/n/ac 規格は別の周波数範囲で動作するため、既存の 802.11b または 802.11g に準拠した無線デバイスとは互換性がありません。これは、2.4 GHz および 5 GHz の機器であれば、同じ物理環境で干渉することなく動作できるということです。
導入に関する考慮事項
これら 2 つのテクノロジー(802.11a/n/ac と 802.11b/g/n)を選択するうえで、1 対 1 のトレードオフは必要ありません。これらは補完的なテクノロジーであり、将来の企業環境でも共存し続けます。これらのテクノロジーの実装の責任者は、2.4 GHz だけのネットワーク導入、5 GHz だけのネットワーク導入、またはこれらを組み合わせた導入の中から、経験に基づいて選択できる必要があります。既存の 802.11b/g ネットワークを使用する組織は、単純に既存の AP に新しい 802.11a ネットワークを展開し、802.11b/g/n による 11 Mbps カバレッジと同じ領域で、802.11a/n/ac による 54 Mbps カバレッジを期待するわけにはいきません。これらの両方の帯域の技術的な特性のため、このようなカバレッジの互換性は実現しません。
802.11a では、通常、所定の電力およびアンテナ ゲインに対してより短い範囲で 、6、9、12、18、24、36、48 のデータ レート、および最大データ レート 54 Mbps を使用できます。802.11b/g ではオーバーラップしない周波数チャネルが 3 つであるのに対し、802.11a には地理的地域に応じてオーバーラップしない周波数チャネルが最大で 23 あります。この結果、ネットワーク キャパシティが増加し、スケーラビリティが向上して、隣接するセルから干渉を受けずにマイクロセルラー展開を作成できるようになります。
802.11a/n/ac が動作する 5 GHz 帯域は、複数の異なる部分に分割されています。 表 3-1 に示されているの各 UNII 帯域は、当初意図した用途とは異なり、適切な電力制限を有する屋内向けの 802.11a/n/ac デバイスですべて使用できます。当初、FCC ではそれぞれ 4 個のチャネルがある UNII-1、UNII-2 および UNII-3 帯域だけが定義されました。チャネルは、20 MHz 離して設定され、RF スペクトラムが 20 MHz であるため、オーバーラップしないチャネルとなります。
これら 3 つの UNII 帯域には、別々の制限があります。それぞれ、送信電力、アンテナ ゲイン、アンテナ スタイル、および用途の制約が異なります。UNII-1 帯域は、屋内での動作を目的として使用され、当初はアンテナを恒久的に接続する制約がありました。UNII-2 帯域と UNII-3 帯域は、屋内または屋外での動作を目的として使用され、外部アンテナが許容されます。
UNII-1(5.150 ~ 5.250 GHz)のチャネルは 36、40、44、および 48 です。UNII-2(5.250 ~ 5.350 GHz)のチャネルは、52、56、60、64 で、動的周波数選択(DFS)および送信電力制御(TPC)が必要です。新しい周波数範囲(5.470 ~ 5.725 GHz)のチャネルは 100、104、108、112、116、120、124、128、132、136、および 140 で、DFS および TPC が必要です。UNII-3(5.725 ~ 5.850)のチャネルは、149、153、157、161、および 165 で、DFS および TPC は必要ありません。所定の範囲のすべてのチャネルをすべての規制区域で使用できるわけではありません。図 3-1 は、UNII-1、UNII-2、および UNII-3 帯域のさまざまなチャネルと追加の新しい 11 チャネルを示しています。
図 3-1 802.11 のチャネルのキャパシティ
FCC は、5 GHz 802.11a チャネルの使用を取り扱う 2004 年の規制の改正を発表しました。この改正では、新しく 11 のチャネルが追加され、使用可能なチャネル キャパシティは 23 チャネルに増えました(図 3-1 を参照)。新しく追加された 11 のチャネルは、屋内および屋外で使用できます。ただし、新しいチャネルを使用するには、無線が、802.11h の仕様で規定されている TPC および DFS 機能に準拠している必要があります。DFS は、この周波数範囲で動作するレーダーを避けるために必要ですが、これは、動的周波数の計画など他の用途にも使用できます。802.11h は、2010 年以降の Cisco Unified Wireless Network によってサポートされています。
DFS は、特定の条件(レーダー信号の存在など)が満たされたときには必ず、トランスミッタに対して別のチャネルへの切り替えを動的に指示します。デバイスの DFS メカニズムは、送信前に、使用可能な動作範囲を監視し、レーダー信号を待ちます。信号が検出されると、レーダー信号にアソシエートされているチャネルが解放されるか、そのチャネルをトランスミッタが使用できないことを示すフラグが立てられます。送信デバイスは、動作前および動作中に、その環境で継続的にレーダーの存在を監視します。5 GHz 帯域の部分は、レーダー システムに割り当てられます。これにより WLAN では、現在のレーダー ユーザが同じ場所にまとめて配置されている場合に、それらのユーザへの干渉を回避できるようになります。
TPC により、AP がアソシエーション プロセスで WLAN クライアントと電力レベルをネゴシエートできるようになります。AP は、その WLAN クライアントに、その AP に対して使用することのできる送信電力の範囲を知らせて、そのレベルを満たすことができないクライアントを拒否できます。WLAN クライアントは、そのクライアントの送信電力レベルを、TPC ネゴシエーションで指定された範囲内に調節できます。これにより、WLAN からの干渉を最小限に抑え、WLAN クライアントのバッテリ寿命を最適化できるようになります。
FCC 規制の最新情報の詳細は、次の Web サイトにあるシスコのホワイト ペーパー『 FCC Regulations Update 』を参照してください。
http://www.cisco.com/en/US/products/hw/wireless/ps469/products_white_paper0900aecd801c4a88.shtml
表 3-1 は、802.11a/n/ac 規格の周波数を示しています。
表 3-1 802.11a/n/ac の動作周波数の範囲
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
IEEE 802.11 規格について
IEEE 802.11 は、米国電気電子技術者協会(IEEE)内で作業しているグループで、OSI モデルの物理レイヤおよびリンクレイヤ(レイヤ 1 とレイヤ 2)の無線 LAN 規格を担当しています。これに対して、インターネット技術特別調査委員会(IETF)はネットワーク レイヤ(レイヤ 3)プロトコルを担当しています。802.11 作業グループでは、802.11 WLAN 規格の要素を担当する多数のタスク グループがあります。 表 3-2 は、タスク グループ イニシアチブの一部の要約を示しています。
これらの作業グループの詳細は、 http://www.ieee802.org/11/ を参照してください。
表 3-2 IEEE 802.11 タスク グループの活動
|
|
|
物理レイヤ エンティティ(PHY)タスク グループとともに、WLAN のための 1 つの共通の MAC を開発する。
|
|
赤外線、2.4 GHz FHSS、2.4 GHz DSSS という 3 つの WLAN PHY を開発する。
|
|
5 GHz UNII 帯域のための PHY を開発する。
|
|
2.4 GHz 帯域で高レートな PHY を開発する。
|
|
802.11 MAC でのブリッジ動作を扱う(スパニングツリー)。
|
|
その他の規制区域(国)の 802.11 動作のための物理レイヤ要件を定義する。
|
|
QoS のために 802.11 MAC を強化する。
|
|
マルチベンダー使用のためにアクセス ポイント間通信プロトコル(IAPP)の推奨案を作成する。
|
|
802.11b に対して高速な PHY 拡張を開発する(54 Mbps)。
|
|
802.11 MAC と 802.11a/n/ac の PHY 動的周波数選択(DFS)、送信電力制御(TPC)を強化する。
|
|
802.11 MAC のセキュリティおよび認証メカニズムを強化する。
|
|
802.11 の規格を強化し、日本における 4.9 GHz および 5 GHz のチャネル選択の追加に向けて修正する。
|
|
無線およびネットワーク測定のための上位レイヤにインターフェイスを提供するため、RRM 拡張を定義する。
|
|
無線およびネットワーク測定のための上位レイヤにインターフェイスを提供するため、無線リソース測定の拡張を定義する。
|
|
802.11 系列の仕様の文書に関する、編集上の管理、修正、改訂、明確化、および翻訳を行う。
|
|
2.4 GHz、5 GHz 帯域における高スループット拡張(MAC SAP で >100 Mbps)を重点的に扱う。
|
|
Voice over WLAN での高速なハンドオフ(目標は 50 ms あたり)を提供する。
|
|
料金徴収、車両安全サービス、車でのコマース トランザクションなど、車両を対象とした車両用通信プロトコルを中心に扱う。
|
|
高速な BSS 遷移および高速なローミングを定めた規格を開発する。
|
|
完全に網羅するように向上されたメッシュ ネットワークの MAC および PHY を定義する。
|
|
