ITU-T H.323 標準規格では 4 つのコンポーネントが指定されます。
gateway
ゲートキーパー
端末
マルチポイント コントロール ユニット(MCU)
このドキュメントでは、H.323 Voice over IP(VoIP)ネットワークにおけるゲートキーパーの機能と動作の包括的な概要を示しています。
H.323 の詳細については、『H.323 Tutorial』を参照してください。
H.323 ゲートキーパー機能を使用していることを確認してください。これは、ダウンロード(登録ユーザ専用)で x- と表記されています。 たとえば、ゲートキーパーとして機能する Cisco 2600 に対して有効な Cisco IOS® は、c2600-ix-mz.122-11 です。
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
ドキュメント表記の詳細については、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
ゲートキーパーは、H.323 端末のアドレス変換とネットワーク アクセス コントロール、ゲートウェイ、MCU などのサービスを提供するネットワーク上の H.323 エンティティです。また、ゲートキーパーは、スケーラビリティを提供するために一元化できる、帯域幅管理、アカウンティング、ダイヤル プランなどの他のサービスも提供します。
ゲートキーパーは、端末やゲートウェイなどの H.323 エンドポイントから論理的に分離されています。これらは H.323 ネットワーク内ではオプションです。ただし、ゲートキーパーが存在する場合、エンドポイントは提供されたサービスを使用する必要があります。
ゾーンは、ゲートキーパーに登録されているゲートウェイ、端末、MCU などの H.323 ノードからなる集合です。1 つのゾーンに存在できるアクティブなゲートキーパーは 1 台だけです。これらのゾーンはサブネットをオーバーレイできます。1 つのゲートキーパーは、これらの 1 つ以上のサブネットでゲートウェイを制御できます。
H.323 標準規格は、以下の必須およびオプションのゲートキーパー機能を定義しています。
アドレス変換:H.323 ID(gwy1@domain.com など)と E.164 番号(標準の電話番号)をエンドポイントの IP アドレスに変換します。
アドミッション制御:H.323 ネットワークへのエンドポイントのアドミッションを制御します。これを実現するために、ゲートキーパーは以下を使用します。
H.225 Registration, Admission, and Status(RAS)メッセージ
RAS シグナリングについては、「H.225 RAS シグナリング:ゲートキーパーとゲートウェイ」セクションを参照してください。
アドミッション要求(ARQ)
アドミッション確認(ACF)
アドミッション拒否(ARJ)
帯域幅制御:エンドポイント帯域幅要件の管理によって構成されます。これを実現するために、ゲートキーパーは以下の H.225 RAS メッセージを使用します。
帯域幅要求(BRQ)
帯域幅確認(BCF)
帯域幅拒否(BRJ)
ゾーン管理:ゲートキーパーは、ゾーン内で登録されたすべてのエンドポイントに関するゾーン管理(たとえばエンドポイント登録プロセスの制御)を提供します。
コール認証:このオプションを使用すると、ゲートキーパーは特定の端末やゲートウェイへのアクセスを制限でき、時間帯別ポリシーでアクセスを制限することもできます。
コール管理:このオプションを使用すると、ゲートキーパーはアクティブ コール情報を維持し、それを使用してビジー状態のエンドポイントを示したり、コールをリダイレクトしたりします。
帯域幅管理:このオプションを使用すると、ゲートキーパーは、必要な帯域幅が使用できないときにアドミッションを拒否できます。
コール制御シグナリング:このオプションを使用すると、ゲートキーパーは Gatekeeper-Routed Call Signaling(GKRCS)モデルを使用して、H.323 エンドポイント間のコール シグナリング メッセージをルーティングできます。または、エンドポイント間で相互に H.225 コール シグナリング メッセージを直接送信できるようにします。
注:Cisco IOSゲートキーパーは、ダイレクトエンドポイントシグナリングに基づいています。これは GKRCS をサポートしていません。このドキュメントの「ゲートキーパー ルーテッド コール シグナリングとダイレクト エンドポイント シグナリング」セクションを参照してください。
