Precision Time Protocol について
Precision Time Protocol(PTP)は、IEEE 1588 で、ネットワーク化された測定および制御システムのための高精度クロック同期として定義されており、さまざまな精度と安定性の分散デバイス クロックを含むパケットベース ネットワークでクロックを同期させるために開発されました。PTPは、産業用のネットワーク化された測定および制御システム向けに特別に設計されており、最小限の帯域幅とわずかな処理オーバーヘッドしか必要としないため、分散システムでの使用に最適です。
PTP 機能を有効にしたり、ルータで CLI を実行したりするには、Network Advantage ライセンスが必要です。
ライセンスレベルを network-advantage に設定するには、次の CLI を使用します。
license boot level network-advantage
Router#config terminal
Router(config)#license boot level network-advantage
Do you want to accept terms? Y
PTP を使用する理由
ピーク時課金、仮想発電機、停電の監視/管理などのスマート グリッド電力自動化アプリケーションは、非常に正確な時刻精度と安定性を必要とします。タイミングの精度は、ネットワーク監視の精度とトラブルシューティング能力を向上させます。
時刻精度および同期の提供に加えて、PTP メッセージベース プロトコルは、イーサネット ネットワークなどのパケットベース ネットワークに実装することもできます。イーサネット ネットワークで PTP を使用する利点は次のとおりです。
-
既存のイーサネット ネットワークでコストを削減でき、セットアップも容易
-
PTP データパケットは限られた帯域幅しか必要としない
メッセージベースの同期
クロックの同期を確保するために、PTP では、時刻送信側(グランドマスタークロック)と時刻受信側の間の通信パス遅延を正確に測定する必要があります。PTP は、遅延の測定結果を見極めるために、時刻源と時刻受信者の間でメッセージを送信します。次に、PTP は正確なメッセージ送受信時間を測定し、これらの時間を使用して通信パス遅延を計算します。その後、PTP は、計算された遅延に対してネットワーク データに含まれる現在の時刻情報を調整し、より正確な時刻情報を生成します。
この遅延測定原理によってネットワーク上のデバイス間のパス遅延が決定され、時刻源と時刻受信者の間で送信される一連のメッセージを使用して、この遅延に関してローカルクロックが調整されます。一方向の遅延時間は、送信メッセージと受信メッセージのパス遅延を平均化することによって計算されます。この計算は対称的な通信パスを前提としていますが、スイッチド ネットワークは、バッファリング プロセスのために必ずしも対称的な通信パスを持つとはかぎりません。
PTP は、透過クロックを使用し、スイッチをネットワーク上の時刻源と時刻受信者ノードに対して一時的に透過的にして、ネットワーク タイミング パケットの時間間隔フィールドの遅延を測定し、割り出す方式を提供します。エンドツーエンド透過クロックは、スイッチと同じ方法で、ネットワーク上のすべてのメッセージを転送します。
(注) |
Cisco PTP は、マルチキャスト PTP メッセージのみをサポートしています。 |
同期メッセージの詳細については、PTP イベント メッセージ シーケンスを参照してください。透過クロックがネットワーク遅延を計算する方法の詳細については、透過クロックを参照してください。
次の図に、グランドマスター クロック、境界クロック モードのスイッチ、およびデジタル リレーや保護デバイスなどのインテリジェント電子装置(IED)を含む標準的な 1588 PTP ネットワークを示します。この図では、Time Source 1 がグランドマスタークロックです。Time Source 1 が使用できなくなった場合、時刻受信者の境界クロックは同期のために Time Source 2 に切り替わります。
PTP イベント メッセージ シーケンス
ここでは、同期中に発生する PTP イベント メッセージ シーケンスについて説明します。
境界クロックとの同期
遅延要求/応答メカニズム用に設定された通常クロックと境界クロックは、次のイベント メッセージを使用してタイミング情報を生成し、伝えます。
-
Sync
-
Delay_Req
-
Follow_Up
-
Delay_Resp
これらのメッセージは、次のシーケンスで送信されます。
-
時刻源が、時刻受信者に Sync メッセージを送信し、それが送信された時刻(t1)を記録します。
-
時刻受信者が、Sync メッセージを受信し、受信した時刻(t2)を記録します。
-
時刻源が、Follow_Up メッセージにタイムスタンプ t1 を組み込むことによって、タイムスタンプ t1 を時刻受信者に伝えます。
-
時刻受信者が、時刻源に Delay_Req メッセージを送信し、それが送信された時刻(t3)を記録します。
-
時刻源が、Delay_Req メッセージを受信し、受信した時刻(t4)を記録します。
-
時刻源は、タイムスタンプ t4 を Delay_Resp メッセージに埋め込むことにより、タイムスタンプ t4 を時刻受信者に伝達します。
このシーケンスの後、時刻受信者は 4 つのタイムスタンプをすべて保有します。これらのタイムスタンプを使用して、時刻源に対する時刻受信者クロックのオフセットと、2 つのクロック間のメッセージの平均伝達時間を計算できます。