製造業者、テスト ラボ、サービス プロバイダー、ユーザが 802.11 WLAN デバイスおよびネットワークのパフォーマンスをコンポーネントおよびアプリケーション レベルで測定できるようにするパフォーマンス メトリック、測定方法論、テスト条件を提供する。
|
|
IEEE 802.11 アクセス ネットワーク(ホットスポット)と外部ネットワークの間に機能およびインターフェイスを提供する。
|
|
ステーション(STA)に対してネットワーク管理を提供する 802.11 MAC/PHY への拡張を提供する。
|
|
アクション管理フレーム、認証解除フレーム、アソシエーション解除フレームなどの、選択した IEEE 802.11 管理フレームのデータの整合性、データ発信元の信頼性、応答の保護、データの機密保持を実現するメカニズムを提供する。
|
ダイレクト シーケンス スペクトラム拡散方式(DSSS)
ダイレクト シーケンス スペクトラム拡散方式(DSSS)は、冗長情報を RF 信号に符号化します。これにより、802.11 無線は、チャネルでバックグラウンド ノイズまたは干渉があったとしても、パケットの受信を理解する確率が高くなります。すべてのデータ ビットは、チッピング シーケンスまたはバーカー シーケンスと呼ばれるビット文字列( チップ )に拡張されます。IEEE 802.11 によって指示されているチッピング レートは 1 ビットあたり 11 チップです。1 および 2 Mbps のレートで 2 位相偏移変調(BPSK)/4 位相偏移変調(QPSK)を使用し、11 および 5.5 Mbps レートで 8 チップ(CCK:相補型符号変調)を使用します。これは、11 Mbps ではデータの 1 ビットに対して 8 ビットが送信されるということです。チッピング シーケンスは、スペクトル拡散周波数範囲で並列に送信されます。
IEEE 802.11b ダイレクト シーケンス(DS)チャネル
IEEE 802.11b のダイレクト シーケンス(DS)チャネル セットでは、14 チャネルが定義されています。送信される各 DS チャネルは 22 MHz ですが、チャネル用の分離は 5 MHz だけです。結果として、間隔が 25 MHz もない隣接するチャネルからの信号が互いに干渉しあうなど、チャネルのオーバーラップが発生します。14 チャネルの DS システム(米国の場合、使用可能なチャネルは 11)では、オーバーラップせず、干渉しないチャネルは 1、6、および 11 だけです(図 3-2 を参照)。
このチャネルの間隔によって、オフィスやキャンパスなどの複数 AP 環境でのチャネルの使用および割り当てが決まります。AP は通常、隣接する AP がオーバーラップしないチャネルに割り当てられる、セルラー形式で企業内に展開されます。または、1 つの領域に 33 Mbps の帯域幅を提供するように(ただし、1 つのクライアントには 11 Mbps だけ)、チャネル 1、6、および 11 を使用して、AP を同じ場所にまとめて設置することもできます。同様に 802.11g を使用した場合の集約帯域幅は 162 Mbps で、最大データ レートは 54 Mbps になります。図 3-2 は、このチャネルの割り当て方法を示しています。
図 3-2 IEEE 802.11 DSS のチャネル割り当て
IEEE 802.11g
802.11g は、802.11b と同じスペクトラムである 2.4 GHz の帯域でより高いデータ レート(最大 54 Mbps)を提供します。802.11g は 802.11b との下位互換性があり、6、9、12、18、24、36、48、54 Mbps のデータ レートも提供します。802.11g は、802.11a/n/ac と同様、高いデータ レートで同じ変調技術である直交周波数分割多重(OFDM)を使用します(「IEEE 802.11a OFDM の物理レイヤ」 を参照)。
表 3-3 は、さまざまなデータ レートに対する 802.11g の変調と伝送の種類を示しています。
表 3-3 802.11g の変調および伝送の種類
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
IEEE 802.11a OFDM の物理レイヤ
IEEE 802.11a は、6 ~ 54 Mbps のデータ レートで 5.0 GHz UNII 周波数で動作する、OSI モデルの物理レイヤに対する要件を定義します。IEEE 802.11a は、シングル キャリア システムと比較してマルチキャリア システムである直交周波数分割多重(OFDM)を使用します。OFDM を使用すると、サブチャネルはオーバーラップが可能になるため、スペクトラム効率が高くなります。OFDM で可能な変調技術は、802.11b/g/n で使用されるスペクトル拡散技術よりも効率的です。
IEEE 802.11a のチャネル
802.11a のチャネルは、チャネルの中心周波数を表しています。チャネルの周波数は点線の両側の 10 MHz です。図 3-3 に示すように、チャネル間には 5 MHz の間隔があります。
図 3-3 チャネル セットの例
米国の 802.11a/n/ac 規格の場合、5 GHz 無認可帯域は 300 MHz のスペクトラムに対応し、12 チャネルをサポートします。その結果、米国では、5 GHz 帯域は実際に 3 つの帯域の集合体になります。
• 5.150 ~ 5.250 GHz(UNII-1)
• 5.250 ~ 5.350 GHz(UNII-2)
• 5.725 ~ 5.875 GHz(UNII-3)
RF 電力の用語
dB 、 dBi 、および dBm の各用語は、それぞれ、システムのポイントで測定したとき、無線で感知したとき、または基準電力レベルと比較したときの電力の変化量を表すために使用されます。この項では、これらの用語の違いを説明し、使用に関する一般的なルールについて説明します。実効等方放射電力(EIRP)についても説明します。
dB
dB (デシベル) という用語は、電力レベルの減衰または増幅に主に使用されます。 dB は、別の標準化された値に対する信号の対数比です。たとえば、dBm の場合は 1 ミリワットに対して値が比較され、dBw の場合は 1 ワットに対して値が比較されます。
計算式は、次のとおりです。
power (in dB) = 10 * log10 (signal/reference)
適切な数字を当てはめると(たとえば、信号に 100mW、基準に 1mW)、dB の値として 20(100 = 10 の 2 乗、つまり指数が 2 となり 10 を掛けることで 20 となる)が算出されます。
これは対数(線形ではなく指数としての増減を意味する)であり、ある基準に対する値の比率であることを覚えておいてください。また、これを 10 倍することも忘れないようにしてください。
対数である場合、いくつかの一般的なルールがあります。3dB の増減は、それぞれ、信号(電力)が 2 倍または 1/2 になったことを意味します。10dB の増減は、信号が元の値の 10 倍になったか、1/10 になったことを意味します。
屋内の WLAN および屋外の WLAN 展開は両方とも、RF 展開において異なる課題があり、これらは分けて分析する必要があります。ただし、屋内使用に関しては、一般的なルールがあります。9dB 増加するたびに、屋内のカバレッジ エリアが 2 倍になります。9dB 減少するたびに、屋内のカバレッジ エリアが 2 分の 1 になります。
dBi
dBi( 等方性 dB)という用語は、架空の等方性アンテナと比較される実際のアンテナの電力ゲインを表すために使用されます。等方性アンテナ(理論上または架空のアンテナ)は、同じ電力密度を完全に全方向に送信するアンテナです。
アンテナはこの理想の測定値と比較され、すべての FCC 計算でこの単位(dBi)が使用されます。たとえば、シスコの全方向性 AIR-ANT4941 アンテナのゲインは 2.2dBi です。これは、アンテナの最大エネルギー密度が等方性アンテナよりも 2.2dB 多いことを意味しています。
dBm
dBm(dB ミリワット )という用語は、dB の項で説明したものと同じ計算を使用しますが、基準値は 1 ミリワットです。
したがって、dB の項で示した例で考えると、無線で電力が 1 mW から 100 mW に変化した場合、電力レベルは 0 dBm から 20 dBm へ変化します。
dBm は送信電力を表すだけでなく、レシーバの感度も表します。信号は送信した時点から値が減るため、レシーバの感度は、マイナス dBm(-dBm)で表されます。感度は、信号を理解不能と見なす前にレシーバが受信可能な最小電力を示します。
実効等方放射電力(EIRP)
無線の設定に基づいて送信される電力は、dBm またはミリワットで表されされますが、システム全体のアンテナから受ける最大エネルギー密度は、EIRP として測定されます。これは、さまざまなコンポーネントの dB 値を合計したものです。EIRP は、FCC や ETSI などの規制当局が電力制限を決定するために使用する値で、放射しているアンテナの第 1 フレネル内の最大エネルギー密度を表します。EIRP は、送信電力(dBm 単位)をアンテナ ゲイン(dBi 単位)に加算し、ケーブル損失(dB 単位)を差し引くことで算出されます。たとえば、Cisco Aironet ブリッジを、約 50 フィートの長さの同軸ケーブルで、固定されたパラボラ アンテナに接続している場合、数字を当てはめると次のようになります。
• ブリッジ:20 dBm
• 50 フィートのケーブル:3.3 dBm(ケーブル損失のため、負の値)
• パラボラ アンテナ:21 dBi
• EIRP:37.7 dBm
詳細については、Cisco TechNote『 RF Power Values 』(http://www.cisco.com/en/US/tech/tk722/tk809/technologies_tech_note09186a00800e90fe.shtml)を参照してください。