H.323 プロトコル スイートは、次の 3 つの主要制御エリアに分けられます。
RAS(H.225)シグナリング
コール制御/コール セットアップ(H.225)
メディア制御およびトランスポート(H.245)シグナリング
RAS は、ゲートウェイとゲートキーパーの間で使用されるシグナリング プロトコルです。RAS チャネルは他のチャネルよりも前に開かれ、コール セットアップとメディア トランスポート チャネルから独立しています。
RAS は、User Datagram Protocol(UDP)ポート 1719(H.225 RAS メッセージ)と 1718(マルチキャスト ゲートキーパー検出)を使用します。
RAS シグナリングについては、「H.225 RAS シグナリング:ゲートキーパーとゲートウェイ」セクションを参照してください。
H.225 コール制御シグナリングは、H.323 エンドポイント間の接続を設定するために使用されます。ITU H.225 の推奨事項では、Q.931 シグナリング メッセージの使用とサポートが指定されています。
信頼性の高い(TCP)コール制御チャネルが TCP ポート 1720 で IP ネットワークに作成されます。このポートは、コールの接続、メンテナンス、および切断を目的とする Q.931 コール制御メッセージを開始します。
ゲートキーパーがネットワーク ゾーンに存在する場合、ダイレクト コール シグナリングまたは GKRCS のいずれかを介して H.225 コール セットアップ メッセージが交換されます。詳細については、このドキュメントの「ゲートキーパー ルーテッド コール シグナリングとダイレクト エンドポイント シグナリング」セクションを参照してください。どちらの方法が選択されるかは、RAS アドミッション メッセージ交換中にゲートキーパーによって決定されます。
ゲートキーパーが存在しなければ、H.225 メッセージはエンドポイント間で直接交換されます。
H.245 は、H.323 エンティティ間でのエンドツーエンドの制御メッセージを処理します。H.245 の手順により、音声、ビデオ、データ、および制御チャネル情報を伝送するための論理チャネルが確立されます。これを使用して、以下のようなチャネルの使用と機能をネゴシエートします。
フロー制御
メッセージ交換機能
H.245 に関する詳細な説明は、このドキュメントでは取り扱いません。
これは、H.323 端末/ゲートウェイがゾーン ゲートキーパーを検出するプロセスです。自動ゲートキーパー検出:
H.323 エンドポイントがゲートキーパーを認識しない場合は、ゲートキーパー要求(GRQ)を送信できます。 これは、既知の宛先ポート 1718 にアドレス指定される UDP データグラムであり、マルチキャスト グループ アドレス 224.0.1.41 を使って IP マルチキャスト形式で送信されます。
1 つまたは複数のゲートキーパーが、肯定的なゲートキーパー確認(GCF)メッセージまたは否定的なゲートキーパー拒否(GRJ)メッセージのいずれかで要求に応答できます。拒否メッセージには拒否の理由が示され、必要に応じて代替ゲートキーパーに関する情報を返すこともできます。自動検出により、エンドポイントはマルチキャスト ゲートキーパー要求(GRQ)メッセージを介してゲートキーパーを検出できます。ゲートキーパー用にエンドポイントを静的に設定する必要がないため、この方法によって管理上のオーバーヘッドが軽減されます。ゲートキーパーは GCF または GRJ メッセージで応答します。特定のサブネットにのみ応答するようにゲートキーパーを設定できます。
注:Cisco IOSゲートキーパーは常にGCF/GRJメッセージを使用してGRQに応答します。サイレントのままになることはありません。
ゲートキーパーが使用不可になると、ゲートウェイは定期的にゲートキーパーの再検出を試みます。ゲートキーパーがオフラインになったことをゲートウェイが検出すると、ゲートウェイは新しいコールの受け入れを停止し、ゲートキーパーの再検出を試みます。アクティブなコールは影響を受けません。
次の表は、RAS ゲートキーパー検出メッセージの定義を示しています。
ゲートキーパーの検出 | |
---|---|
GRQ(Gatekeeper_Request) | エンドポイントによってゲートキーパーに送信されるメッセージ。 |