オフセット計算は、メッセージが時刻源から時刻受信者に伝達される時間が時刻受信者から時刻源に伝達されるために必要な時間と同じであるという前提に基づいています。この前提は、非対称的なパケット遅延時間のためにイーサネット ネットワーク上では必ずしも妥当ではありません。
ピアツーピア透過クロックとの同期
ネットワークの階層内に複数のレベルの境界クロックが含まれており、それらの間に非 PTP 対応デバイスがある場合は、同期の精度が低下します。
ラウンドトリップ時間は mean_path_delay/2 と等しいことが前提となっていますが、この前提はイーサネット ネットワークでは必ずしも妥当ではありません。精度を向上させるために、各中間クロックの滞留時間がエンドツーエンド透過クロックのオフセットに追加されます。ただし、滞留時間にはピア間のリンク遅延が考慮されていません。ピア間のリンク遅延はピアツーピア透過クロックによって処理されます。
ピアツーピア透過クロックは、ピア遅延メカニズムを実装する 2 つのクロック ポート間のリンク遅延を測定します。リンク遅延は、Sync メッセージと Follow_Up メッセージのタイミング情報を補正するために使用されます。
ピアツーピア透過クロックは、次のイベント メッセージを使用します。
-
Pdelay_Req
-
Pdelay_Resp
-
Pdelay_Resp_Follow_Up
これらのメッセージは、次のシーケンスで送信されます。
-
ポート 1 が、Pdelay_Req メッセージのタイムスタンプ t1 を生成します。
-
ポート 2 が、このメッセージを受信してタイムスタンプ t2 を生成します。
-
ポート 2 が、Pdelay_Resp メッセージを返してタイムスタンプ t3 を生成します。
2 つのポート間の周波数オフセットによるエラーを最小限に抑えるために、ポート 2 は、Pdelay_Reqメッセージを受信した後に、できるかぎり迅速に Pdelay_Resp メッセージを返します。
-
ポート 2 が、Pdelay_Resp メッセージと Pdelay_Resp_Follow_Up メッセージでそれぞれタイムスタンプ t2 とタイムスタンプ t3 を返します。
-
ポート 1 が、Pdelay_Resp メッセージを受信した後に、タイムスタンプ t4 を生成します。その後、ポート 1 が、4 つのタイムスタンプ(t1、t2、t3、t4)を使用して平均リンク遅延を計算します。
ローカル クロックの同期
理想的な PTP ネットワークでは、時刻源クロックと時刻受信者クロックは同じ周波数で動作します。ただし、このネットワークでは「ばらつき」が発生する可能性があります。ドリフトは、時刻源クロックと時刻受信者クロックの周波数差です。デバイスハードウェアのタイムスタンプ情報とフォローアップメッセージ(スイッチで代行受信)を使用してローカルクロックの周波数を調整し、時刻源クロックの周波数と一致させることによって、ばらつきを補うことができます。
ベスト マスター クロック アルゴリズム
ベスト マスター クロック アルゴリズム(BMCA)は PTP 機能の基盤です。BMCA は、ネットワーク上の各クロックが、そのサブドメイン内で認識できるすべてのクロック(そのクロック自体を含む)のうちで最適な時刻送信側クロックを決定する方法を指定します。BMCA はネットワーク上で継続的に動作し、ネットワーク構成における変更に対して迅速に調整します。
BMCA は、次の基準を使用して、サブドメイン内の最適な時刻送信側クロックを決定します。
-
クロック品質(たとえば、GPS は最高品質とみなされます)
-
クロックの時刻基準のクロック精度。
-
局部発振器の安定性
-
グランドマスターに最も近いクロック
BMCA は最適な時刻送信側クロックを特定するのみでなく、次のことを保証して、PTP ネットワーク上でのクロック競合の発生を確実に防止します。
-
クロックが相互にネゴシエートする必要がない。
-
時刻送信側クロックの識別プロセスの結果として、時刻送信側クロックが 2 つある、または時刻送信側クロックがないなどの誤設定をしない。
PTP クロック
PTP ネットワークは、PTP 対応デバイスと PTP を使用していないデバイスで構成されます。PTP 対応デバイスは、通常、次のクロック タイプで構成されます。
グランドマスター クロック
グランドマスタークロックは、サーバーの時刻源に物理的に接続されているネットワークデバイスです。すべてのクロックはグランドマスター クロックと同期します。
PTP ドメイン内では、グランドマスター クロックが、PTP によるクロック同期の主時刻源です。グランドマスター クロックは、通常、GPS や原子時計などの非常に正確な時刻源を持っています。ネットワークが外部時刻リファレンスを必要とせず、内部で同期する必要のみがある場合、グランドマスター クロックはフリー ランできます。
通常クロック
通常クロックは、単一の PTP ポートを持つ 1588 クロックで、次のいずれかのモードで動作できます。
-
サーバーモード:ネットワーク経由で 1 つまたは複数のクライアントクロックにタイミング情報を配信します。その結果、クライアントはクロックをサーバーに同期させることができます。
-
クライアントモード:クロックをサーバークロックに同期させます。2 つの異なるサーバークロックに接続するために、最大 2 つのインターフェイスでクライアントモードを同時に有効にできます。
通常クロックは、同期が必要なデバイスに接続されているネットワーク上のエンド ノードとして使用されるため、PTP ネットワーク上で最も一般的なクロック タイプです。
境界クロック
