はじめに
このドキュメントでは、一次群速度インターフェイス(PRI)T1 が正しく動作するかどうかをトラブルシューティングして確認する方法について説明します。
前提条件
要件
このドキュメントに関する固有の要件はありません。
使用するコンポーネント
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
このドキュメントの情報は、特定のラボ環境にあるデバイスに基づいて作成されました。このドキュメントで使用するすべてのデバイスは、クリアな(デフォルト)設定で作業を開始しています。本稼働中のネットワークでは、各コマンドによって起こる可能性がある影響を十分確認してください。
表記法
表記法の詳細については、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
背景説明
一次群速度インターフェイス(PRI)のトラブルシューティングを行う際には、両端点で T1 が正しく動作していることを確認します。これは、ISDN PRI シグナリングでは T1 物理レイヤの最上部が使用されているためです。T1 レイヤ 1 が正常に動作しているかどうかを確認するには、show controller t1 コマンドを使用します。どのカウンタにもエラーがないことを確認します。フレーミング、ライン コーディング、およびクロック ソースが正しく設定されていることを確認します。詳細については、『T1 Troubleshooting』のフローチャートを参照してください。正しい設定については、契約しているサービス プロバイダーにお問い合わせください。
レイヤ1の問題が解決し、show controller t1のカウンタがゼロになったら、ISDN PRIシグナリングのレイヤ2とレイヤ3のトラブルシューティングを始められます。
ヒント: clear countersコマンドを使用すると、T1カウンタをリセットできます。カウンタがクリアされると、T1 回線にエラーがあるかどうかが簡単にわかります。ただし、このコマンドを使用すると、他のすべてのshow interfacecountersもクリアされる点に注意してください。ランダム データの例は次のとおりです。
maui-nas-03#clear counters
Clear "show interface" counters on all interfaces [confirm]
maui-nas-03#
*Apr 12 03:34:12.143: %CLEAR-5-COUNTERS: Clear counter on all interfaces by console
show isdn status コマンドの使用
show isdn status コマンドは、ISDN のシグナリングに関する問題をトラブルシューティングする際に非常に便利です。show isdn status コマンドでは、すべての ISDN インターフェイスの現在のステータスの要約、およびレイヤ 1、2、3 のステータスが表示されます。debug isdn status コマンドの出力例を次に示します。
maui-nas-03#show isdn status
Global ISDN Switchtype = primary-5ess
ISDN Serial0:23 interface
dsl 0, interface ISDN Switchtype = primary-5ess
Layer 1 Status:
ACTIVE
Layer 2 Status:
TEI = 0, Ces = 1, SAPI = 0, State = MULTIPLE_FRAME_ESTABLISHED
Layer 3 Status:
5 Active Layer 3 Call(s)
Activated dsl 0 CCBs = 5
CCB:callid=7D5, sapi=0, ces=0, B-chan=9, calltype=DATA
CCB:callid=7D6, sapi=0, ces=0, B-chan=10, calltype=DATA
CCB:callid=7DA, sapi=0, ces=0, B-chan=11, calltype=DATA
CCB:callid=7DE, sapi=0, ces=0, B-chan=1, calltype=DATA
CCB:callid=7DF, sapi=0, ces=0, B-chan=2, calltype=DATA
The Free Channel Mask: 0x807FF8FC
ISDN Serial1:23 interface
dsl 1, interface ISDN Switchtype = primary-5ess
Layer 1 Status:
ACTIVE
Layer 2 Status:
TEI = 0, Ces = 1, SAPI = 0, State = TEI_ASSIGNED
Layer 3 Status:
0 Active Layer 3 Call(s)
Activated dsl 1 CCBs = 0
The Free Channel Mask: 0x807FFFFF
Total Allocated ISDN CCBs = 5
レイヤのステータスをチェックするには、次の手順を実行します。
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レイヤ 1 が ACTIVE 状態かどうかを確認します。レイヤ 1 のステータスは、T1 がダウンしている場合を除き、常に ACTIVE である必要があります。
show isdn status コマンドの出力にレイヤ 1 が DEACTIVATED と示された場合は、T1 回線の物理的な接続に問題があります。その回線が管理上の問題でダウンしている場合は、no shutdown コマンドを使用して、そのインターフェイスを再起動します。