GCF(Gatekeeper_Confirm) | ゲートキーパー RAS チャネルのトランスポート アドレスを示す、ゲートキーパーからエンドポイントへの応答。 |
GRJ(Gatekeeper_Reject) | エンドポイントの登録要求を拒否するゲートキーパーからエンドポイントへの応答。通常、ゲートウェイまたはゲートキーパーの設定エラーが原因です。 |
登録とは、ゲートウェイ、端末、および/または MCU がゾーンに参加し、IP アドレスとエイリアス アドレスをゲートキーパーに通知する処理です。登録は、検出プロセスの後に発生します。各ゲートウェイは、1 つのアクティブなゲートキーパーにのみ登録できます。各ゾーンに存在するアクティブ ゲートキーパーは 1 つだけです。
H.323 ゲートウェイは、H.323 ID(電子メール ID)または E.164 アドレスを使用して登録します。以下に、いくつかの例を示します。
EmailID(H.323 ID):gwy-01@domain.com
E.164 アドレス:5125551212
次の表は、RAS ゲートキーパーの登録および登録解除のメッセージの定義を示しています。
ゲートキーパーの検出 | |
---|---|
RRQ(Registration_Request) | エンドポイントからゲートキーパー RAS チャネル アドレスに送信されます。 |
RCF(Registration_Confirm) | エンドポイント登録を確認するゲートキーパーからの応答。 |
RRJ(Registration_Reject) | エンドポイント登録を拒否するゲートキーパーからの応答。 |
URQ(Unregister_Request) | 登録を取り消すためにエンドポイントまたはゲートキーパーから送信されます。 |
UCF(Unregister_Confirm) | 登録解除を確認するためにエンドポイントまたはゲートキーパーから送信されます。 |
URJ(Unregister_Reject) | エンドポイントがゲートキーパーに事前登録されなかったことを示します。 |
エンドポイントとゲートキーパーの間のアドミッション メッセージは、コール アドミッションと帯域幅制御の基盤となります。ゲートキーパーは、アドミッション要求を確認または拒否することによって H.323 ネットワークへのアクセスを許可します。
次の表は、RAS アドミッション メッセージの定義を示しています。
アドミッション メッセージ | |
---|---|
ARQ(Admission_Request) | エンドポイントがコールを開始しようとする試行。 |
ACF(Admission_Confirm) | ゲートキーパーによるコールの許可。このメッセージには終端ゲートウェイまたはゲートキーパーの IP アドレスが含まれ、これにより元のゲートウェイはコール制御シグナリング手順を開始できます。 |
ARJ(Admission_Reject) | 特定のコール用にネットワーク アクセスを求めるエンドポイントの要求を拒否します。 |
詳細については、このドキュメントの「ゲートキーパーからゲートウェイへのコール フロー」のセクションを参照してください。
異なるゾーン エンドポイントの IP アドレスを取得するために、インターゾーン ゲートキーパー間でロケーション要求メッセージがよく使用されます。次の表は、RAS ロケーション要求メッセージの定義を示しています。
Location Request(ロケーション要求) | |
---|---|
LRQ(Location_Request) | 1 つ以上の E.164 アドレスに関するゲートキーパー接続情報を要求するために送信されます。 |
LCF(Location_Confirm) | これはゲートキーパーによって送信され、ゲートキーパー自身または要求されたエンドポイントのコール シグナリング チャネルまたは RAS チャネルのアドレスが含まれます。GKRCS が使用される場合、LCF では自身のアドレスを使用します。ダイレクト エンドポイント コール シグナリングが使用される場合、LCF では要求されたエンドポイントのアドレスを使用します。 |
LRJ(Location_Reject) | 要求されたエンドポイントが登録されていないか、使用不可のリソースが存在する場合に、LRQ を受信したゲートキーパーによって送信されます。 |
詳細については、「ゲートキーパーからゲートウェイへのコール フロー」のセクションを参照してください。
