このドキュメントでは、シスコ プラットフォーム上での Circuit Emulation over Packet/Structure-agnostic TDM over Packet(CEoP/SAToP)と一般的な時分割多重(TDM)クロック分散方式の概要を示します。ここで提示される使用例では、モバイル ワイヤレス バックホール展開での CEoP を取り上げていますが、このドキュメントは、モバイル ワイヤレス デバイスとそのロールの概要を包括的に示すものではありません。また、当然ながら SAToP はモバイル ワイヤレス バックホールの外部でも使用でき、インターネット プロトコル/マルチプロトコル ラベル スイッチング(IP/MPLS)コア経由で TDM 回線を転送するために使用される場合があります。そして、このドキュメントでは Label Distribution Protocol(LDP)と MPLS 転送についての基本的な知識があることを前提としています。関連リソースについては、巻末のリンクを参照してください。
このドキュメントに特有の要件はありません。
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
このドキュメントの情報は、特定のラボ環境にあるデバイスに基づいて作成されました。このドキュメントで使用するすべてのデバイスは、初期(デフォルト)設定の状態から起動しています。対象のネットワークが実稼働中である場合には、どのようなコマンドについても、その潜在的な影響について確実に理解しておく必要があります。
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
CEoP または SAToP は、パケットまたはラベル スイッチド ネットワークを介して TDM 転送を提供する方法を定義します。SAToP は非構造化転送を表した標準的な名称であるのに対し、CEoP は通常、SAToP や CES 構造化ペイロードに対応したシスコ デバイスを指して使用されます。TDM 転送を提供するために、地理的に分散された場所を繋ぐ多数の物理回線をリースしたり維持したりしなくても、CEoP を使用すれば、TDM エンドポイントは IP/MPLS コアを介して接続できます。従来の TDM 転送では、専用回線が銅または光回線交換デバイスを介してエンドポイント間に物理的に提供されます。次の図は一般的なトポロジを示しています。
このモバイル ワイヤレス バックホールの例では、遠端リモートから、セントラル オフィス(CO)または集約デバイスを収容するモバイル スイッチング センター(MSC)まで続く物理回線が必要です。特に無線通信事業者がリモートとセントラル オフィスの間に独自の施設を置いていない場合は、専用回線のコストが高くなる場合があります。さらに、通信事業者が所有する回線であっても維持費用が高額になる可能性があります。
SAToP では、TDM エンドポイントで IP/MPLS 接続が利用可能な環境であれば、別の方法で TDM エンドポイント間の物理回線を維持できます。
この場合もエンドポイントは TDM 回線で接続しますが、回線は SAToP に対応した各ローカル ルータで物理的に終端することに注目してください。次にルータは、これらの TDM フレームを回線エミュレーション(CEM)擬似回線(PW)経由の MPLS コアを介してリモート SAToP エンドポイントに転送します。これにより、TDM エンドポイントは物理回線で直接接続している場合と同様に通信できます。従来の TDM 転送と比べて、このようなソリューションへの移行は、IP/MPLS コアをすぐに使用でき、TDM エンドポイントを最終的にネイティブ イーサネット接続に移行する予定がある場合に有効です。
TDM エンドポイントが CEM 回線で通信する方法は、5 つの手順に要約されます。これらの 5 つの手順をテキストと図で説明します。
TDM エンドポイントによって未処理の TDM フレームが生成され、CEM ルータのコントローラに送信されます。
未処理の TDM フレームを受信した CEM ルータは、SAToP カプセル化と MPLS シム ヘッダーをフレームに追加して MPLS コアに転送します。
MPLS コアは、2 つの CEM エンドポイント間の PW 確立時に設定された LSP に基づいてフレームをラベル スイッチングします。
受信側の CEM エンドポイントがフレームを受信し、受信したラベルに基づいて適切な cem-group に関連付けます。フレームは cem-group デジッター バッファに到達し、クロック レートで TDM コントローラに送信されるまで待機します。
CEM ルータは、デジッター バッファから TDM エンドポイントへのフレームをシリアル化します。