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レイヤ 2 が MULTIPLE_FRAME_ESTABLISHED の状態にあることを確認します。レイヤ 2 はこの状態にある必要があります。この状態は、ルータが ISDN SABME(拡張非同期平衡モード設定)メッセージを受信し、UA(非番号制確認)フレームで応答して電話会社のスイッチとの間で同期を取ったことを意味します。さらに、2 つのデバイス間でレイヤ 2 フレーム(Receiver Ready、RR)のフレーム交換が絶えず行われている必要があります。これが行われると、ルータと ISDN スイッチは ISDN レイヤ 2 のプロトコルを完全に初期化したことになります。SABMEメッセージおよびRRメッセージの識別方法についての詳細は、「debug q921コマンドの使用」の項を参照してください。
レイヤ2がMULTIPLE_FRAME_ESTABLISHEDの状態でない場合は、debug isdn q921コマンドを使用して、問題を診断します。
なお、show isdn status コマンドで表示されるのは実行時のステータスの要約です。そのため、示されている状態が MULTIPLE_FRAME_ESTABLISHED であっても、レイヤ 2 の状態はアップとダウンを繰り返している可能性があります。レイヤ 2 の状態が安定していることを確認するには、debug isdn q921 コマンドを使用します。
この段階で、show controllers t1 コマンドを使用して T1 回線を再度チェックし、エラーがないことを確認します。エラーがある場合は、「T1トラブルシューティングフローチャート」を参照してください。
上に示した show isdn status の出力例では、T1 0(D チャネルが Serial 0:23 のもの)ではレイヤ 1 が ACTIVE で、レイヤ 2 が MULTIPLE_FRAME_ESTABLISHED です。これは、シグナリング チャネルが正常に動作しており、電話会社のスイッチとの間でレイヤ 2 のフレーム交換が行われていることを示しています。T1 1 の D チャネル(Serial1:23)では、レイヤ 1 が ACTIVE ですが、レイヤ 2 は TEI_ASSIGNED になっています。これは、この PRI ではスイッチとの間でレイヤ 2 のフレーム交換が行われていないことを示します。debug isdn q921コマンドを使用してISDNレイヤ2の問題のトラブルシューティングを行う前に、まずshow controller t1コマンドを使用してコントローラt1回線をチェックし、クリーンであること(つまり、エラーがないこと)を確認します。詳細は、「T1 トラブルシューティング」のフローチャートを参照してください。
debug isdn q921 コマンドの使用
この debug コマンドは、ISDN レイヤ 2 のシグナリングに関する問題をトラブルシューティングする際に便利です。debug isdn q921 コマンドは、D チャネル上のルータで行われるデータリンク層(レイヤ 2)のアクセス手順を表示します。これにより、問題のある場所が NAS、電話会社のスイッチ、または回線のいずれなのかがわかります。
logging console コマンドまたは terminal monitor コマンドを使用して、デバッグ メッセージを表示できるように設定します。
注:実稼働環境では、show logging コマンドを使用して、コンソールのロギングがオフになっていることを確認してください。コンソールのロギングがイネーブルになっていると、コンソールポートがログメッセージで過負荷状態になったときに、アクセスサーバが断続的に機能を停止する場合があります。no logging console コマンドを入力して、コンソール ポートでのロギングをオフにします。詳細は、「デバッグ コマンドに関する重要な情報」を参照してください。
注:debug isdn q921 がオンになっており、デバッグ出力を受信しない場合、最初にterminal monitorがオンになっていることを確認してください。次に、デバッグ出力が行われるように、当該のコントローラまたは D チャネルをリセットします。回線をリセットするには、clear controller t1 またはclear interface serial x:23 コマンドを使用します。
次の手順を実行して、ルータの D チャネル上でデータリンク層のアクセス手順が行われることを確認します。
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レイヤ 2 が安定していることを確認します。それには、デバッグ出力でメッセージを探します。次に示すdebug isdn q921の出力は、T1コントローラがshutdownおよびno shutdown(次の例を参照)の状態にある場合を示しています。
Mar 20 10:06:07.882: %ISDN-6-LAYER2DOWN: Layer 2 for Interface Se0:23,
TEI 0 changed to down
Mar 20 10:06:09.882: %LINK-3-UPDOWN: Interface Serial0:23,
changed state to down
Mar 20 10:06:21.274: %DSX1-6-CLOCK_CHANGE:
Controller 0 clock is now selected as clock source
Mar 20 10:06:21.702: %ISDN-6-LAYER2UP: Layer 2 for Interface Se0:23,