PTP ネットワークにおける境界クロックは、標準のネットワークにおけるスイッチやルータに代わる動作をします。境界クロックには複数の PTP ポートがあり、各ポートは個別の PTP 通信パスへのアクセスを提供します。境界クロックは、PTP ドメイン間のインターフェイスを提供します。このクロックは、すべての PTP メッセージを代行受信して処理し、他のすべてのネットワーク トラフィックを通過させます。また、境界クロックは、BMCA を使用して、任意のポートから見えるクロックから最善のものを選択します。選択したポートは非マスターモードに設定されます。マスターポートは下流に接続されたクロックを同期させ、非マスターポートは上流のマスタークロックと同期します。
透過クロック
PTP ネットワークの透過クロックの役割は、PTP イベント メッセージの一部である時間間隔フィールドを更新することです。この更新により、スイッチの遅延が補われ、1 ピコ秒未満の精度が実現されます。
次の 2 種類の透過クロックがあります。
エンドツーエンド(E2E)透過クロックは、SYNC メッセージと DELAY_REQUEST メッセージに関して PTP イベントメッセージ中継時間(「滞留時間」とも呼ばれる)を測定します。この測定された中継時間は、対応するメッセージのデータフィールド(補正フィールド)に追加されます。
-
SYNC メッセージの測定された中継時間は、対応する SYNC メッセージまたは FOLLOW_UP メッセージの補正フィールドに追加されます。
-
DELAY_REQUEST メッセージの測定された中継時間は、対応する DELAY_RESPONSE メッセージの補正フィールドに追加されます。
時刻受信側は、時刻受信側の時刻と時刻送信側の時刻間のオフセットを決定するときにこの情報を使用します。E2E 透過クロックは、リンク自体の伝播遅延は補正しません。
ピアツーピア(P2P)透過クロックは、前述のように、E2E 透過クロックと同じ方法で PTP イベントメッセージ中継時間を測定します。さらに、P2P 透過クロックは上流リンク遅延を測定します。上流リンク遅延は、上流の隣接する P2P 透過クロックと考慮対象の P2P 透過クロックの間の推定パケット伝搬遅延です。
これらの 2 つの時間(メッセージ中継時間と上流リンク遅延時間)は両方とも PTP イベントメッセージの補正フィールドに追加され、時刻受信者によって受信されるメッセージの補正フィールドにはすべてのリンク遅延の合計が含まれます。理論的には、これは、SYNC パケットのエンドツーエンドの遅延の合計(時刻源から時刻受信者まで)です。
次の図に、PTP ネットワーク内の時刻源/時刻受信者階層に含まれる PTP クロックを示します。
PTP プロファイル
ここでは、ルータ上で使用できる次の PTP プロファイルについて説明します。
-
Default プロファイル
-
Power プロファイル
-
802.1AS プロファイル
Cisco IOS-XE リリース 17.7.1 は、Power プロファイル 2011 をサポートします。これは、PC37.238-2011:電力システムアプリケーションでの IEEE 1588 Precision Time Protocol の使用に関する IEEE ドラフト標準プロファイルで定義されています。このマニュアルでは、この IEEE 1588 プロファイルおよび関連設定値を参照する際に、Power プロファイルモードと Default プロファイルモードという用語を使用します。
Cisco IOS-XE リリース 17.8.1 以降、Power プロファイル 2011 と Power プロファイル 2017 の 2 つの Power プロファイルがサポートされています。Power プロファイル 2017 は、電力システムアプリケーションでの IEEE 1588 Precision Time Protocol の使用に関する IEEE 標準 C37.238™-2017(IEEE Std C37.238-2011 の改訂版)で定義されています。
PTP プロファイルの IEEE 1588 定義は、「デバイスに適用可能な、許容される一連の PTP 機能」です。PTP プロファイルは、通常、特定のタイプのアプリケーションまたは環境に固有のものであり、次の値を定義します。
-
ベスト マスター クロック アルゴリズム オプション
-
設定管理オプション
-
パス遅延メカニズム(ピア遅延または遅延要求/応答)
-
すべての PTP 設定可能属性およびデータ セット メンバーの範囲とデフォルト値
-
必要な、許可される、または禁止されるトランスポート メカニズム
-
必要な、許可される、または禁止されるノード タイプ
-
必要な、許可される、または禁止されるオプション
Default プロファイルモード
ルータのデフォルトの PTP プロファイルモードは、Default プロファイルモードです。このモードでは、次のようになります。
-
IR8340 は、Default プロファイルで通常クロック(OC)スレーブ、境界クロック(BC)、および透過クロック(TC)をサポートします。
-
IR8340 は OC マスターをサポートしません。
-
バンドルまたはポートチャネルでのすべての PTP プロファイルは、IR8340 ではサポートされていません。
Power プロファイルモード
IEEE Power プロファイルは、変電所で使用される PTP ネットワークの特定の値または許容値を定義します。定義される値には、最適な物理層、PTP メッセージ用のより高位のプロトコル、および優先されるベスト マスター クロック アルゴリズムが含まれます。Power プロファイルの値は、変電所内、変電所間、および広い地理的領域にわたる一貫した信頼性のあるネットワーク時刻配信を保証します。
ルータは、次の方法で PTP 用に最適化されます。
-
ハードウェア:ルータは PTP 機能のために FPGA と PHY を使用します。PHY は、ファスト イーサネット ポートとギガビット イーサネット ポートにタイムスタンプを付与します。
