高可用性シームレス冗長性
高可用シームレス冗長性(HSR)は、国際標準規格 IEC 62439-3-2016 第 5 条で定義されています。HSR は Parallel Redundancy Protocol(PRP)に似ていますが、リングトポロジで動作するように設計されています。任意のトポロジの並列独立ネットワーク 2 系統(LAN-A と LAN-B)の代わりに、HSR は反対方向のトラフィックを持つリングを定義します。このリングで、ポート A はトラフィックを反時計回りに送信し、ポート B はトラフィックを時計回りに送信します。
HSR は、パケット形式も PRP と異なります。スイッチが重複パケットを判別して廃棄できるように、追加のプロトコル固有情報がデータフレームとともに送信されます。PRP の場合、これは冗長制御トレーラ(RCT)と呼ばれるトレーラの一部として送信されますが、HSR の場合は HSR ヘッダーと呼ばれるヘッダーの一部として送信されます。RCT と HSR ヘッダーの両方にシーケンス番号が含まれています。これは、受信したフレームが最初のインスタンスか重複したインスタンスかを判断するために使用されるプライマリデータです。
(注) |
HSR は Cisco Catalyst IE9300 高耐久性シリーズ スイッチでサポートされています(サポートされている SKU については、このガイドの「ガイドラインと制限事項」セクションを参照してください)。このドキュメントでは、特に明記されていない限り、「スイッチ」という用語は Cisco Catalyst IE9300 高耐久性シリーズ スイッチを指します。 |
このリリースでは、スイッチは HSR 単一接続ノード(SAN)と 1 つの HSR インスタンスのみをサポートします。また、1 つの HSR または 1 つの PRP インスタンスのみ作成できます。PRP インスタンスを作成した場合、HSR インスタンスは作成できません。
HSR リングに接続された 2 つのインターフェイスを持つ非スイッチングノードは、「HSR 実装ダブル接続ノード(DANH)」と呼ばれます。PRP と同様に、単一接続ノード(SAN)は、RedBox(冗長ボックス)と呼ばれるデバイスを介して HSR リングに接続されます。RedBox は、RedBox が送信元または接続先となるすべてのトラフィックに対して DANH として機能します。スイッチは、HSR リングへのギガビット イーサネット ポート接続を使用した RedBox 機能を実装しています。
次の図は、IEC 62439-3 に記載されている HSR リングの例を示します。この例では、RedBox は Cisco Catalyst IE9300 高耐久性シリーズ スイッチです。
追加設定なしで HSR をサポートしないデバイス(ラップトップやプリンタなど)を HSR リングに直接接続することはできません。これは、すべての HSR 対応デバイスが、リングから受信するパケットの HSR ヘッダーを処理でき、リングに送信するすべてのパケットに HSR ヘッダーを追加できる必要があるためです。これらのノードは、RedBox を介して HSR リングに接続されます。上の図に示されているように、RedBox には DANH 側に 2 つのポートがあります。非 HSR SAN デバイスは、上流に位置するスイッチ ポートに接続されます。RedBox は、これらのデバイス向けに監視フレームを生成し、これらのデバイスがリング上で DANH デバイスとみなされるようにします。RedBox が DANH としてエミュレートするため、これらのデバイスは仮想ダブル接続ノード(VDAN)と呼ばれます。
ループ回避
HSR リング内の各ノードは、一方のポートから受信したフレームを HSR ペアの他方のポートに転送します。ループを避け、ネットワーク帯域を有効に使用するため、RedBox では、すでに同じ方向に転送されたフレームは送信されません。ノードがパケットをリングに入れると、そのパケットはループを避けるために次のように処理されます。
-
宛先がリング内のユニキャストパケット:ユニキャストパケットが宛先ノードに到達すると、パケットはそれぞれのノードによって消費され、転送されません。
-
宛先がリング内にないユニキャストパケット:このパケットはリング内に宛先ノードがないため、送信元ノードに到達するまでリング内のすべてのノードによって転送されます。各ノードは、送信したパケットの記録を、それが送信された方向とともに保持するため、送信元ノードは、パケットがループを 1 周したことを検出し、パケットを破棄します。
-
マルチキャストパケット:マルチキャストパケットには、このパケットのコンシューマが複数存在する可能性があるため、各ノードによって転送されます。このため、マルチキャストパケットは常に送信元ノードに到達します。ただし、すべてのノードは、受信したパケットをすでに送信インターフェイスを介して転送したかどうかを確認します。パケットが送信元ノードに到達すると、送信元ノードは、このパケットをすでに転送したことを確認し、再度転送せずにパケットを破棄します。
HSR RedBox の動作モード
最も基本的な動作モードは、HSR-SAN モード(シングル RedBox モード)です。このモードでは、RedBox を使用して SAN デバイスが HSR リングに接続されます。このモードでの Redbox の役割は、SAN デバイスをリングの VDAN として表すことです。
(注) |
このリリースでは、スイッチは HSR-SAN モードのみをサポートします。 |
HSR SAN モード
HSR-SAN モードでは、RedBox がホストに代わって HSR タグを挿入し、ノード自体から送信されたフレーム、重複フレーム、およびノードが一意の宛先であるフレームを除き、リングトラフィックを転送します。このモードでは、パケットが次のように処理されます。
-
送信元 DANH は上位レイヤから渡されたフレーム(C フレーム)を送信し、フレームの重複を識別するために HSR タグをプレフィックスとして付記してから、各ポートを介してフレーム(A フレームと B フレーム)を送信します。
-
宛先 DANH は、一定の間隔内に各ポートから 2 つの同一フレームを受信します。宛先 DANH は、最初のフレームの HSR タグを削除してから上位レイヤに渡し、重複フレームを破棄します。
-
HSR リング内の各ノードは、一方のポートから受信したフレームを HSR ペアの他方のポートに転送します。次の条件を満たした場合、ノードが一方のポートで受信したフレームを他方のポートに転送することはありません。
-
受信したフレームが、リングを回って発信元ノードに戻ってきたものである。
-
フレームが、受信ノードの上流のノードを宛先 MAC アドレスとするユニキャストフレームである。
-
ノードが同じフレームを同じ方向に送信したことがある。このルールによって、無限ループでフレームがリング内で回転し続けるのを回避する。
-
HSR の CDP と LLDP
HSR は Cisco Discovery Protocol(CDP)および Link Layer Discovery Protocol(LLDP)に対応しています。CDP および LLDP は、レイヤ 2 ネイバー探索プロトコルです。CDP と LLDP ではどちらも、デバイスに直接接続されているノードに関する情報が提供されます。また、ローカルおよびリモートインターフェイスやデバイス名などの追加情報も提供されます。
