概要
Cisco Unified Communications System は、標準ベースの Internet Protocol(IP; インターネット プロトコル)を使用して、単一のネットワーク インフラストラクチャ上でデータ、音声、およびビデオを伝送できるようにすることで、完全な統合通信を実現します。Cisco Unified Communications System は、Cisco IP ハードウェアおよびソフトウェア製品によって提供されるフレームワークを利用して、企業環境における現在および発展が予想される今後の通信ニーズに対応する、パフォーマンスと高機能をお届けします。また、この製品ファミリは、フィーチャ機能を最適化し、設定と保守の要件を減らし、他のさまざまなアプリケーションとの相互運用性を提供するように設計されています。さらに、このシステムは、このような機能を提供すると同時に、ネットワークで高レベルの可用性、Quality Of Service(QoS)、およびセキュリティをも適正に維持します。
Cisco Unified Communications System には、次の主要な通信技術が内蔵および統合されています。
• IP テレフォニー
IP テレフォニーとは、IP 標準を使用して、ネットワーク上で音声通信を伝送するためのテクノロジーです。Cisco Unified Communications には、コール処理エージェント、IP Phone(有線と無線の両方)、音声メッセージング システム、ビデオ デバイス、および多数の特殊アプリケーションなど、多彩なハードウェアおよびソフトウェア製品が含まれています。
• カスタマー コンタクト センター
Cisco IP Contact Center 製品は、グローバルに使用可能なネットワークを介したカスタマー コミュニケーションを効率的かつ効果的にする方法とアーキテクチャを組み合せたものです。企業でこのソリューションを使用すると、より広範なリソースから必要なものを引き出して、お客様にサービスを提供することができます。具体的には、大規模なエージェント プールへのアクセス、複数のコミュニケーション手段、およびカスタマー セルフヘルプ ツールなどがあります。
• ビデオ テレフォニー
Cisco Unified Video Advantage 製品を使用すると、Cisco Unified Communications と同じ IP ネットワークおよびコール処理エージェントを使用して、リアルタイムのビデオ通信およびコラボレーションを行うことができます。現在では、Cisco Unified Video Advantage により、ビデオ コールを発信することは電話番号をダイヤルするのと同じくらい簡単になっています。
• リッチメディア会議
Cisco Conference Connection および Cisco Unified MeetingPlace は、音声、ビデオ、および Web 会議に対応した IP ベースの統合ツール セットを使用して、仮想的な会議環境を拡張します。
• サードパーティ製アプリケーション
シスコでは最先端の企業と協力して、メッセージング、カスタマー ケア、およびワークフォース オプティマイゼーションなど、重要なビジネス ニーズに焦点を当てた革新的なサードパーティ製 IP 通信アプリケーションおよび製品を種類豊富に提供しています。
このマニュアルでは、次に示す Cisco Unified Communications System のコンポーネントについて、設計上のポイントを中心に説明します。
• Cisco Unified CallManager
• Cisco Unified Video Advantage
• Cisco Unified MeetingPlace
Cisco IP Contact Center など、その他の要素については、次の Web サイトで入手可能なマニュアルを参照してください。
http://www.cisco.com/go/srnd
http://www.cisco.com/go/unified-techinfo
Cisco Unified Communications 製品ファミリのその他のマニュアルは、次の Web サイトにもあります。
http://www.cisco.com
Cisco Unified Communications の概要
Cisco IP テレフォニーは、生産性を向上させ、音声とデータが別々になっているネットワークの管理と保守に関連したコストを削減しようとする組織に適したソリューションです。このソリューションは業界を先導するレベルのものです。Cisco IP ネットワーク インフラストラクチャの柔軟性と高度な機能性が提供するフレームワークにより新しいアプリケーションを迅速に導入することができます。それらは、デスクトップ IP テレフォニー、ユニファイド メッセージング、ビデオ テレフォニー、デスクトップ コラボレーション、エンタープライズ アプリケーションと IP Phone ディスプレイとの統合、コラボレーティブ IP コンタクト センターなどです。これらのアプリケーションにより、生産性が向上し、企業の収益が増大します。
図1-1 は、Cisco Unified CallManager をコール処理エージェントとして使用した、Cisco IP ネットワーク インフラストラクチャを利用する一般的な IP テレフォニーの配置を示しています。
図1-1 一般的な IP テレフォニーの配置
Cisco IP テレフォニーの基本アーキテクチャには、次の主要コンポーネントが含まれています(図1-1 を参照)。
• 「Cisco IP ネットワーク インフラストラクチャ」
• 「QoS」
• 「コール処理エージェント」
• 「通信エンドポイント」