RF 導入の計画
RF 設計における考慮事項のほとんどは、相互に依存しているか、または、実装に依存しています。したがって、要件および環境の大部分に対して 万能な テンプレートはありません。
Cisco Prime Infrastructure の統合された RF 予測ツールを使用すると、CAPWAP AP の配置、設定、パフォーマンスやカバレッジの予測などの、詳細な無線 LAN の設計を作成できます。IT 担当者は、Cisco Prime Infrastructure に実際のフロア図面をインポートし、さまざまなビルディング コンポーネントに RF 特性を割り当てて、設計精度を高めることができます。
Cisco Prime Infrastructure のグラフィカルなヒート マップは、IT 担当者が、予想される無線 LAN の動作を視覚的に表現して、計画をより容易にし、導入をより迅速化するために役立ちます。Cisco Prime Infrastructure には、組織が不規則な形状のビルでの WLAN 展開の設計およびサポートを容易に行えるようにするための描画ツールが用意されています。図 3-4 は、計画ツールの例を示します。
図 3-4 Cisco Prime Infrastructure の計画ツール
データ専用の導入
データ専用の導入の場合、大きなオーバーラップは必要ありません。これは、802.11 クライアントが、データ レートを下げ、時間をかけて転送することで、近くの AP からの低レベルの信号に応答するからです。必要なオーバーラップは、「WLAN のデータ レート要件」で説明されているように、WLAN のデータ レート要件によって決まります。データ専用ネットワークでは、AP 間の最適な距離は、通常約 120 ~130 フィートです。ただし、AP の間隔を見積もる際は、壁の密度、機械、エレベータ、スチール製のケージがある広い空間など、RF カバレッジに影響を与えるオブジェクトの要素を念頭に置くようにしてください。結果は、RF 環境によって異なる可能性があります。無線リソース管理(RRM、WLC における Auto-RF とも呼ばれます)はこのような導入向けに開発されたもので、RF カバレッジを制御する上で非常に便利です。
音声導入
図 3-5 は、音声ネットワークのパターンとオーバーラップを示しています。
図 3-5 音声用の単一フロア サイトの調査
AP は互いに近くにまとめられ、データ専用の導入に比べ、多くのオーバーラップがあります。これは、音声クライアントは、パケットがドロップされないように、より良い AP に移動する必要があるからです。また、通常は、従来よりも小規模のセルで実行し、オーバーラップしているセルが -67 dBm 以上になるようにします。これは、1 つのセル全体における同質性を高め、クライアント デバイスでのプロセッサの負荷を減らすなど、さまざまな効果をもたらし、リンクの安定性を高め、遅延を減らします。定義されたエリアで必要な AP は 1 つだけですが、遅延およびロード バランシングの対策として、オーバーラップしていないチャネルに 2 つの AP を設置し、その導入において受信信号強度表示(RSSI)が常に 35 を超えるようにすることを推奨します。たとえば、Cisco 792x VoIP 電話機の導入の場合、導入において RSSI が常に 35 を超えるようにすることを推奨します。これは VoIP 電話の受信率を高めると同時に、join 超過をある程度許容するためです。また、電話に対するローミング オプションが強化されます。
低ノイズ バックグラウンドを配慮した設計は、セル内の比較的高いエネルギー密度と同様に重要であることを、忘れないでください。これは、AP に対して最適なベースライン電力設定が 35 ~ 50 mW の範囲内であることを意味します。これには通常、100 mW でカバレッジ モデルを導入する場合よりも約 15% 多い AP が必要となります。
既存の WLAN、不正クライアント、802.11 に準拠していない不正な製品による干渉(たとえば、電子レンジや各種コードレス電話)など、問題のある特定のエリアや干渉の原因となる可能性があるものを特定して、その特徴を調べるには、事前のサイト サーベイが有効です。すべての利害関係者によって確認され認証される必要がある設計に従い、カバレッジ モデルが、利害関係者によって示された機能要件に準拠していることを確認するために、事後のサイト サーベイを究極の監査メカニズムとして考える必要があります。サイト サーベイの詳細については、『 Cisco VoWLAN Troubleshooting Guide: Site Survey and RF Design Validation 』を参照してください。
http://www.cisco.com/en/US/docs/wireless/technology/vowlan/troubleshooting/8_Site_Survey_RF_Design_Valid.html
間隔を見積もる際は、RF 環境によって結果が異なる可能性があるため、壁の密度、機械、エレベータ、スチール製のケージがある広い空間など、RF カバレッジに影響を与えるオブジェクトの要素を忘れないようにしてください。結果は、RF 環境によって異なる可能性があります。フォークリフト、人々の集団、クレーンや同様の搬送装置によってエリアを移動する大きな物体など、一時的な動きも考慮に含めるようにします。
WLC は一般に、サイトの予備評価( 予測的なサイト サーベイ )に非常に効果的な方法で、WLAN インフラストラクチャを高速に導入し、エリアの RF 測定に使用できます。医療、小売、製造業界などで一般的に見られる複雑なエリアには、サイト サーベイをエンドユーザに実施してもらうことも効果的な方法です。無線音声の導入の詳細については、を参照してください。
WLAN のデータ レート要件
データ レートは AP のカバレッジ エリアに影響を与えます。図 3-7 に示すように、データ レートが低い場合(1 Mbps など)は、データ レートが高い場合(54 Mbps など)よりも AP からのカバレッジ エリアが広域になります(ただし、この図は正確な比率で描かれていません)。つまり、図 3-8 に示すように、データ レート(および電力レベル)はカバレッジとその結果として異なるデータ レートに対して設置が必要な AP の数に影響します。計画プロセスの一部として、必要なデータ レート、必要な範囲、および必要な信頼性を考慮します。
カバレッジ エリアに対するデータ レート
AP では、無線リンク上で異なる符号化技法を使用して異なるデータ レートを実現しており、データがノイズからより簡単に回復されるようになります。これは、さまざまなレシーバ感度でさまざまなデータ レートに対して確認されることです。1 Mbps のデータ レートでひとつのパケットに対して送信される シンボル (かけらの集まり)は、11 Mbps で同じパケットに使用されるシンボルの数を上回ります。これは、低いデータ レートでデータを送信する方が、高いビット レートで同じデータを送信するよりも時間がかかることを意味します。また、無線にアソシエートされているクライアントが複数ある場合は、同じ長さのパケットの送信により多くの時間がかかるため、データ レートが低いクライアントが、データ レートの高いクライアントの最大データ スループットに影響を与えます。
図 3-7 に示されているとおり、実際のカバレッジ直径は、環境、電力レベル、アンテナ ゲインなどの要因によって異なります。
図 3-7 カバレッジと比較したデータ レート
たとえば、屋内で NIC カード上の標準アンテナと AP を使用した場合、1 Mbps の円の直径は約 700 フィート(210 m)となり、11 Mbps の円の直径は約 200 フィート(60 m)となります。これらのカバレッジの直径は屋内環境のタイプに左右されます。オープン プラン オフィスのビルディングは、オフィスが壁で仕切られているビルディングとは異なります。アンテナのゲインを上げると、距離が長くなり、放射が均等に行われるのではなく、特定方向に集中するように放射パターンの形状が変化します。
異なるデータ レートに対する AP の密度
信頼性のある、最小の必要なデータ レートは、電力設定、アンテナ ゲイン、および場所と共に、設計上必要となる AP の数に直接影響します。図 3-8 は、さまざまなデータ レートに対するカバレッジの比較と AP 密度を示しています。最小データ レートが 11 Mbps の 6 個の AP は、エリアに対して適切にサービスを提供できますが、同じカバレッジ エリアに対して 24 Mbps の最小データ レートをサポートするには、2 倍の数の AP が必要になり、48 Mbps の最小データ レートをサポートするにはさらに多くの AP が必要になります。
図 3-8 カバレッジの比較と異なるデータ レートに対する AP の密度
選択するデータ レートは、サポートされるアプリケーションの種類によって異なりますが、カバレッジとのトレードオフを考慮して、一般的な要件を上回らないようにする必要があります。一般的な WLAN 環境では、高いデータ レートは最大のスループットを提供し、パフォーマンスに関するサポートの問題を最小限に抑えます。通常は、物理的な機能や、ネットワークがクライアント集中型かどうかによって、範囲の要件が決まります。一部のクライアントは、高いデータ レート、広い範囲、または AP などのインフラストラクチャ要素の遅延やジッター レートをサポートしていないことがあります。
AP およびクライアントのデフォルトの設定を選択することで、すべてのデータ レートに対応するのは、一見論理的に見えます。ただし、最大のカバレッジが得られる最高のレートにデータ レートを制限することには、主に 3 つの理由があります。