TEI 0 changed to up
Mar 20 10:06:22.494: %CONTROLLER-5-UPDOWN: Controller T1 0,
changed state to up
Mar 20 10:06:24.494: %LINK-3-UPDOWN: Interface Serial0:23,
changed state to up
回線がアップとダウンを繰り返している場合は、次のような出力が表示されます。
%ISDN-6-LAYER2DOWN: Layer 2 for Interface Se0:23, TEI 0 changed to down
%LINK-3-UPDOWN: Interface Serial0:23, changed state to down
%ISDN-6-LAYER2UP: Layer 2 for Interface Se0:23, TEI 0 changed to up
%LINK-3-UPDOWN: Interface Serial0:23, changed state to up
%ISDN-6-LAYER2DOWN: Layer 2 for Interface Se0:23, TEI 0 changed to down
%LINK-3-UPDOWN: Interface Serial0:23, changed state to down
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レイヤ 2 が安定している場合、ルータとスイッチは互いに同期を開始する必要があります。拡張非同期平衡モード設定(SABME)メッセージが画面に表示されます。このメッセージは、レイヤ 2 で他方との初期化が試みられていることを意味しています。いずれの側からも、メッセージを送信して他方との初期化を試行できます。ルータが SABME メッセージを受信した場合は、ルータが非番号制確認(UAf)フレームを返信する必要があります。これで、ルータのレイヤ 2 ステータスは MULTIPLE_FRAME_ESTABLISHED に変更されます。ランダム データの例は次のとおりです。
*Apr 12 04:14:43.967: ISDN Se0:23: RX <- SABMEp c/r=1 sapi=0 tei=0
*Apr 12 04:14:43.971: ISDN Se0:23: TX -> UAf c/r=1 sapi=0 tei=0
スイッチが UAf を受信し、認識すると、両方のデバイスが同期され、ルータと ISDN スイッチ間で定期的にキープアライブが交換されます。これらのメッセージは、Receiver Ready(RRf および RRp)の形式です。キープアライブは 10 秒間隔で交換され、双方が互いに通信可能であることが確認されます。例:
*Apr 12 05:19:56.183: ISDN Se0:23: RX <- RRp sapi=0 tei=0 nr=18
*Apr 12 05:19:56.183: ISDN Se0:23: TX -> RRf sapi=0 tei=0 nr=18
*Apr 12 05:20:06.247: ISDN Se0:23: RX <- RRp sapi=0 tei=0 nr=18
*Apr 12 05:20:06.247: ISDN Se0:23: TX -> RRf sapi=0 tei=0 nr=18
*Apr 12 05:20:16.311: ISDN Se0:23: RX <- RRp sapi=0 tei=0 nr=18
*Apr 12 05:20:16.311: ISDN Se0:23: TX -> RRf sapi=0 tei=0 nr=18
注:TX、RX、および矢印を参照してください。TX は、ルータがスイッチに対して信号を送信することを意味します。RX は、ルータがスイッチから信号を受信することを意味します。
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D チャネルが正しくアップせずに TEI_ASSIGNED の状態に留まったり、レイヤ 2 がアップとダウンを繰り返したりすることもあります。このような現象は、送信が片方向だけであるか、キープアライブ パケットの受信に失敗したことが原因と考えられます。どちらかの側が 4 回続けてキープアライブの受信に失敗すると、失敗した側からレイヤ 2 リンクの再初期化が試みられます。再初期化は、SABME メッセージを再度送信してプロセスを最初からやり直すことによって行われます。この現象が発生した場合は、これらのキープアライブが実際に回線上に送出されたかどうか、および片方の端点がキープアライブを受信した後に応答を返していないのかどうかを調べる必要があります。
問題を切り分けるには、debug isdn q921 および show interface serial x:23 コマンドを使用し、T1サービスプロバイダー(電話会社)と協力してルータ上で次の手順を実行します。
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show interface serial x:23 を何度か実行し、出力カウンタの値が増加することと、入出力の廃棄やエラーがないことを確認します。
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T1ループバックプラグ(必要に応じて)を作成し、これをトラブルシューティングの対象であるT1ポートに差し込みます。debug isdn q921 の出力には、SABME を送信したことと、次のメッセージを受信したことが示されている必要があります。
RX <- BAD FRAME(0x00017F)Line may be looped!