-
ソフトウェア:Power プロファイルモードでは、ルータは、IEEE 1588 Power プロファイル標準で定義されている設定値を使用します。
次の表に、IEEE 1588 Power プロファイルで定義されている設定値と、ルータが各 PTP プロファイルモードで使用する値を示します。
PTP フィールド |
ルータ設定値 |
|
---|---|---|
Power プロファイルモード |
Default プロファイルモード |
|
メッセージ伝送 |
アクセスポート:タグなしレイヤ 2 パケット。 トランクポート:802.1Q タグ付きレイヤ 2 パケット。PTP パケットは PTP VLAN でタグ付けされます。PTP VLAN が設定されていない場合、パケットはネイティブ VLAN 上でタグなしになります。 |
レイヤ 3 パケット。デフォルトでは、802.1q タギングは無効になっています。 |
MAC アドレス:非ピア遅延メッセージ | 01-00-5e-00-01-81. | Default プロファイルは、すべての PTP メッセージに L3 トランスポート マルチキャスト アドレス 224.0.1.129 を使用します。同等の MAC アドレスは 01-00-5e-00-01-81 です。 |
MAC アドレス:ピア遅延メッセージ | 01-80-C2-00-00-0E. | このモードには適用されません。 |
ドメイン番号 | 0. | 0. |
パス遅延計算 | peer_delay メカニズムを使用するピアツーピア透過クロック。 | delay_request メカニズムを使用するエンドツーエンド透過クロック。 |
BMCA | 有効。 | 有効。 |
クロック タイプ | 2 ステップ。 | 2 ステップ。 |
時間スケール | エポック。 | エポック。 |
グランドマスター ID とローカル時刻の決定 | グランドマスター ID を示す PTP 固有のTLV。 | グランドマスター ID を示す PTP 固有のタイプ、長さ、値。 |
ネットワーク ホップを超えた時刻精度 | 16 ホップで、スレーブ デバイス同期精度は 1 usec(1 マイクロ秒)未満です。 | このモードでは適用されません。 |
802.1AS プロファイル
IEEE 802.1AS 標準規格『Timing and Synchronization for Time-Sensitive Applications in Bridged Local Area Networks』では、ブリッジ型および仮想ブリッジ型のローカルエリアネットワーク全体に時間的制約のあるアプリケーションの同期要件を確実に満たすために使用するプロトコルとプロシージャが規定されています。
802.1AS では、IEEE Std 802.1D -2004 と IEEE Std 802.1Q -2005.1 に照らして適用可能な場合に IEEE 1588(PTP)仕様を使用することが規定されています。802.1AS 標準規格は、3 つの 802.1 AVB ドラフト標準規格の 1 つです。イーサネットでの 802.1AS(802.3)は、IEEE 1588-2008 のプロファイルとして認定されています。これは、IEEE 1588 を簡素化し、さまざまなタイプのメディアでの同期を定義するものです。
(注) |
802.1 AS は、IR8340 プラットフォームでのみドメイン 0 で設定できます。 |
802.1AS の主要な特徴は次のとおりです。
-
イーサネット全二重リンクでは、ピア遅延メカニズムを使用します。
-
ドメイン内のすべてのデバイスは、802.1AS 対応である必要があります。
-
802.1AS パケットの転送は VLAN タグが付されていない L2 マルチキャストのみです。
-
これには 2 段階の処理が必要です(Follow_Up メッセージと Pdelay_Resp_Follow_Up メッセージを使用してタイムスタンプを伝えます)。
-
時間認識型ネットワークにはアクティブなグランドマスターが 1 つのみ存在します。つまり、802.1AS ドメインは 1 つのみです。
-
BMCA(ベスト マスター クロック アルゴリズム)は、次の例外を除き、IEEE 1588 で使用されているものと同じです。
-
受信側の時刻認識型システムが送信したものではないアナウンスメッセージが時刻受信側ポート上で受信されると、そのメッセージはただちに使用されます。つまり、外部時刻送信側の認定はありません。
-
BMCA が時刻送信側ポートであると判断したポートはただちに時刻送信側の状態になります。つまり、時刻送信側より前の状態はありません。
-
キャリブレーションされていない状態は必要ないため、使用されません。
-
すべての時刻認識型システムは、(システムがグランドマスターに対応していない場合でも)適切なマスターの選択に加える必要があります。
-
802.1AS は Time Sensitive Network(TSN)機能で使用されます。ただし、正確なタイミング配分メカニズムとして、802.1AS は TSN の設定や入力なしで単独で動作します。802.1AS 機能ソフトウェアの実装は、FPGA の既存のタイムスタンプ機能に基づいており、ハードウェアに対する他の PTP プロファイルにはない新しい要件はありません。
802.1AS のエンドツーエンドの時刻同期性能は次のとおりです。
-
6 つ以下の時刻認識型システム(つまり、7 ホップ以下)で分離された 2 つの時刻認識型システムは、定常状態で動作中はピークツーピーク 1 μs の以内で相互に同期されます。
-
7 ホップを超える性能は定義されていません。