• ブロードキャストおよびマルチキャスト(有効な場合)は、アソシエートされている最も低いデータ レートで送信されます(すべてのクライアントがパケットを受信できるようにするため)。これにより、低いレートでフレームが処理されるまでトラフィックは待機しなければならないため、WLAN のスループットは低下します。
• 低いビット レートはサービスされていますが、距離が遠いために、低いデータ レートでネットワークにアクセスしているクライアントは、遅延を発生させることで、全体のスループットを低下させます。ネットワークの他の部分にパフォーマンスの影響を与えないように、クライアントを近くの AP に強制的に移動させることを推奨します。
• たとえば、すべてのデータ レートをサポートするために 54 Mbps のサービスが AP で指定および提供されている場合、低レートのクライアントは、計画されているよりもカバレッジ エリアの広い AP にアソシエートします。これにより、セキュリティ上の危険が増し(ビルディング外部からのアソシエーションが許可されるため)、他の WLAN への干渉を生じる可能性があります。
クライアント密度とスループット要件
無線 AP には、データ レートよりも実際のクライアント データ スループットを低下させる 2 つの特性があります。
• AP の集約スループットは、データ レートより少なくなります。これは、802.11 がすべてのパケットを ACK する信頼性のある転送メカニズムを提供しており、結果としてチャネル上のスループットを半分にするからです。
• AP は共有ハブと類似しています。つまり、チャネルは、そのチャネル上の AP にアソシエートされているすべてのクライアントで共有されるため、衝突が発生してデータのスループットを低下させるのです。
これを考慮して、アクティブなアソシエーション(アクティブ クライアント)の最大数を見積もる必要があります。これは、特定のアプリケーションに応じて若干調整できます。
各セルは、セル内にあり所定の AP にアソシエートされているすべてのクライアント デバイスによって共有される集約スループットを提供します。これは、基本的にセルをコリジョン ドメインとして定義します。最小データ レートを決定したら、WLAN の各ユーザに提供する必要がある平均スループットの量を考えます。
簡単なバーコード スキャナ アプリケーションの例を考えましょう。802.11b AP を 11 Mbps のデータ レートで使用すると、集約スループットが 5 ~ 6 Mbps になるため、このようなアプリケーションに対する帯域幅としては、25 Kbps もあれば十分です。簡単な割り算を行うと、理論上サポート可能なユーザの数は 200 となります。この数字は、多数のクライアントに関連する 802.11 の管理オーバーヘッドおよびパケットの衝突のため、実際には達成できません。1 Mbps のシステムでは、20 人のユーザが同じ AP を同様の帯域幅で使用できます。
1 つの AP で提供される集約スループットを利用するユーザの数を抑えることで、ユーザあたりの潜在的なスループットを増やすことができます。これは、カバレッジ エリアのサイズを小さくするか、同じカバレッジ エリアの重複しないチャネルに 2 番目の AP を追加することで実現します。カバレッジ エリアを小さくするには、AP の電力またはアンテナ ゲインを減らすと、結果としてカバレッジ エリアのクライアントが少なくなります。これは、同じエリア全体に対してより多くの AP が必要になり、導入コストが増加することを意味しています。この例を図 3-9 に示します。
図 3-9 クライアント パフォーマンスを高めるために出力電力を変更
(注) AP の電力設定に合わせてクライアントの電力を調整する必要があります。クライアントの設定を高くしても、パフォーマンスの向上にはつながりません。また、近くのセルで干渉を発生させる可能性があります。
WLAN のカバレッジ要件
企業が異なれば、カバレッジ要件も異なります。WLAN に特別な共通エリアをカバーする必要がある企業もあれば、WLAN にビルディングの各フロアをカバーする必要がある企業もあります。また、階段の吹き抜けやエレベータを含むビルディング全体、または駐車場や車道を含むキャンパス全体を含める必要がある企業もあります。カバレッジ要件は、必要な AP の数に影響するだけでなく、特殊アンテナ、屋外の筐体、避雷器などの他の要件を生み出すこともあります。
電力レベルとアンテナの選択
電力レベルおよびアンテナの選択は、AP の配置を決めるうえで、密接に関連しています。これらの 2 つの内容によって、環境内の所定の場所のどこでどれくらい電波が強いのかが決まります。必要なカバレッジ エリアを作り出すのに適切なアンテナを選択することに加え、電力レベルを制御し、最適なチャネルおよび電力計画を提供する RRM を使用することを推奨します。詳細については、「無線リソース管理(Radio Resource Management)」を参照してください。
アンテナは、無線システムに対して、以下の 3 つの基本的な特性を示します。
• ゲイン:アンテナが放射する電力の密度を、すべての方向に均等に RF エネルギーを放射する理論上(等方性)のアンテナと比較して示すための尺度。
• 指向性:アンテナ伝送パターンの形状。アンテナの種類によって、放射パターンも異なり、ゲインの方向や大きさも変わってきます。
• 偏波:電界の方向を示します。RF 信号は電界と磁界の両方を持ちます。電界が垂直である場合、電波は垂直に偏波されていると言えます。
アンテナによく似た例に、懐中電灯の反射器があります。反射器が光線を特定の方向に集め、強めるのは、無線システムの RF ソースに対して皿型のパラボラ アンテナが行っていることとよく似ています。
ゲインおよび指向性によって、範囲、速度、および信頼性が決まります。偏波は信頼性とノイズの分離に影響します。
アンテナの選択に関する詳細については、次の Web サイトにあるシスコの『 Antenna Selection Guide 』を参照してください。
http://www.cisco.com/en/US/prod/collateral/wireless/ps7183/ps469/product_data_sheet09186a008008883b.html
全方向性アンテナ
全方向性アンテナは、等方性アンテナと比較すると、放射パターンが異なっています。等方性アンテナは理論上のもので、物理的なアンテナはすべて等方性アンテナとは異なります。水平面では 360 度、垂直面では 75 度のほとんど対称的な放射パターンを持ちます(ダイポール アンテナが垂直に立てられていることを前提としています)。全方向性アンテナの放射パターンは、通常、ドーナツのような形をしています。
アンテナの種類(全方向性または指向性)は、特定の方向、パターン、および密度で RF エネルギーの大部分を集中化することで RF カバレッジに影響を与えるため、アンテナの選択に応じて、アンテナによって生成される RF パターンを考慮する必要があります。
たとえば、図 3-10 の全方向性アンテナは、垂直方向および水平方向に RF 放射パターンを示しています。これは、実際の測定結果であり、完全なドーナツ状にはなっていませんが、なぜドーナツ型と呼ばれるようになったかは、この結果からもわかります。先に説明したように、他の RF に影響する要素(部屋にいる人々、施設に格納されているデバイスの量、屋外導入の場合は木に生えている葉、他の RF ソースからの干渉など)が実際の RF カバレッジ パターンに影響を与えることがあります。
図 3-10 全方向性の RF パターン
図 3-10 のパターンを見ると、特に、ビルディングの外部に向けて放射するパターンとなるように外壁に取り付ける場合、これは壁面で使用するには不向きなアンテナである可能性があります。
パッチ アンテナ
パッチ アンテナは指向性アンテナの一種です。パッチ アンテナは、壁面またはアンテナが取り付けられた場所から外に向けて電波を放射するだけでなく、背面および側面に突出部もあり、これによって弱いながらも使用できる可能性のある RF 領域が生成されます。図 3-11 は、壁面取り付けパッチ アンテナの実際の水平方向のパターンを示しています。カバレッジ エリアの大部分は、パッチ アンテナの前面ですが、背面および側面の中央エリアからの RF パターンに注意してください。アンテナによって放射パターンや無線接続できる場所が決まるため、アンテナの選択は重要です。
図 3-11 壁面取り付けパッチ アンテナの水平平面
ダイポール アンテナ
ダイポール アンテナ(図 3-12 を参照)は、無線アンテナの最も基本的なタイプです。これらは、さまざまな供給メカニズムおよび放射エレメントにより、さまざまな形状で提供されます。ダイポール アンテナは、理論的観点から最もシンプルかつ最も実用的なアンテナであり、今日最も一般的に見られるタイプのアンテナです。
図 3-12 ダイポール アンテナ
セキュリティ ポリシー要件
良く設計された RF 導入は、カバレッジが必要ないエリアの意図しない RF 放射を効果的に最小限に抑えられます。たとえば、WLAN カバレッジがビルディング内部のみで必要であり、外部では不要の場合、電力を正しく設定し、AP を適切に配置し、ビルディングまたはエリアの中心に向けて内側向きの指向性アンテナを正しく設置することで、ビルディング外部の RF カバレッジの量を最小化できます。RF 送信レベルを調整し、カバレッジ エリアに適切なアンテナを使用することで、ビルディング外部に放射される RF の量を減らし、セキュリティ上の露出を減少させることができます。このようにすることで、ビルディングまたはカバレッジ エリア外のハッカーに対する無線ネットワークの露出を抑え、無線ネットワークの侵害を避けることができます。