• 「会議、メッセージング、およびコラボレーション機能」
• 「アプリケーション」
• 「セキュリティ」
Cisco IP ネットワーク インフラストラクチャ
ネットワーク インフラストラクチャには、Public Switched Telephone Network(PSTN; 公衆電話交換網)ゲートウェイ、アナログ電話サポート、および Digital Signal Processor(DSP; デジタル シグナル プロセッサ)ファームが含まれています。このインフラストラクチャは、ハードフォン、ソフトフォン、およびビデオ装置などの複数のクライアント タイプをサポートできます。また、インフラストラクチャには、従来型の PBX システム、ボイスメール システム、およびディレクトリ システムの統合に必要なインターフェイスと機能も組み込まれています。このインフラストラクチャの構築に使用される一般的な製品には、Cisco 音声ゲートウェイ(非ルーティング、ルーティング、および統合)、Cisco IOS と Catalyst スイッチ、および Cisco ルータなどがあります。
IP ネットワーク インフラストラクチャの詳細については、「ネットワーク インフラストラクチャ」の章を参照してください。
QoS
音声は、IP ネットワーク トラフィックの 1 つのクラスであり、パケット損失、遅延、遅延変動(ジッタとも呼ばれます)に関する厳密な要件があります。音声トラフィックに対するこれらの要件を満たすために、Cisco Unified Communications には、トラフィック分類、キューイング、トラフィック シェーピング、RTP ヘッダー圧縮(cRTP)、および Transmission Control Protocol(TCP)ヘッダー圧縮などの QoS 機能が組み込まれています。
Cisco Unified Communications の QoS コンポーネントは、Cisco IP ネットワーク インフラストラクチャの IP トラフィック管理、キューイング、およびシェーピングの豊富な機能により提供されます。このインフラストラクチャで IP テレフォニー用の QoS は、主に次の要素により実現可能となります。
• トラフィック マーキング
• 拡張キューイング サービス
• Link fragmentation and interleaving(LFI)
• Compressed RTP(cRTP)
• Low-Latency Queuing(LLQ; 低遅延キューイング)
• リンク効率
• トラフィック シェーピング
• コール アドミッション制御(帯域幅の割り当て)
QoS の詳細については、「ネットワーク インフラストラクチャ」の章にある QoS に関する各項を参照してください。
コール処理エージェント
Cisco Unified CallManager は、Cisco IP テレフォニーの中核となるコール処理ソフトウェアです。このソフトウェアは、Cisco IP ネットワーク インフラストラクチャ上にコール処理機能を構築します。Cisco Unified CallManager ソフトウェアは、企業の電話機能を拡張して、IP Phone、メディア処理装置、音声ゲートウェイ、およびマルチメディア アプリケーションなどのパケット テレフォニー ネットワーク デバイスとして利用できるようにします。
企業の規模、地域分布、および必要機能に応じて、次のモデルのいずれかに従って Cisco Unified CallManager のコール処理機能を配置できます。
• 単一サイト コール処理モデル
単一サイト モデルでは、各サイトまたはキャンパスに、コール処理機能を実行するための自身の Cisco Unified CallManager または Cisco Unified CallManager クラスタがあります。音声トラフィックは IP WAN を通過しません。その代わりに、外部コール、またはリモート サイトへのコールには、公衆電話交換網(PSTN)を使用します。
• 集中型コール処理を使用するマルチサイト WAN モデル
集中型コール処理を使用するマルチサイト WAN モデルでは、Cisco Unified CallManager クラスタはメイン(または中央)キャンパスに置かれ、遠隔地の支店との通信は、通常、IP WAN を介して行われます。中央サイトまたは IP WAN のどちらかがダウンしても、リモート サイトは、SRST(Survivable Remote Site Telephony)と呼ばれる機能を使用して、処理を続行できます。また、IP WAN が一時的にオーバーサブスクリプションになっても、リモート サイトでは、公衆網を介してコールを発信することができます。さらに、クラスタ間トランクを使用して、複数の中央サイトを相互接続することができます。
• 分散型コール処理を使用するマルチサイト WAN モデル
分散型コール処理を使用するマルチサイト WAN モデルでは、各サイトには、コール処理用の独自の Cisco Unified CallManager クラスタがあります。サイト間の通信は、通常、IP WAN を介して行われ、公衆網がバックアップ音声パスの役目をします。このモデルを使用する場合、IP WAN を経由して相互接続できるサイトの数には制限はありません。
• IP WAN を介したクラスタ化
QoS 機能に対応している IP WAN によって相互接続される複数サイト間で、単一の Cisco Unified CallManager クラスタを配置できます。コール処理の冗長性を実現するには、バックアップ サーバを各サイトにローカルに配置するか、または WAN を介したリモート サイトに配置します。WAN を介したクラスタ化は、ビジネスが継続して行われるサイトの障害回復プランとして、または中小規模サイト用の単一ソリューションとして適しています。