PTP プロファイルの比較
プロファイル | Default(*) | Power プロファイル 2011 |
Power プロファイル 2017 |
802.1AS | ||
---|---|---|---|---|---|---|
標準(Standard) | IEEE1588 v2(J.3) | IEEE C37.238-2011 |
IEEE C37.238-2017 |
IEEE802.1AS | ||
モード | 境界 | エンドツーエンド透過 | 境界 | ピアツーピア透過 |
ピアツーピア透過 |
** |
パス遅延 | 遅延要求/応答 | 遅延要求/応答 | ピア遅延要求/応答 | ピア遅延要求/応答 |
ピア遅延要求/応答 |
ピア遅延要求/応答 |
PTP ドメイン内での PTP 以外のデバイスの許容 | 対応 | 対応 | 非対応 | 非対応 |
非対応 |
非対応 |
伝送方式 | UDP over IP(マルチキャスト) | L2 マルチキャスト |
L2 マルチキャスト |
L2 マルチキャスト |
* Default PTP プロファイル遅延要求/応答(IEEE1588 J.3 で定義)。
** 802.1AS のモード設定はありません。数学的に、これは P2P 透過と同等ですが、透過クロックとは動作が異なります。
PTP パケットのタグ付け動作
次の表に、Power プロファイルモードと Default プロファイルモードでのスイッチタグ付け動作を示します。
スイッチ ポート モード |
設定 |
Power プロファイルモード |
Default プロファイルモード |
||
---|---|---|---|---|---|
動作 |
優先度 |
動作 |
優先度 |
||
トランク ポート | vlan dot1q tag native enabled | スイッチがパケットをタグ付け | 7 | スイッチがパケットをタグ付け | 7 |
トランク ポート | vlan dot1q tag native disabled | PTP ソフトウェアがパケットをタグ付け | 4 | タグなし | なし |
アクセス ポート | 該当なし | タグなし | なし | タグなし | なし |
IR8340 ルータでサポートされる PTP クロックモード
PTP 同期動作は、ルータで設定する PTP クロックモードによって異なります。ルータは次のいずれかのグローバルモードに設定できます。
各クロックモードの設定のガイドラインについては、注意事項と制約事項を参照してください。
IR8340 は、次の PTP デバイスタイプをサポートします。
-
Default プロファイル/IEEE 1588 の OC スレーブ、境界クロック、および透過クロック。
-
Power プロファイルの境界クロックと透過クロック。
-
Dot1as プロファイルの境界クロック。
(注) |
現在、上記のプロファイルはすべて 2 ステップモードをサポートしていますが、IR8340 では 1 ステップモードをサポートしていません。 |
設定可能な境界クロック同期アルゴリズム
入力時刻エラーのフィルタリングと迅速な収束のどちらを優先させる必要があるかに応じて、さまざまな PTP 使用例に対応するように BC 同期アルゴリズムを設定できます。パケット遅延変動(PDV)をフィルタリングする PTP アルゴリズムは、フィルタリングしない PTP アルゴリズムより収束に時間がかかります。
デフォルトでは、BC は線形フィードバック コントローラ(つまりサーボ)を使用して BC の時刻出力を次のクロックに設定します。線形サーボは、少量の PDV フィルタリングを提供し、平均時間内に収束します。BC は、収束時間を改善するために、TC フィードフォワード アルゴリズムを使用して、ネットワーク要素フォワーディング プレーン(外乱)によって加えられた遅延を測定し、その測定された遅延を使用して時刻出力を制御することができます。
フィードフォワード BC により境界クロックが劇的に迅速化されますが、フィードフォワード BC は PDV をフィルタリングしません。適応型 PDV フィルタは、PTP をサポートせず、PDV を大幅に増加させるワイヤレス アクセス ポイント(AP)およびエンタープライズ スイッチ間で、PDV が存在する場合の高品質の時刻同期を実現します。
BC 同期には次の 3 つのオプション(すべて IEEE 1588-2008に準拠)があります。
-
フィードフォワード:非常に迅速かつ正確な収束を実現します。PDV フィルタリングはありません。
-
適応型:PDV 特性、ハードウェア構成、および環境条件に関する一連の仮定を考慮し、可能なかぎり多くの PDV をフィルタリングします。
(注)
適応型フィルタを使用する場合、スイッチは、ITU-T G.8261 で規定されている時間性能要件を満たしません。
-
線形:単純な線形フィルタリングを提供します(デフォルト)。
適応型モード(ptp transfer filter adaptive)は、Power プロファイルモードでは使用できません。
NTP から PTP への時間変換
NTP から PTP への時刻変換機能により、Network Time Protocol(NTP)を PTP の時刻源として使用できます。サイト内で非常に正確な同期を実現するために PTP を使用するお客様は、正確な同期を必要としないサイト間で NTP を使用できます。
NTP は、パケットベース ネットワーク間でクロックを同期させる従来の方法です。NTP は、時刻源とエンドデバイス間で双方向の時間転送メカニズムを使用します。NTP を使用すると、インターネットを介して数百ミリ秒以内に、緊密に制御された LAN では数ミリ秒以内にデバイスを同期させることができます。PTP の時刻源として NTP を使用できることで、お客様は、PTP ネットワークで生成されるデータと NTP が動作しているエンタープライズ データセンターのデータを関連付けることができます。