RF 環境
WLAN およびその機器のパフォーマンスは、その RF 環境、機器、選択、カバレッジ設計、監査の質、設定、および導入の質によって異なります。さまざまな環境上なマイナス要因が、チャネルに干渉し、なんらかの方法で信号の RF の特性を変え、無線通信を妨害する可能性があります。次に例を示します。
• 2.4 GHz のコードレス電話および Bluetooth
• 金網と化粧しっくいで作られた壁
• ファイリング キャビネットおよび金属製の装置ラック
• ワイヤレス カメラ
• スパークを発生する可能性のある高荷重の電動機、溶接機、ロボットなど
• 電波を反射させる追加金属が組み込まれた防火壁および防火扉
• コンクリート
• 冷蔵庫
• 空調配管
• アマチュア無線(ハム)などその他無線装置
• 電子レンジ、特に業務用塗料乾燥機器
• 指向性または再試行の増加をもたらす可能性のあるアンテナの近くの HVAC 導管
• フォークリフトや金属製の組み立てなどの大規模な一時的要素
• 自社の WLAN 機器とは別個の他の WLAN 機器(近隣の企業など)
多くの場合、上記の環境的要因をきっかけに、必要なすべてのエリアで必要なデータ レートがサポートされていることを確認するために、サイトサーベイが必要になります。WLC は、チャネルの特定および電力設定だけでなく、サイトの事前計画および RF の課題の初期調査に最適なリソースです。
RF 導入のベスト プラクティス
いくつかの設計上の考慮事項は、一般的なベスト プラクティスに従うことで対処できます。以下は、ほとんどの状況に適用されます。
• シスコでは、特定の AP に対して、次に示す AP あたりのユーザ数を推奨します。
– データだけのユーザの場合で 15 ~ 25
– (Cisco 792x VoIP 無線端末または同様の端末を使用する場合)データが存在するときの音声ユーザ数は 7 ~ 8
この数字は、あくまでも指針であり、使用する端末によって異なる可能性があります。端末の要件を確認してください。
• AP データ レートは、設計されたもの、およびサイトサーベイが実施されたものに限定する必要があります。低いデータ レートを有効にすると、同一チャネル干渉およびクライアントに対するスループットの変化が増す原因になることがあります。
• AP の数は、カバレッジおよびスループット要件に依存し、変化する可能性があります。たとえば、シスコ内部の情報システム(IS)グループは現在、データ専用動作については、3,000 平方フィートのフロア空間あたり 6 個の AP を使用しています。
(注) 環境の変動性に基づき、必要な AP の数および最適な配置を決めるために、サイトサーベイを実施することを推奨します。
WLAN カバレッジの手動による微調整
数多くの要素が WLAN カバレッジに影響します。次の内容で構成されています。
• チャネルおよびデータ レート選択
• ロケーションベースのサービス、音声、またはデータ専用の重複する WLAN カバレッジ
• 電力レベル
• アンテナの選択(指向性または全方向性アンテナ)
所定のデータ レートおよび場所に対して、WLAN 設計者がカバレッジ エリアまたはカバレッジ形状を変えるために、電力レベルを変更したり、別のアンテナの使用を決める可能性があります。電力レベルの変更やチャネルの選択は、次に示すように手動で行うことができます。または、Cisco Prime Infrastructure では RRM アルゴリズムにより、これを自動的に行えます。電力レベルおよびチャネルの管理には、RRM を使用することを推奨します。チャネル変更アルゴリズムは、干渉源が非常に破壊的(かつ永続的)な場合にだけチャネル トポロジの変更が行われるように、きわめて複雑であることを忘れないでください。変更した場合、クライアントの再アソシエートが必要になり、音声コールはドロップされます。AP 電力の変更はクライアントには影響しません。詳細については、を参照してください。
チャネルおよびデータ レートの選択
チャネル選択は、特定の規制区域で許可されている周波数に依存します。たとえば、北アメリカおよび ETSI 2.4 GHz 帯域では、1、6、および 11 の 3 つのオーバーラップしないチャネルの割り当てが許可されています。5 GHz 帯域では、23 のチャネルが許可されています。
チャネルは、次のようにカバレッジ セルに割り当てる必要があります。
• オーバーラップしているセルは、オーバーラップしていないチャネルを使用する必要があります。
• 複数のセルでチャネルを再利用する必要がある場合、これらのセル間のオーバーラップが最小限になるようにする必要があります。図 3-13 はこのパターンを示しています。802.11a/n/ac の展開では、セルがオーバーラップするので、チャネルの隣接を避ける必要があります。
チャネルの選択に関する推奨事項
図 3-13 は、一般的な 2.4 GHz 帯域のチャネルの設定例を示します。通常、チャネルの選択は自動的に行われますが、「手動でのチャネル選択」で説明されているように、手動で行うこともできます。
図 3-13 AP に割り当てられたチャネル
実際の展開での使用を考えているものと同じ周波数でサイトサーベイを行う必要があります。これらは接続と AP の最適な配置のための環境をテストするために使用されます。サイトによってはノイズ バックグラウンドが高い場合があり、1 つまたは複数のチャネルを使用するうえで妨げとなることがあります。サイト サーベイにより、特定の場所にある特定のチャネルが干渉およびマルチパスに対してどのように反応するかをより正確に把握できます。チャネル選択は、チャネル相互および隣接チャネルの干渉を計画するうえで役立つほか、周波数を再利用できる場所に関する情報を提供します(図 3-14 を参照)。
(注) サイト サーベイの詳細については、Bruce E.Alexander 著『802.11 Wireless Network Site Surveying and Installation』(2005 年、Cisco Press) を参照してください。
高層ビルディングでは、フロア間のセルのオーバーラップを確認します。特に、窓がある場合は、この項で説明される指針に従います。事例の約 10% では、慎重な事前計画と AP の場所の選択が必要になります。オフィス タワー、病院、大学の教室棟などの高層構造では、カバレッジ計画を三次元で考えます。802.11b および 802.11g の 2.4 GHz の波形は多くの壁を通過します。802.11a/n/ac の 5 GHz の波形では、周波数が高いため、所定の電力で適切なエネルギーの量を壁を通して送信する傾向は約半分になります。特に、2.4 GHz の WLAN では、カバレッジ モデルに両方のフロアの窓をカバーするセルが含まれている場合は、同じフロアだけでなく、隣接するフロアでのセルのオーバーラップも回避する必要があります。チャネルが 3 つだけの場合は、これは、慎重な三次元での計画を行うことで達成できます。
最終ステップとして、WLAN ネットワークのセットアップ後、必ず選択したチャネルを使用してサイトを再テストし、干渉を確認します。RRM アルゴリズムは理論であり、ネットワークの物理トポロジによって異なることを念頭においてください。したがって、AP の配置を三次元的に考慮し、定期的に最適なチャネル/電力設定を行うようにします。
手動でのチャネル選択
図 3-14 は、[wireless] メニューで、802.11b 無線の 1 つを設定するための Web ページのスクリーンショットです。右上では、チャネル 11 が手動で選択され、送信電力が最高レベルの 1 に設定されています(8 の場合、AP は最も低いレベルに設定)。
(注) 割り当て方法は、手動でこれらの設定を制御する必要がある場合を除いて、通常はグローバル設定のままにします。これにより、WLC が RRM で決定されたとおり、動的にチャネル番号を変更できます。詳細については、「無線リソース管理(Radio Resource Management)」を参照してください。
図 3-14 Channel Assignment
図 3-15 に示すように、デュアルバンド導入方式を実装することもできます。図の左上の部分は 802.11b/g/n だけの導入を示しています。この場合は、3 つのオーバーラップしないチャネル(チャネル 1、6、11)を使用して、相互チャネルの干渉が最小のパターンをマップしています。同じチャネル上にあり、別のアクセス ポイントのカバレッジ パターンとオーバーラップしながら十分な電力レベルで動作している、近くの AP からの干渉のことです。この図には、8 つのオーバーラップしないチャネルを使用した 802.11a/n/ac 導入も示されています。図の右側は、デュアルバンド導入でチャネルをマップする方法を示しています。
図 3-15 デュアル バンド導入の図
データ レートの選択
図 3-16 は、802.11b/g/n のグローバル パラメータを管理する Cisco WLC ウィンドウのスクリーンショットです。データ レート設定は画面の右側に示されています。
図 3-16 データ レートの割り当て
データ レート モード
無線デバイスでのデータ伝送に使用するデータ レートを指定するには、データ レート設定を使用します。データ レート、範囲、および信頼性の間には、直接的な相関関係があります。データ レートが低いほど、所定の電力設定に対する信頼性が増し、範囲が増えます。サイトは仕様によって異なりますが、カーペットを敷いた空間についての妥当な経験則では、データ レートが半減すると信頼性のレベルは半比例して増加します。範囲は通常、データ レートが半減にするたびに約 30% 増加するという要素の影響を受けます。-67 dBm のエッジ内のカバレッジ エリアの平方フィートの管理は、このテクニックを使用すると効率よく管理できます。クライアント、アプリケーション、またはユーザのニーズに合うようにデータ レートを設定することが、効果的な RF 設計要素となります。これは、AP の展開前に考慮する必要があります。