同じプロセスが双方向で行われます。手順 4 で触れているデジッター バッファは重要です。物理 TDM 回線をエンドツーエンドでエミュレートするために、TDM コントローラでは、例外なくクロック レートで CEM フレームを送信/受信する必要があります。回線は CEoP/SAToP によってエミュレートされるため、IP/MPLS コアの遅延が CEM フレームに影響することは明白です。デジッター バッファとは、CEoP で可変遅延の影響を回避するための手段です。フレームは、TDM コントローラに確実に送信できるように、ミリ秒単位でサイズ設定されるバッファに保持されます。
デジッター バッファが 5 ミリ秒に設定されている場合は、5 ミリ秒分の CEM フレームがバッファに保持され、クロック レートで TDM コントローラに送信されます。パケットは設定された時間が経過するまでバッファに保持されるため、デジッター バッファ サイズに相当する伝送遅延が単方向で発生することに注意してください(パケットは、受信側の各 CEM ルータのデジッター バッファに到達します)。 つまり、CEM フレームの単方向の合計遅延は、「デジッター バッファ サイズ + 総ネットワーク遅延」に一致します。
デジッター バッファが空で、TDM コントローラに送信する CEM フレームがない場合、デジッター バッファ アンダーランが蓄積されます(確認するには show cem circuit detail コマンドを入力します)。 デジッター バッファが空になっている期間によっては、TDM エンドポイントがエラーやアラームを受信する可能性があります。CEM フレームのクリティカル パス上でトラフィックの競合が発生した場合に、可変遅延によってデジッター バッファが不足することがないよう、CEoP トラフィックに関する厳格な QoS が必要です。デジッター バッファが空になっている間は、CEM アイドルパターンが TDM コントローラに送信されます。このパターンはデフォルトで 0xFF/AIS に設定されています。デジッター バッファ サイズの値は設定可能で、想定されるネットワーク遅延に合わせて増やすことができます。
従来の物理 TDM 回線と同様に、TDM クロック同期は回線エミュレーション環境でもやはり重要です。TDM エンドポイントとルータの TDM コントローラは、従来どおり共通のクロック ソースに同期する必要があります。CEM エンドポイント間でのクロック配信には、数多くのさまざまな組み合わせがありますが、一般的な例をいくつか紹介します。
インバンド PW/アダプティブ クロッキング
インバンド PW(アダプティブ クロッキング)は、リモート CEM ルータがモバイル スイッチング センターまたはセントラル オフィス(CO)の単一のクロック ソースに同期するために使用されます。 この例では、ベース ステーション コントローラ(BSC)がマスター クロック ソースとして機能し、集約 CEM ルータ(7600 または ASR1k)は network-clock-select や clock source line を使用してそのクロック ソースを参照します。リモートCEMルータ(この場合はMWR2941)は、recovered-clock adaptive(cem-group)およびnetwork-clock-select 1 PACKET-TIMINGを設定します。これにより、MWR2941 は設定された中継 CEM ストリームからクロックを取得できるようになります。そして clock source internal を使用して、ベース トランシーバ ステーション(BTS)に接続する TDM コントローラにそのクロックを提供します。このシナリオを次の図に示します。
BITS クロッキング
CEM パス全体にクロック ソースが配信される BSC のようなエンドポイントの代わりに、CEM ルータは共通の BITS クロッキング参照に接続して同期できます。次の図では、両方の CEM ルータが共通のアップストリーム BITS クロック ソース(共通のアップストリーム GPS クロックなど)に接続されており、ルータはこのクロック ソースに基づいて自身の TDM コントローラのクロックを制御します。各ルータ上の専用 BITS コントローラとクロック ソースが BITS T1/E1 で接続されている必要があります。接続された TDM エンドポイントにクロック ソースを配信するように、両方のルータに network-clock-select 1 BITS および clock source internal を設定します。
同期イーサネット クロッキング