デバッグが表示されない場合は、対応するT1コントローラでashutdownおよびno shutdownを実行します。
BAD FRAME メッセージは、ルータが正しく動作していることを示しています。ルータが SABME パケットを送信すると、そのパケットはルータへループバックされます。そのため、送信したものと同じ SABME メッセージがルータで受信されます。ルータではこれを BAD FRAME としてマークし、エラー メッセージを表示します。エラー メッセージの内容は、回線がループしている可能性があるというものです。これはループ回線に想定されている動作であるため、問題は電話会社の ISDN スイッチか、分界点から電話会社のスイッチまでの配線にあると考えられます。
しかし、回線がループバックの状態で、ルータから送信した SABME が戻ってこない場合は、ループバック プラグの物理的な回線か、ルータのインターフェイス自体に問題がある可能性があります。『T1/56K回線のループバックテスト』を参照し、ハードワイヤループバックテストでルータからルータへのpingが成功するかどうかを確認してください。ルータに対して ping を送れない場合は、T1 コントローラのハードウェアに問題がある可能性があります。その場合は、TAC にサポートを依頼してください。ルータに対して ping ができる場合は、手順 c に進みます。
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ルータと T1 ポートを切り分けてテストし、これらに問題がないことが判明したら、電話会社と連携してさらにトラブルシューティングを行う必要があります。
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電話会社に問い合わせて、スイッチがキープアライブに応答しない理由を質問します。また、キープアライブ メッセージが届いているか、あるいはルータからの ISDN レイヤ 2 メッセージが着信しているかどうかを調査してもらいます。
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もう一度ループバック テストを実行します。ただし、今回は電話会社のスイッチまで範囲を広げます。この手順については、『T1/56K回線のループバックテスト』の記事を参照してください。
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電話会社のスイッチ技術担当者に依頼して、回線上にループを配置してもらい、この状態でもルータからルータ自身に ping できるかどうかをテストします。
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ルータからルータ自身に ping できない場合は、電話会社の ISDN スイッチまでの回線の配線に問題がある可能性があります。詳細は、『T1/56K回線のループバックテスト』を参照してください。
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ルータからルータ自身に ping できれば、ループバック テストは成功です。ループバックの設定を元に戻し、コントローラの設定を channel-group から pri-group に変更します。
maui-nas-03(config)#controller t1 0
maui-nas-0(config-controller)#no channel-group 0
maui-nas-0(config-controller)#pri-group timeslots 1-24
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コントローラに対してashutdownおよびno shutdownを実行し、ルータが次の内容を送信するかどうかを確認します。
ISDN Se0:23: TX -> SABMEp sapi = 0 tei = 0
次の受信についても確認します。
RX <- BAD FRAME(0x00017F)Line may be looped!
この送受信が行われれば、ルータの動作は正常で、電話会社への送信パスと受信パスにも問題はありません。つまり、問題は ISDN スイッチまたは ISDN ネットワークにあります。しかし、ルータが次の内容を送信し、
ISDN Se0:23: TX -> SABMEp sapi = 0 tei = 0
次の内容を受信していない場合は、
RX <- BAD FRAME(0x00017F)Line may be looped!
TACサポートに連絡して、サポートを依頼してください。
ISDNレイヤ3のトラブルシューティング
PRI に関連するレイヤ 2 の問題をすべて解決し、ハードウェアの誤動作がないことを確認したら、ISDN レイヤ 3 のトラブルシューティングに移る必要があります。詳細は、『debug isdn q931コマンドを使用したISDN BRIレイヤ3のトラブルシューティング』を参照してください。
注:このドキュメントではBRIに関するレイヤ3のトラブルシューティングについて説明していますが、同じ概念をレイヤ3 PRIのトラブルシューティングにも適用できます。また、レイヤ3での切断理由については、『debug isdn q931の接続解除原因コードについて』で調査できます。
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