ゲートキーパーは RAS チャネルを使用して、エンドポイントからステータス情報を取得することができます。RAS を使用して、エンドポイントがオンラインかオフラインかを監視できます。次の表は、RAS ステータス情報メッセージの定義を示しています。
ステータス情報 | |
---|---|
IRQ(Information_Request) | ゲートキーパーからエンドポイントに送信されるステータス要求。 |
IRR(Information_Request_Response) | IRQ への応答としてエンドポイントからゲートキーパーに送信されます。また、ゲートキーパーが定期的なステータス更新を要求する場合にも、このメッセージがエンドポイントからゲートキーパーに送信されます。IRR は、アクティブ コールについてゲートキーパーに通知するためにゲートウェイによって使用されます。 |
IACK(Info_Request_Acknowledge) | IRR メッセージに応答するためにゲートキーパーによって使用されます。 |
INACK(Info_Request_Neg_Acknowledge) | IRR メッセージに応答するためにゲートキーパーによって使用されます。 |
帯域幅制御は最初に、アドミッション メッセージ(ARQ/ACF/ARJ)のシーケンスによって管理されます。しかし、コール中に帯域幅の変更が可能です。次の表は、RAS 帯域幅制御メッセージの定義を示しています。
帯域幅の制御 | |
---|---|
BRQ(Bandwidth_Request) | エンドポイントによってゲートキーパーに送信される、コール帯域幅を増減するための要求。 |
BCF(Bandwidth_Confirm) | これはゲートキーパーによって送信され、帯域幅の変更要求を受け入れたことを確認します。 |
BRJ(Bandwith_Reject) | これはゲートキーパーによって送信され、帯域幅の変更要求を拒否します。 |
RAI(Resource Availability Indicator) | これは、追加のコールを受け入れるためのリソースがゲートウェイで使用可能かどうかをゲートキーパーに通知する目的で、ゲートウェイによって使用されます。 |
RAC(Resource Availability Confirm) | RAI メッセージの受信を確認する、ゲートキーパーからゲートウェイへの通知。 |
RAI の詳細については、「リソース割り当て指示の説明、設定、およびトラブルシューティング」を参照してください。
ゲートキーパー コール シグナリング手法には 2 つのタイプがあります。
ダイレクト エンドポイント シグナリング:この方法では、コール セットアップ メッセージが終端ゲートウェイまたはエンドポイントに送られます。
ゲートキーパー ルーテッド コール シグナリング(GKRCS):この方法では、ゲートキーパーを介してコール セットアップ メッセージが送られます。
注:Cisco IOSゲートキーパーはダイレクトエンドポイントシグナリングに基づいており、GKRCSをサポートしていません。
次の図には、これら 2 つの方法の違いが示されています。
以下のセクションでは、ダイレクト コール シグナリングのコール フロー シナリオだけを示します。また、ゲートウェイでゲートキーパーの検出と登録が完了していると想定します。
ゲートキーパーの主な機能は、他の H.323 ゾーンを把握し、コールを正しく転送することです。多数の H.323 ゾーンが存在すると、ゲートキーパー設定のための管理上の負担が増える可能性があります。そのような規模の大きい VoIP インストール環境では、すべての異なるゾーンのレジストリを含んでいる、LRQ 転送プロセスを調整する一元的なディレクトリ ゲートキーパーを設定できます。ディレクトリ ゲートキーパーを使用する場合、インターゾーン ゲートキーパー間でフル メッシュは必要ありません。
注:ディレクトゲートキーパーは業界標準ではありませんが、シスコの実装です。
詳細については、「ゲートキーパーを使用した H.323 ネットワーク スケーリング」セクションを参照してください。
以下の図は、ゲートキーパーとディレクトリ ゲートキーパーを使用した VoIP ネットワーク スケーリングの概念を示しています。
注:ゲートキーパーの設定例の詳細は、『Cisco IOSゲートキーパーのコールルーティングについて』を参照してください。