Cisco IP テレフォニー ネットワークの設計にこれらの配置モデルを適用する方法については、「IP テレフォニー配置モデル」を参照してください。
通信エンドポイント
通信エンドポイントとは、卓上電話機や、PC 上で実行されるソフトフォン アプリケーションなどの、ユーザ機器です。IP 環境では、各電話機はイーサネット接続を備えています。IP Phone は、従来の電話機に要求されるすべての機能に加えて、Web サイトへのアクセス機能などのより高度な機能も備えています。
IP テレフォニー エンドポイントには、デスクトップ Cisco Unified IP Phone のさまざまなモデルのほかに、次のデバイスがあります。
• ソフトウェアベースのエンドポイント
Cisco IP Communicator および Cisco Unified Personal Communicator は、ご使用のコンピュータをフル機能の IP Phone に変えるデスクトップ アプリケーションです。これらのアプリケーションには、コール トラッキング、デスクトップ コラボレーション、およびオンライン電話帳からのワンクリック ダイヤルといった機能が追加されています。Cisco IP Communicator は、拡張されたテレフォニー機能を PC から提供するソフトウェアベースのアプリケーションです。旅行時の補助的な電話機、在宅勤務用のデバイス、メインのデスクトップ電話機などとして機能することで、さまざまなお客様のニーズに適合するよう設計されています。Cisco Unified Personal Communicator では、幅広い通信アプリケーションとサービスが 1 つのデスクトップ コンピュータ アプリケーションとして統合され、音声、ビデオ、Web 会議、コール管理、電話帳、在席情報に対する強力なコミュニケーション ツールに迅速かつ簡単にアクセスできます。
• ビデオ テレフォニー エンドポイント
ビデオ テレフォニー機能は、現在、Cisco Unified CallManager と完全に統合されています。また、Cisco Unified Video Advantage では、Cisco Unified IP Phones および Cisco IP Communicator Softphone アプリケーションへのビデオ テレフォニー機能が提供されます。このビデオ テレフォニー ソリューションは、Windows ベースのアプリケーションと USB カメラで構成されています。ユーザは、使い慣れた電話機インターフェイスを使用して Cisco Unified IP Phone から通話を行い、余分なボタンを押したりマウスをクリックしたりすることなく、通話が PC 上にビデオ付きで表示されます。
• 無線エンドポイント
Cisco Wireless IP Phone 7920 は、シスコの IP Phone ファミリを 10/100 イーサネットから 802.11 Wireless LAN(WLAN; 無線 LAN)へと広げます。Cisco Wireless IP Phone 7920 には、他の Cisco Unified IP Phone と同様の機能を持つ複数のライン アピアランスが用意されています。また、Cisco Wireless IP Phone 7920 には、802.11b ネットワークの動作に対応した拡張 WLAN セキュリティと QoS も用意され、XML ベースのデータアクセスとサービスが提供されます。
各種のエンドポイントの詳細については、「IP テレフォニー エンドポイント」を参照してください。
会議、メッセージング、およびコラボレーション機能
Cisco Unified Communications は、会議、音声メッセージング、マルチメディア コラボレーションの各機能を提供する、次の追加機能とアプリケーションをサポートしています。
• 会議
Cisco Unified CallManager は、多数の他の Cisco ソフトウェアおよびハードウェア デバイスと連携し、Annunciator および Music On Hold など会議の全機能を提供することができます。Cisco Unified CallManager での会議機能の設計およびプロビジョニングの詳細については、「メディア リソース」を参照してください。
• 音声メッセージング
Cisco Unified CallManager には、サードパーティ製のボイスメール システムとの統合、および Cisco Unity および Unity Connection との統合によって、あらゆるボイスメールおよび音声メッセージング機能を提供する機能があります。サードパーティ製ボイスメール システムと Cisco Unified CallManager との統合の詳細については、「サードパーティ製のボイスメール設計」を参照してください。Cisco Unity および Unity Connection と Cisco Unified CallManager との統合の詳細については、「Cisco Unity」を参照してください。
• ビデオ テレフォニー
ビデオ テレフォニー機能が Cisco Unified CallManager に完全に統合され、シスコおよびシスコの戦略的パートナーから新しいビデオ エンドポイントも入手できるようになりました。ビデオ コールおよび会議は、IP phone で音声コールを発信するのと同じくらい簡単になりました。Cisco Unified CallManager でのビデオ機能の詳細については、「IP ビデオ テレフォニー」を参照してください。
• マルチメディア コラボレーション