CDP または LLDP が有効になっている場合、その CDP または LLDP の情報を使用して HSR リング上の隣接ノードとそのステータスを検索できます。次に、各ノードのネイバー情報を使用して完全な HSR ネットワークトポロジを特定し、リング障害をデバッグおよび特定できます。
CDP と LLDP は、物理インターフェイスでのみ設定されます。
詳細については、「HSR リングの設定」および「設定の確認」を参照してください。
HSR アップリンクの冗長性に関する機能拡張
HSR アップリンクの冗長性に関する機能拡張により、2 つの個別のインターフェイスを 2 つの個別の HSR RedBox を介して HSR リングから上流に接続できるといった、柔軟な設計が可能になります。これにより、HSR リングの出口における単一障害点がなくなります。この機能を利用して高可用性を改善できるプロトコルの例には、HSRP、VRRP、REP などがあります。この機能拡張が行われる以前は、これらのプロトコルが冗長アップリンクで使用されていると、ネクストホップ スプリットブレイン状態や REP フェールオーバー時間の遅延など、望ましくない結果が発生することがありました。
次の図は、HSR リングからのアップリンク ネクストホップ ゲートウェイの冗長性を実現する、HSR と HSRP を使用したネットワークの例を示しています。
HSR のアップリンク冗長性を実装するには、fpgamode-DualUplinkEnhancement 機能が無効になっていないことを確認します。この機能は、ディストリビューション レイヤのデュアルルータ(この場合は HSRP)への接続をサポートするために必要です。
Switch#show hsr ring 1 detail | include fpgamode
fpgamode-DualUplinkEnhancement: Enabled
出力に「fpgamode-DualUplinkEnhancement,:Disabled 」と表示される場合は、次のコマンドを発行します。
Switch# conf t
Enter configuration commands, one per line. End with CNTL/Z.
Switch(config)# hsr-ring 1 fpgamode-DualUplinkEnhancement
Switch(config)# end
HSRP の設定
次の HSRP 設定の例は、上図の 2 つのディストリビューション スイッチ(アクティブとスタンバイ)に適用されます。次の設定では、HSRP がスイッチ仮想インターフェイス(SVI)で設定されています。
Active# conf t
Enter configuration commands, one per line. End with CNTL/Z.
Active(config)# interface vlan 10
Active(config-if)# ip address 30.30.30.2 255.255.255.0
Active(config-if)# standby 1 ip 30.30.30.1
Active(config-if)# standby 1 priority 120
Active(config-if)# end
Standby# conf t
Enter configuration commands, one per line. End with CNTL/Z.
Standby(config)# interface Vlan10
Standby(config-if)# ip address 30.30.30.4 255.255.255.0
Standby(config-if)# standby 1 ip 30.30.30.1
Standby(config-if)# end
Active# show standby
Vlan10 - Group 1
State is Active
8 state changes, last state change 00:03:55
Track object 1 (unknown)
Virtual IP address is 30.30.30.1
Active virtual MAC address is 0000.0c07.ac01 (MAC In Use)
Local virtual MAC address is 0000.0c07.ac01 (v1 default)
Hello time 200 msec, hold time 750 msec
Next hello sent in 0.176 secs
Preemption enabled, delay min 5 secs, reload 5 secs, sync 5 secs
Active router is local
Standby router is 30.30.30.4, priority 100 (expires in 0.656 sec)
Priority 120 (configured 120)
Group name is "hsrp-Vl10-1" (default)
FLAGS: 0/1
Active# show standby brief
P indicates configured to preempt.
|
Interface Grp Pri P State Active Standby Virtual IP
Vl10 1 120 P Active local 30.30.30.4 30.30.30.1
Standby# show standby
Vlan10 - Group 1
State is Standby
13 state changes, last state change 00:04:17
Track object 1 (unknown)
Virtual IP address is 30.30.30.1
Active virtual MAC address is 0000.0c07.ac01 (MAC Not In Use)
Local virtual MAC address is 0000.0c07.ac01 (v1 default)
Hello time 200 msec, hold time 750 msec
Next hello sent in 0.064 secs
Preemption enabled, delay min 5 secs, reload 5 secs, sync 5 secs
Active router is 30.30.30.2, priority 120 (expires in 0.816 sec)
Standby router is local
Priority 100 (default 100)
Group name is "hsrp-Vl10-1" (default)
FLAGS: 0/1
Standby# show standby brief
P indicates configured to preempt.
|
Interface Grp Pri P State Active Standby Virtual IP
Vl10 1 100 P Standby 30.30.30.2 local 30.30.30.1