次の図に、産業自動化および制御システム リファレンス モデルに基づく産業ネットワークの例を示します。企業ゾーンと緩衝地帯では NTP が動作しており、製造ゾーンとセル/エリア ゾーンでは NTP を時刻源として PTP が動作しています。NTP から PTP への変換機能を持つスイッチは、セル/エリア ゾーン内のレイヤ 2 スイッチまたはディストリビューション スイッチのいずれかになります。
クロック マネージャ
クロック マネージャは、NTP を PTP に変換するシスコのソフトウェア アーキテクチャに含まれるコンポーネントで、さまざまなタイム サービスを継続的に追跡し、時刻をアクティブに提供するクロックを選択します。クロック マネージャは、状態の変化、うるう秒、サマータイムといった重要な変化をタイム サービスに通知します。
また、クロック マネージャは、最初に NTP または手動設定のクロックを選択し、NTP がアクティブでなければ、その後に PTP およびリアルタイム クロックを選択します。次の表に、クロック選択プロセスの結果を示します。
NTP(アクティブ)または手動設定 | PTP(アクティブ) | リアルタイム クロック | 選択される出力 |
---|---|---|---|
True | 考慮しない | 考慮しない | NTP または手動設定 |
False | True | 考慮しない | PTP |
False | False | True | リアルタイム クロック |
一般に、クロックマネージャは、Cisco IOS コマンドの show ptp lan clock と show clock によって表示される時刻が一致することを保証します。show clock コマンドは常に上記の優先順位に従いますが、show ptp lan clock の時刻は、次の 2 つの例外的な状況下で異なる可能性があります。
-
ルータが TC または BC のいずれかであり、ネットワーク上に他のアクティブなリファレンスが存在しない。下位互換性を保持するために、TC と BC はクロック マネージャから時刻を取得せず、ネットワークの PTP GMC からのみ時刻を取得する。アクティブな PTP GMC が存在しない場合、show clock コマンドと show ptp lan clock コマンドの出力で表示される時刻が異なる可能性がある。
-
ルータが、同調元の TC、スレーブポートを持つ BC、またはスレーブポートを持つ GMC-BC であり、PTP GMC によって提供される時刻が、NTP またはユーザー(つまり手動設定)によって提供される時刻と一致しない。この場合、PTP クロックは PTP GMC からの時刻を転送する必要がある。PTP クロックが PTP GMC に従わない場合、PTP ネットワークには 2 つの異なる時刻基準が存在することになり、PTP を使用するイベント アプリケーションの制御ループまたはシーケンスが破綻する。
次の表に、Cisco IOS および PTP クロックがさまざまな設定でどのように動作するかを示します。ほとんどの場合、2 つのクロックは一致します。ただし、場合によっては 2 つのクロックが異なります。それらの設定は、表で強調表示されています。
IOS クロックの設定 | PTP クロックの設定 | IOS クロックのソース | PTP クロックのソース |
---|---|---|---|
カレンダー |
BC モードの PTP BC、E2E TC、または GMC-BC |
PTP |
PTP |
手動 | BC モードの PTP BC、E2E TC、または GMC-BC | 手動 | PTP |
NTP | BC モードの PTP BC、E2E TC、または GMC-BC | NTP | PTP |
カレンダー | GM モードの GMC-BC | カレンダー | カレンダー |
手動 | GM モードの GMC-BC | 手動 | 手動 |
NTP | GM モードの GMC-BC | NTP | NTP |
GMC ブロック
GMC ブロックは、ネットワーク内のデバイスと同期しようとする不正な GMC から既存のネットワークを保護します。この機能は、転送モードを除くすべての PTP クロックモードでサポートされます。インターフェイスでこの機能を有効にすると、送出されるアナウンス、同期、およびフォローアップの PTP パケットのみが許可され、すべての流入するアナウンス、同期、およびフォローアップのパケットがこのインターフェイスで破棄されます。これにより、ポート状態が時刻受信側へ遷移してしまうことが防止されます。
不正な GMC に関する情報は、パケットを破棄する前にパケットから取得します。ただし、このインターフェイスからの出力 PTP パケットは引き続き許可されるため、GMC として機能できます。不正デバイスを特定するために、IP アドレスやクロック ID などの詳細がそのインターフェースを対象に保存され、表示されます。また、2 つの Syslog メッセージが生成され、不正デバイスの存在と除去を通知します。
複数の外部ネットワークが既存のシステムに接続されている疑いがある場合は、複数のポートで PTP gmc-block を設定できます。ポート単位の Syslog メッセージは、不正パケットを受信してから 30 秒後と、パケットの受信が停止してから 180 ~ 240 秒後に表示されます。リレーマイナーアラームと SNMP トラップも生成され、外部の不正デバイスの存在を通知します。
パケット フロー