Cisco Unified MeetingPlace は、音声、ビデオ、および Web 会議機能を統合した、完全なリッチメディア会議アプリケーションです。これを使用すると、リモート会議が、対面式の会議と同じくらい自然で効果的なものになります。Cisco Unified CallManager と MeetingPlace との統合の詳細については、「Cisco Unified MeetingPlace の統合」を参照してください。
アプリケーション
アプリケーションは、次のような高度なテレフォニー機能や統合されたネットワーク機能を追加することで、コール処理インフラストラクチャに基づいて Cisco IP テレフォニーのエンドツーエンド機能を拡張します。
• IP Phone サービス
Cisco Unified IP Phone Service は、Web クライアントやサーバ、および Cisco Unified IP Phone の XML 機能を利用するアプリケーションです。Cisco Unified IP Phone のファームウェアには、限定的な Web ブラウジング機能を可能にするマイクロブラウザが含まれています。これらの電話サービス アプリケーションは、ユーザのデスクトップ電話機上で直接実行することで、付加価値サービスと生産性向上を提供します。
• エクステンション モビリティ
Cisco Unified CallManager の Extension Mobility(EM; エクステンション モビリティ)機能では、ユーザがその電話機にログインすることで、一時的に Cisco Unified IP Phone を独自に設定することが可能です。ユーザがログインすると、IP Phone は、回線番号、短縮ダイヤル、サービス リンク、およびその他のユーザ固有の電話機のプロパティなど、ユーザの個別のデバイス プロファイル情報を受け入れます。EM 機能では、認証されたユーザのデバイス プロファイルに従って電話機が動的に設定されます。このアプリケーションの利点は、電話機が EM をサポートしている限り、ユーザが物理的な場所に関係なく、Cisco Unified CallManager クラスタ内の任意の電話機から自分の内線番号に接続できることです。
• Cisco Unified CallManager Assistant
Cisco Unified CallManager Assistant は、Cisco Unified CallManager に統合されたアプリケーションです。これを使用すると、1 人以上のマネージャに代わってアシスタントが着信コールを処理できます。Unified CallManager Assistant Console デスクトップ アプリケーションを使用すると、アシスタントが手早くマネージャの状態を確認し、コールをどうするかを決定できます。アシスタントは、自分の電話機のソフトキーを使用するか、キーボード ショートカット、ドロップダウン メニュー、またはマネージャのプロキシ回線へのコールのドラッグ アンド ドロップするなどのいずれかの PC インターフェイスを使用して、コールを操作できます。
• Attendant Console
Cisco Unified CallManager Attendant Console(AC)アプリケーションを使用すると、受け付け係が企業内でコールに応答して転送したり、コールを送信したりできます。係員は Windows 2000 または Windows XP を実行している PC に、クライアント/サーバ Java アプリケーションの Attendant Console をインストールできます。Attendant Console は Cisco CallManager Attendant Console Server に接続し、ログイン サービス、回線状態、およびディレクトリ サービスを提供します。1 つの AC サーバに複数の Attendant Console を接続できます。
• WebDialer
Cisco WebDialer は Cisco Unified CallManager のクリックダイヤル アプリケーションで、ユーザはサポートされる任意の電話デバイスを使用して自分の PC から簡単にコールを発信できるようになります。管理者が CTI リンクを管理したり、JTAPI または TAPI アプリケーションを作成したりするために必要なものはありません。Cisco WebDialer には、独自のユーザ インターフェイスと認証メカニズムを提供するための、簡単な Web アプリケーションと HTTP または Simple Objects Access Protocol(SOAP)が用意されているからです。どちらの方法でも、このソリューションは Cisco Unified CallManager クラスタ全体を、完全な冗長性を持ってサポートできます。
これらのアプリケーションの詳細については、「Cisco Unified CallManager アプリケーション」を参照してください。
セキュリティ
Cisco Unified Communications 配置のセキュリティに関しては、特に次の点を考慮する必要があります。
• 重要なアプリケーション サーバやネットワーク コンポーネントへの物理的なアクセスを制限するための物理的なセキュリティ
• 不正なログインや攻撃を防止するためのネットワーク アクセス セキュリティ
• Cisco Unified CallManager、エンドポイント デバイス、およびさまざまなディレクトリやデータベース用のセキュリティ対策
• さまざまなユーザ クラスの発信権限を定義するためのメカニズム
• セキュリティを向上させるための慎重なネットワーク設計と管理
IP テレフォニー ネットワークのセキュリティの詳細については、「音声セキュリティ」を参照してください。