データ レートは 1 秒あたりのメガビット数で表します。各データ レート モードを Mandatory、Supported、または無効(Disabled)に設定できます。
必須モード(Mandatory)
必須モードでは、ユニキャストとマルチキャストの両方を含むすべてのパケットの伝送を許可します。少なくとも 1 つの AP のデータ レートが必須に設定され、この AP にアソシエートするすべてのクライアントが、ネットワークを使用するための無線でこのデータ レートを物理的にサポートできる必要があります。さらに、AP にアソシエートする無線クライアントについては、最も低い必須データ レートで現在パケットを受信でき、無線が最大の必須データ レートを物理的にサポートしている必要があります。複数のデータ レートが Mandatory に設定されている場合は、マルチキャストおよびブロードキャスト フレームは、アソシエートされているすべてのクライアントで共通の最高の必須伝送レート(すべてのクライアントで最も低い必須受信レート)で送信されます。これにより、すべてのクライアントがブロードキャスト パケットを受信できます。最も低い必須レートは通常、1 Mbps に設定されます。
サポート モード(Supported)
サポート モードでは、ユニキャスト パケットだけの伝送を許可します。AP はこのレートではユニキャスト パケットだけを送信します。マルチキャストおよびブロードキャスト パケットは、必須に設定されているデータ レートのいずれかで送信されます。無線クライアントは常に、可能な最も高いデータ レートで送受信しようとします。無線クライアントは、ユニキャスト パケットを送受信するために、Supported または Mandatory に設定された最も高いデータ レートを AP とネゴシエートします。無線クライアント デバイスは、任意の必須レートまたはネゴシエートしたレートより低いレートでブロードキャストまたはマルチキャスト パケットを受信できます。
無効(Disabled)
AP はこの設定ではデータを送信しません。
最低および最高の必須レートの設定
AP にアソシエートされている複数のクライアントは、干渉、障害物、または AP からの距離に応じて、異なる伝送レートを使用できます。たとえば、802.11b クライアントが AP から離れた場所にあり、それが原因で 1Mbps の速度でしか送受信できない場合、最低必須レートが(図 3-16 を参照)1 Mbps に設定されているため、クライアントは AP にアソシエートできます。54Mbps で AP にアソシエートしている別の 802.11g クライアントについては、すべてのクライアントが受信できる最高必須レートが 1 Mbps であるため、AP はブロードキャストおよびマルチキャストを 1 Mbps で送信します。最低必須レートが 5.5 Mbps に設定された場合、802.11b クライアントは、最低必須レートでブロードキャスト パケットを受信できないため、AP にアソシエートできません。
図 3-16 では、最高必須レートが 11 Mbps に設定されていることに注意してください。最高必須レートは、クライアントの無線が物理的に送信できる必要があるものを AP に示しています。これは、そのレートで実際にパケットを送受信するということではありません。無線が物理的にそのレートをサポートするということです。無線クライアントは、最低必須レートでパケットを受信できるだけで構いません。802.11b デバイスの無線は 11 Mbps で物理的に送信できるため、802.11b デバイスは図 3-16 に示されている AP にアソシエートできます。より高いデータ レート(18 Mbps など)が必須に設定されている場合は、802.11g クライアントだけが AP にアソシエートできます。
OFDM レート(1 Mbps より高いレート)を必須に設定すると、802.11b 接続は無効になります。この結果、たとえば、802.11g データ レートを必須にしたり、802.11 レートを無効にすることで、すべてのクライアントの最小伝送レートを設定することで、管理者は AP から 802.11b クライアントを排除できるようになります。このようなことが可能になるのは、同じ 1,500 バイトのパケットでも、より低いデータ レートでは送信に時間がかかるためです。したがって、AP にアソシエートされているすべての無線クライアントの実効データ レートも低くなります。
無線リソース管理(Radio Resource Management)
Cisco WLAN の スプリット MAC アーキテクチャ(を参照)では、802.11 のデータと管理プロトコルの処理および AP の機能は、CAPWAP AP と中央集中型 WLC の間で分散されています。具体的には、プローブ応答や MAC レイヤの暗号化など、時間依存型のアクティビティはアクセス ポイントで処理されます。一方システム規模での可視性が必要となるその他すべての機能は、WLC に送信されます。
WLAN のリアルタイム RF 管理には、システム全体の可視性が必要であり、WLC レベルで実装されています。コントローラは、RF ネットワーク グループ内の AP から転送される情報により、有効な RF チャネル/電力計画に関する必要な情報を学習します。
(注) RF ネットワーク グループ(RF グループ)は、モビリティ グループと同じではありません。モビリティ グループは、ローミング イベントでクライアントが IP アドレスを変更する必要がないように、1 ~ 24 WLC のモビリティ ドメインを定義します。これは、クライアントにサービスする新しい AP を扱う外部コントローラにアンカーコントローラからクライアント データを転送するための Ethernet over IP トンネルを構築することで実現されます。
リソース管理(RRM)は、RF カバレッジ エリアを管理するために、チャネルおよび電力(それぞれ、動的なチャネル割り当てと動的な送信電力の管理を使用)を調整できます。RRM により、AP の電力レベルは、近隣の AP とのベースラインの信号強度が -65 dBm(設定可能)に保たれるように調整されます( RRM 動作の概要を参照)。RRM は、現在 AP が配置されているチャネルで、近くに干渉源があることが分かると、AP のチャネルを調整します。無線ネットワークの感度およびスループットが最適になるよう、継続的に RF カバレッジを最適化します。
(注) RRM により実行される送信電力の制御および動的な周波数管理は、802.11h で定義された UNII-2 帯域での動作で要求される TPC や DFS ではありません。
RRM は RF 環境が静的ではないことを理解します。RF に影響を与えるさまざまな要素(部屋にいる人々、施設に格納されているデバイスの量、屋外展開の場合は木に生えている葉、他の RF ソースからの干渉など)が変化すると、RF カバレッジが、これらの要素および変化に応じて調整されます。これらの要素は常に変化しているため、RF カバレッジを定期的に監視し、それに応じて調整することが必要になります。
RRM 動作の概要
WLC でグループ モードが有効の場合、RF グループごとにリーダーを選び、RF ドメインを形成します。リーダーの役割は、WLC のグループからネットワーク全体のネイバー データ パケットを収集し、システム全体の最適なマップのために、チャネル/電力計算を行うことです。グループ モードが有効でない場合は、コントローラは、CAPWAP 経由で接続されている AP から集められたネイバー データだけに基づいて計算を行い、AP 間の信号を -70 dBm に最適化しようとします。
AP は RRM ネイバー パケットを定期的に、最大電力で送信します。AP はフルパワーで RRM ネイバー データ パケットを定期的に送信します(ネイバー パケットには環境の信号強度および無線要素に関する情報が含まれます)。これらのメッセージには、RF ネットワーク(グループ)名、BSSID、およびタイム スタンプのハッシュであるフィールドが含まれています。AP は、デフォルトの RF ネットワーク名( RF Network Name )で送信された RRM ネイバー パケットだけを受信します。
隣接 AP がネイバー パケットを受信すると、AP は RF コントローラに転送する前にメッセージを検証します。AP がメッセージ ハッシュを検証し、同じ RF グループに属することを確認すると、パケットは RF グループ コントローラに送信されます。それ以外の場合は、AP はネイバー パケットをドロップします。AP は、CAPWAP パケット ステータス フィールドを受信したネイバー パケットの SNR および RSSI に入力して、検証したメッセージを WLC に転送します。
表 3-4 は、システム内のデバイスのさまざまな機能の概要を示しています。
(注) TPC は電力レベルの下方調整だけを実行します。カバレッジ ホールの検出と修正は、AP の電力レベルを上昇させます。
表 3-4 デバイスの機能
|
|
RF グループ リーダー |
RF グループの WLC から AP ネイバー データを収集し、システム全体の TPC および DCA のために分析します。TPC は電力レベルの下方調整だけを行います。 |
ローカル WLC |
データを収集し、カバレッジ ホールの検出と修正アルゴリズムを実行します。クライアントで必要な場合は、電力レベルの上方調整を行います。 |
CAPWAP AP |