次の図に、インターフェイスに GMC ブロック機能が設定された PTP ネットワークトポロジの例を示します。
PTP パケットは、既存のネットワークと同期しようとする外部ネットワークの GMC から発信されます。GMC ブロックが設定されたポートに PTP パケットが到達すると、システムがパケットから必要な情報を取得した後にそれらのパケットは破棄されます。
外部ネットワークからのパケットは制限されているため、システムは既存のシステム内に存在するローカル GMC と同期します。GMC ブロックが設定されているポートから発信される PTP パケットは、このインターフェイスからの出力が引き続き許可されます。そのため、既存のネットワーク内のデバイスを GMC にすることができます。
パケット フロー
次の図に、インターフェイスに GMC ブロック機能が設定された PTP ネットワークトポロジの例を示します。
PTP パケットは、既存のネットワークと同期しようとする外部ネットワークの GMC から発信されます。GMC ブロックが設定されたポートに PTP パケットが到達すると、システムがパケットから必要な情報を取得した後にそれらのパケットは破棄されます。
外部ネットワークからのパケットは制限されているため、システムは既存のシステム内に存在するローカル GMC と同期します。GMC ブロックが設定されているポートから発信される PTP パケットは、このインターフェイスからの出力が引き続き許可されます。そのため、既存のネットワーク内のデバイスを GMC にすることができます。
注意事項と制約事項
PTP メッセージ
-
Cisco PTP の実装では、2 ステップ クロックのみがサポートされ、1 ステップ クロックはサポートされません。
-
Cisco PTP は、マルチキャスト PTP メッセージのみをサポートしています。
PTP モードとプロファイル
-
ルータとグランドマスタークロックは、同じ PTP ドメイン内にある必要があります。
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Power プロファイルモードが有効になっている場合、ルータは、Organization_extension と Alternate_timescale の 2 つのタイプ、長さ、値(TLV)メッセージ拡張を含まない PTP アナウンスメッセージを破棄します。
グランドマスタークロックが PTP に準拠しておらず、これらの TLV なしでアナウンスメッセージを送信する場合は、次のコマンドを入力して、アナウンスメッセージを処理するようにルータを設定します。
ptp clock boundary domain 1 profile power allow-without-tlv
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ルータが Power プロファイルモードになっている場合は、peer_delay メカニズムのみがサポートされます。
Power プロファイル境界モードを有効にし、clock-port サブオプションを使用してインターフェイスを関連付けるには、次のコマンドを入力します。
ptp clock boundary domain 1 profile power clock-port 1 transport ethernet multicast interface gi0/1/1
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Power プロファイル透過モードを無効にするには、次のコマンドを入力します。これにより、ルータは転送モードに戻ります。
no ptp clock transparent domain x profile power
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E2E 透過クロックを有効にするには、次のコマンドを使用します。
ptp clock transparent domain x profile default
- Default プロファイルモードでは、delay_request メカニズムのみがサポートされます。
Default プロファイル境界クロックモードと、clock-port サブオプションに関連付けられたインターフェイスを有効にするには、次のコマンドを入力します。
ptp clock boundary domain 1 profile default clock-port 1 transport ipv4 multicast interface gi0/1/1
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802.1AS プロファイルにはクロックモード設定がありません。
パケットのフォーマット
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PTP メッセージのパケット フォーマットには、802.1q タグ付きパケットまたはタグなしパケットを使用できます。
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ルータは 802.1q QinQ トンネリングをサポートしていません。
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Power プロファイルモードでは、次のようになります。
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PTP インターフェイスがアクセス ポートとして設定されている場合、PTP メッセージはタグなしのレイヤ 2 パケットとして送信されます。