ITU-T G.8262/Y.1362 で定義されている同期イーサネット(SyncE)を使用すると、これに対応しているネットワーク デバイスはイーサネット ポートからクロック同期ソースを取得できます。クロック ソースからレシーバに同期ステータス メッセージが送信されます。CEM 展開では、CEM ルータは接続されたメトロ イーサネット デバイスから(このデバイスが集約およびリモート CEM エンドポイント間に IP/MPLS コア転送を提供するデバイスと同一の場合も)、SyncE 経由で TDM クロック同期を取得できます。BITS とほぼ同様に、network-clock-select 1 SYNCE # で選択された SyncE は、対応する CEM グループの T1/E1 コントローラに clock source internal が設定された TDM エンドポイントのマスター クロックとして機能できます。
アウトオブバンド PW クロッキング(仮想 CEM)
リモート CEM ルータに集中型クロック ソースを配信するもう 1 つの方法は、アウトオブバンド PW モードの仮想 CEM インターフェイスを使用する方法です。インバンド PW/アダプティブ クロッキングとは異なり、アウトオブバンド PW クロッキングでは、マスター クロック ルータとスレーブ クロック ルータ間のクロック配信用に個別の専用 PW が確立されます。専用 PW を確立するために、マスター モードで recovered-clock を設定します。これは通常、クロック ソースを配信する集約ルータで行います。recovered-clock slave は、クロックを受信するリモート CEM ルータで設定します。これらのコマンドを両方のルータで設定すると、構成内に仮想 CEM インターフェイスが生成されます。これは、マスター ルータとスレーブ ルータ間にアウトオブバンド クロッキング PW を構成するための専用インターフェイスです。次の図では、集約 7600 ルータがプライマリ クロック ソースとして SyncE を使用しています(network-clock-select SYNCE)。このルータは clock source internal が設定されたローカル BSC にクロックを配信し、アウトオブバンド仮想 CEM PW 経由でリモート CEM ルータにもクロックを配信します。
PTP クロッキング(Timing over Packet)
IEEE 1588v2/PTP は IP ネットワーク全体にクロック情報を配信する方法です。PTP を使用する場合、マスターおよびスレーブ CEM ルータ間に PW は存在しません。デバイス間が信頼できる IP で接続されていれば、IP パケットのペイロードでクロック情報を配信できます。PTP は NTP とほぼ同様に時間帯情報の配信にも使用できる一方で、CEoP PTP の場合は周波数の同期に使用されます。次の図の集約 7600 は、network-clock-select T1 #/#/# が設定されており、BSC の接続回線からタイミングを取得します。さらに、PTP マスターとして設定されています。そして遠端 CEM ルータには、受信側イーサネット インターフェイスの PTP ソースとして 7600 の IP アドレスが設定されています。したがってこのルータは、network-clock-select 1 PACKET-TIMING の使用時にタイミングを取得するスレーブとして機能します。基本的には、7600 が BSC 回線からクロック参照を取得し、PTP を介してリモート CEM ルータにそのクロックを配信します。
クロッキングの概要
上記の TDM クロック配信方式は、CEoP 導入環境で使用できるさまざまな方法を示した簡単な例です。組み合わせはさまざまに変えられることに注意してください。クロックの配信方法に関係なく、TDM エンドポイントが単一の共通したクロック ソースに同期されていれば問題ありません。これらの機能の設定に関する完全なドキュメントについては、巻末のリソースの項を参照してください。
次のコマンドは、データの収集に役立ちます。
show network-clocks:プラットフォームの network-clock のステータスを示します。
show controller [T1|E1]:エンドポイントに接続されているTDMコントローラのステータスを表示します
show xconnect all:すべての擬似回線ステータスの概要を示します。
show cem circuit:すべての CEM ステータスの概要を示します。
show cem circuit detail:すべての CEM グループの詳細情報/統計情報を示します。
show cem circuit interface CEM#/#:CEM#/# の詳細情報を示します。
show mpls l2transport vc [vcid] detail:PWステータスに関する詳細情報を表示します
show platform hardware rtm stat:ToPモジュール搭載のMWR2941で、タイミングモジュールの統計情報を表示します