• 設定された間隔で、すべてのチャネルに関するネイバー メッセージを最大電力で送信します。 • 受信したネイバー メッセージのネイバー ハッシュを検証します。 • 設定したチャネルのノイズ、干渉、および IDS/不正の検出をスキャンし、失敗した場合は警告します。 |
RRM は、RRM アルゴリズムとは別個に行われる 不正の検出 (チャネル スキャン)と混同しないでください。AP は、不正な AP のすべての国別チャネルを定期的にスキャン(チャネル スキャン)することによって、不正の検出を実行します。AP は、他のチャネルを 60 ms 以内の周期でリッスンし、 オフチャネル に切り替えます。この間に収集されたパケット ヘッダーは WLC に送信され、そこで Service Set Identifier(SSID)が不正なクライアント、アドホック クライアント、および干渉する AP をブロードキャストするかどうか、不正な AP を検出するために分析されます。
デフォルトでは、各 AP はその時間のオフチャネルの約 0.2 パーセントを費やします。これは、WLAN のパフォーマンスに悪影響を与える可能性のある 2 つの隣接する AP が同時にスキャンを行うことのないように、すべての AP に静的に分散されます。AP が受信したクライアント パケットは、CAPWAP ステータス フィールドが追加されて WLC に転送されます。このフィールドは、パケットの受信時に AP によって受信するされたパケットの RSSI および信号対雑音比(SNR)を含む無線情報を WLC に提供します。
RRM コンフィギュレーションの設定
WLC の Auto-RF とも呼ばれる無線リソース管理(RRM)は、チャネル選択のグローバル設定を使用して WLC で有効化または無効化することができます(図 3-14 を参照)。このウィンドウから、AP のチャネルおよび送信電力レベルを手動で設定することもできます。さらに、WLC グローバル Auto-RF コンフィギュレーション ウィンドウから RRM を有効化または無効化できます。RRM が帯域ごとに実効されることに注意してください。5 GHz 帯域の RF グループの計算は、2.4 GHz 帯域の計算とは異なります。
Auto-RF コンフィギュレーション ウィンドウは、3 つのセクションに分かれており、右側のスクロール バーを使用して移動します。最初のセクション(図 3-17 を参照)は、動的なチャネルの割り当てに関する設定です。AP が配置されているチャネルを WLC で自動的に変更できるようにします(詳細については、 チャネルの動的割り当てを参照してください)。
図 3-17 Auto-RF(セクション 1)
(注) 詳細については、『Cisco Wireless LAN Controller Configuration Guide』(http://www.cisco.com/en/US/docs/wireless/controller/7.3/configuration/guide/b_cg73.html)を参照してください。
Auto-RF コンフィギュレーション ウィンドウ最初のグループの [RF Group] は、WLC がグループ内の他の WLC でのダイナミックなグループ化を組み合わせるかどうかを指定するために使用されます。ダイナミックなグループ化は、WLC が、ネイバーではあるがモビリティ グループの別の WLC にアソシエートされている可能性のある AP を確認するのに役立ちます。無効の場合、WLC は把握している(つまり、関連づけられている)アクセス ポイントのパラメータのみ最適化します。グループ リーダーは、選択されたリーダーの MAC アドレスを示します。上部にある [ Controller ] メニューをクリックし、[ Inventory ] を選択して、[WLC Inventory] ウィンドウでコントローラの MAC アドレスを確認できます。
2 番目のセクションは送信(Tx)の電力レベルの割り当て用です(図 3-18 を参照)。電力レベルでは、すべての AP の電力レベルを修正したり、自動調整したりできます。このウィンドウには、AP のネイバーの数と、調整している電力のしきい値も示されます。
図 3-18 Auto-RF(セクション 2)
3 番目のセクション(図 3-19)は、プロファイルのしきい値用です。
図 3-19 Auto-RF(セクション 3)
サンプルの「show ap auto-rf」コマンドの出力
WLC は、AP から渡された情報を分析し、これらのしきい値それぞれについて、パス(pass)またはフェイルのステータスを決定します。これらのパス/フェイルのプロファイルは、show ap auto-rf radio ap_name コマンドの出力によく見られます。このコマンドは、使用される無線から RF 統計情報を表示します。
(注) Monitor -> 802.11b/g/n Radios -> Detail ウィンドウでは、同じ情報をグラフ形式で見ることもできます。
show>ap auto-rf 802.11b <access point name>
Number of Slots . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2
AP Name . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . <AP name>
MAC Address . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 00:0b:85:1b:df:c0
Radio Type . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . RADIO_TYPE_80211b/g
Noise Profile . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . PASSED
Channel 1 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . -93 dBm
Channel 2 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . -90 dBm
Channel 11 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . -95 dBm
Interference Profile . . . . . . . . . . . . . . . . . FAILED
Channel 1 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . -69 dBm @ 31 % busy
Channel 2 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . -58 dBm @ 26 % busy
Channel 11 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . -68 dBm @ 26 % busy
Load Profile . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . PASSED
Receive Utilization . . . . . . . . . . . . . . . . . . 0 %
Transmit Utilization . . . . . . . . . . . . . . . . . . 0 %
Channel Utilization . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26 %
Attached Clients . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 clients
Coverage Profile . . . . . . . . . . . . . . . . . . .. PASSED
Failed Clients . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 0 clients
RSSI -100 dBm. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 0 clients
RSSI -92 dBm . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 0 clients
RSSI -52 dBm . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 clients
Client Signal To Noise Ratios
SNR 0 dBm . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 0 clients
SNR 5 dBm . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 0 clients
SNR 10 dBm . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 0 clients
SNR 45 dBm . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 clients
Channel Assignment Information
Current Channel Average Energy . . . . . . . . . . . . . -68 dBm