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PTP インターフェイスがトランク ポートとして設定されている場合、PTP パケットはポート ネイティブ VLAN で 802.1q タグ付きレイヤ 2 パケットとして送信されます。
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時刻受信者 IED はタグ付きパケットとタグなしパケットをサポートする必要があります。
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PTP パケットが E2E 透過クロック モードのネイティブ VLAN で送信される場合、それらはタグなしパケットとして送信されます。タグ付きパケットとして送信するようにスイッチを設定するには、グローバル コマンドの vlan dot1q tag native を入力します。
VLAN の設定
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トランク ポートで PTP VLAN を設定します。範囲は 1 ~ 4094 です。デフォルトは、トランク ポートのネイティブ VLAN です。
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境界モードでは、PTP VLAN 内の PTP パケットのみが処理され、他の VLAN からの PTP パケットは破棄されます。
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インターフェイスで PTP VLAN を設定する前に、PTP VLAN を作成し、トランクポートで許可する必要があります。
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ほとんどのグランドマスター クロックは、デフォルトの VLAN 0 を使用します。Power プロファイルモードでは、ルータのデフォルト VLAN は VLAN 1 で、VLAN 0 は予約されています。デフォルトのグランドマスター クロック VLAN を変更する場合は、0 以外の VLAN に変更する必要があります。
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グランドマスター クロックで VLAN が無効になっている場合は、PTP インターフェイスをアクセス ポートとして設定する必要があります。
クロックの設定
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すべての PHY PTP クロックはグランドマスター クロックと同期します。ルータシステムクロックは、PTP 設定およびプロセスの一部として同期しません。
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グランドマスタークロックで VLAN が有効になっている場合、グランドマスタークロックは、ルータ上の PTP ポートのネイティブ VLAN と同じ VLAN にある必要があります。
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グランドマスター クロックで VLAN が設定されている場合、グランドマスター クロックはタグなし PTP メッセージを破棄できます。ルータにタグ付きパケットをグランドマスタークロックに強制的に送信させるには、グローバルコマンドの vlan dot1q tag native を入力します。
PTP と他の機能との相互作用
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IR8340 は、ポートチャネルでの PTP をサポートしていません。
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次の PTP クロック モードは、単一の VLAN 上でのみ動作します。
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e2etransparent
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p2ptransparent
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NTP から PTP への変換
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NTP から PTP への機能は、Default E2E プロファイルと Power プロファイルをサポートします。
デフォルト設定
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ルータでは PTP がデフォルトで有効になっています。
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デフォルトでは、ルータは Default プロファイルで定義されている設定値を使用します(Default プロファイルモードが有効になっています)。
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ルータのデフォルトの PTP クロックモードは、E2E 透過クロック モードです。
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デフォルトの BC 同期アルゴリズムは、線形フィルタです。