Previous Channel Average Energy . . . . . .. . . . . . . -51 dBm
Channel Change Count . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
Last Channel Change Time . . . . . . . . . . . . . . . . Thu Mar 9 12:18:03 2006
Recommend Best Channel . . . . . . . . . . . . . . . . . 11
RF Parameter Recommendations
Power Level . . . . . . . . . .. . . . . . . . . . . . . 1
RTS/CTS Threshold . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2347
Fragmentation Threshold . . . . . . . . . . . . . . . . . 2346
Antenna Pattern . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 0
次の項では、WLC RRM 設定の一部について説明します。
チャネルの動的割り当て
802.11 MAC レイヤでは、キャリア検知多重アクセス/衝突検出(CSMA/CA)が使用されます。 CSMA/CA では、近接する同じチャネル上の 2 つの AP は、無線チャネルを共有するため、異なるチャネルにある 2 つの AP と比較してキャパシティが約半分になります。これは、802.11 MAC では、チャネルがビジー状態であることが検知され、このチャネルが解放されるまで、フレームの送信が延期されることによるものです。802.11 MAC により、そのチャネル自体の AP セルの一部ではないトラフィックの伝送が延期させられた場合は、干渉とみなされます。同一チャネルの別の AP からの干渉は、通常、 同一チャネル干渉 と呼ばれ、大半の 2.4 GHz 802.11 の展開で発生します。これは、オーバーラップしないチャネルが十分ではないため、一部のチャネルのオーバーラップが発生するのを避けることができないからです。設計、計画、および動的な無線管理の目標の 1 つに、同一チャネル オーバーラップを最小限に抑えるということがあります。これにより、同一チャネル干渉が最小になり、AP トラフィックの容量が最大にされます。Cisco Unified Wireless Network では、AP のチャネルを動的に割り当てて、競合を避けることで、この問題および他の同一チャネル干渉の問題に対処します。WLC、つまり指定された WLC(RF グループ リーダー)は、システム全体を認識できるため、チャネルの 再利用 方法を制御し、同一チャネル干渉を最小限に抑えることができます。
WLC は、さまざまなリアルタイムの RF 特性を検証して、以下のようにチャネルの割り当てを効率的に処理します。
• ノイズ:ノイズにより、クライアントや AP の信号品質が制限されます。また、ノイズの範囲や周期は、さまざまです。干渉の種類、および干渉が及ぼす影響は多数あります。一例として、ノイズが増加すると、有効なセルのサイズが減少します。WLC は、定期的に、AP の RF 環境を再評価し、チャネルの選択を最適化して、システム全体の容量を維持しつつノイズの原因を回避します。過剰なノイズのためにチャネルが使用できなくなることは避けられます。また、他の無線ネットワークがある場合、WLC は、他のネットワークを補完するために、使用するチャネルを切り替えます。たとえば、チャネル 6 に 1 つのネットワークがある場合、隣接する WLAN はチャネル 1 または 11 に割り当てられます。これによって、周波数の共有が制限され、ネットワークのキャパシティが増加します。チャネルが使用中で、使用可能なキャパシティがない場合、WLC はこのチャネルを回避することがあります。
• クライアントの負荷:チャネル構造を変更する際には、クライアントの負荷を考慮して、現在 WLAN 上に存在するクライアントへの影響を最小限に抑えるようにします。WLC は、チャネルを最適に割り当てるため、周期的にチャネルの割り当てを監視します。ネットワークのパフォーマンスが大幅に向上する場合や、パフォーマンスが低い AP でパフォーマンスを向上させる場合にだけ、チャネルが変更されます。
WLC は、RF 特性情報を総合して、システム全体のチャネルの割り当てを決定します。最終的には、3 次元空間における最適なチャネル設定が実現します。この場合、全体的な WLAN の設定で、上下のフロアにある AP が考慮されます。
干渉の検出と回避
Cisco Unified Wireless Network の展開における干渉は、サービスの低下や損失につながる可能性がある同じ周波数帯の不要な RF 信号と定義されます。これらの信号は、特定の電子レンジやコードレス電話などの 802.11 または 802.11 以外の製品が原因となる場合があります。また、場合によっては、アーク溶接やレーダー施設などのさまざまな原因によって電磁干渉(EMI)が発生することもあります。AP は、常にすべてのチャネルをスキャンして干渉の主な原因を調べ、管理リンク インターフェイス(CAPWAP トンネル)経由で得られた情報を定期的に WLC に報告します。
802.11 の干渉の量が、事前に定義されたしきい値に達すると、WLC は、チャネルを再割り当てして干渉が存在するシステムのパフォーマンスを最適化しようと試みます。その場合、隣接する AP が同じチャネルに存在する結果となることがあります。これは、干渉のためにまったく使用できないようなチャネルに存在するよりは、論理的には優れたシナリオです。たとえば、WLC は、近接する AP をチャネル 1 またはチャネル 6 に切り替えることで、チャネル 11 上の不正な AP に応答できます。
送信電力の動的制御
カバレッジ エリアを維持するためには、AP の電力レベルを適切に保つことが不可欠です。これは、エリアをカバーする電力量が(最大ではなく)正確であるようにするためだけでなく、電力の過剰使用により放射エリアに対する不要な干渉が発生するのを防ぐためでもあります。また、AP の電力設定は、AP の故障が発生した場合に、リアルタイムでフェールオーバーされるように、ネットワークの冗長性を制御するためにも使用されます。WLC は、リアルタイムの WLAN の状態に基づいて AP の送信電力レベルを動的に制御するために使用されます。通常は、電力を必要最小限に抑えることでキャパシティを増やし、AP 間の干渉を減らすことができます。RRM は、近接する AP を -65 dBm で認識できるように AP のバランスを保とうとします。AP の停止が検知されると、その周囲の AP の電力が自動的に増加し、AP が使用不可能になったことで生じたカバレッジのギャップが埋められます。
RRM アルゴリズムは、ユーザ エクスペリエンスが最適になるように設計されています。たとえば、AP の電力がレベル 4(レベル 1 が最大でレベル 8 が最低)まで下がり、あるユーザの RSSI 値が許容しきい値を下回った場合、そのクライアントに対して最適なエクスペリエンスを提供できるように、AP の電力が増やされます。送信電力の動的制御(DTPC)が有効になっている場合、AP によりチャネルおよび送信電力が、 ビーコン (チャネル、RF 電力、ネットワーク名などの情報を含む情報要素)に追加されます。DTPC を使用しているクライアント デバイスは、この情報を受信して、自動的に設定を調整します。
カバレッジ ホールの検出と修正
カバレッジ ホールの検出および修正アルゴリズムは、クライアントの信号レベルの品質に基づいて、カバレッジ ホールを特定し、それらのクライアントがアソシエートされている AP の送信電力を増加させることを目的としています。
このアルゴリズムは、クライアントの信号対雑音比(SNR)レベルが指定された SNR しきい値を下回ったときに、カバレッジ ホールが存在するかどうかを確認します。SNR しきい値は、AP ごとに、主にそれぞれの AP の送信電力に基づいて決定されます。
1 つのクライアントの平均 SNR が、少なくとも 60 秒間しきい値を下回った場合は、WLAN クライアントがローミングできるロケーションがないことを示しているとみなされます。そのようなクライアントに対しては、AP の送信電力が増大され、カバレッジ ホールが修正されます。
クライアントとネットワークのロード バランシング
IEEE 802.11 規格では、クライアントがどのようなプロセスでどのような場合にローミングするかが定義されていないため、特定の状況におけるクライアントの動作を簡単に予測することはできません。たとえば、会議室のすべてのユーザが、空き容量は大量にあっても離れた場所にある複数の AP ではなく、近接した 1 つのアクセス ポイントにアソシエートされることがあります。
WLC では、すべての AP にクライアントがどのように分散されているかを示す、中央集中化されたビューが提供されます。これは、複数の 良好な AP が使用可能な場合に、新しいクライアントをネットワークのどこに接続するかを決定する際に使用されます。設定されている場合、WLC は、AP プローブ応答を活発に使用してクライアントを最適な AP に導き、WLAN のパフォーマンスを向上させることができます。その結果、無線ネットワーク全体にキャパシティが均等に分散されます。このロード バランシングは、クライアントが接続された後ではなく、クライアントがアソシエートするときに行われることを忘れないようにしてください。