このドキュメントでは、Cisco Multiservice IP-to-IP Gateway(IPIPGW)機能を使用したローカル/リモート間のネットワークの設定例を紹介します。IPIPGW 機能は、ある IP ネットワークから別のネットワークへの H.323 Voice over IP(VoIP)コールをイネーブルにするメカニズムを提供します。
この設定を行う前に、次の要件が満たされていることを確認します。
基本的な H.323 ゲートウェイ設定を実行する。詳細については、『Cisco IOS H.323 構成ガイド』の「 Cisco IOS 音声設定ライブラリ、リリース 12.3」を参照してください。
基本的な H.323 ゲートキーパー設定を実行する。詳細については、『Cisco IOS H.323 構成ガイド』の「 Cisco IOS 音声設定ライブラリ、リリース 12.3」を参照してください。
このドキュメントの情報は、次のソフトウェアとハードウェアのバージョンに基づいています。
3 つの Cisco H.323 ゲートキーパー ルータ(Cisco 2610、Cisco 2611、Cisco 2612、Cisco 2613、Cisco 2620、Cisco 2621、Cisco 2650、Cisco 2651、Cisco 2691、Cisco 2610XM、Cisco 2611XM、Cisco 2620XM、Cisco 2621XM、Cisco 2650XM、Cisco 2651XM、Cisco 3620、Cisco 3640、Cisco 3660、Cisco 3725、Cisco 3745、Cisco 7200 シリーズ、Cisco 7400 シリーズ)および Cisco IOS ソフトウェア リリース 12.2(13) T 以降。
このドキュメントの情報は、特定のラボ環境にあるデバイスに基づいて作成されました。このドキュメントで使用するすべてのデバイスは、初期(デフォルト)設定の状態から起動しています。対象のネットワークが実稼働中である場合には、どのようなコマンドについても、その潜在的な影響について確実に理解しておく必要があります。
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
Cisco マルチサービス IPIPGW 機能にゲートキーパーの中継ゾーン(via-zone)が導入されます。中継ゾーンとは、IP-to-IP Gateway と中継ゾーン対応ゲートキーパーを含むゾーンを示すシスコの用語です。中継ゾーン対応ゲートキーパーは中継ゾーンを認識し、中継ゾーン ゲートウェイにトラフィックを送信できます。シスコの中継ゾーン対応ゲートキーパーには、中継ゾーンのコマンドライン インターフェイス(CLI)コマンドが含まれます。
中継ゾーンは通常、Internet Telephony Service Provider(ITSP)ネットワークの端にあり、VoIP 転送ポイントや、VoIP トラフィックがリモート ゾーン宛先の途中でチャネルを通るタンデム ゾーンと似ています。このゾーンのゲートウェイは、要求されたコールを終了し、トラフィックを最終的な宛先に再発信します。中継ゾーン ゲートキーパーは IP-to-IP アプリケーション以外では通常どおり動作します。中継ゾーンのゲートキーパーは、H.323 バージョン 4 の RAS メッセージの容量フィールドを使用したリソース管理(ゲートウェイの選択やロード バランシングなど)をサポートします。
このセクションでは、このドキュメントで説明する機能を設定するために必要な情報を提供しています。
注: このドキュメントで使用されているコマンドの詳細を調べるには、Command Lookup Tool(登録ユーザ専用)を使用してください。
このドキュメントでは、次のネットワーク セットアップを使用します。
このドキュメントでは、次の構成を使用します。
この例では、エリア コード 408 の発信者が市外局番 919 のパーティに電話をかけると、次のアクションが発生します。
GW1.ITSPA が 919 ベースの番号を使用してアドミッション要求(ARQ)メッセージを Z1.ITSPA に送信します。
Z1.ITSPA が VZ.ITSP への 919 を解決し、ロケーション要求(LRQ)メッセージを VZ.ITSP に信します。
Z1ITSPA ゾーンから 919 番号への LRQ は、VZ.ITSP で受信されます。VZ.ITSP は Z1ITSPA のゾーンのリモート設定を確認し、ゾーン VZITSP が「invia」ゾーンとして設定されていることがわかります。次にロケーション確認(LCF)メッセージを Z1.ITSPA に送信し、919 コールの宛先ゲートウェイとして HS.ITSP を指定します。
Z1.ITSPA はアドミッション確認(ACF)メッセージを GW1.ITSPA に送信し、宛先ゲートウェイとして HS.ITSP を指定します。
GW1.ITSPA は 919 コールの設定メッセージを HS.ITSP に送信します。
HS.ITSP は ARQ(answerCall=true 含む)を使用して VZ.ITSP を調査し、着信コールを許可します。
VZ.ITSP は ACF で応答し、コールを許可します。
HS.ITSP は 919 プレフィックスに(またはすべてのプレフィックスに)RAS VZ.ITSP を指定するダイヤル ピアを持つため、プレフィクス 919 では VZ.ITSP に ARQ(answerCall が False に設定されている)を送信します。
VZ.ITSP ゲートキーパーは、ゾーン プレフィクス テーブルを調べることで Z2ITSPB ゾーンがプレフィクス「919」を処理することを特定します。さらに、ゾーンのリモート設定を使用して、独自のローカル ゾーン VZITSP が「outvia」ゾーンとして設定されていることを把握します。次に、LRQ を他の IP-to-IP ゲートキーパーへ送信するのではなく、Z2.ITSPB ゲートキーパーに LRQ を送信します。
Z2.ITSPB はプレフィックス 919 を自分のゾーン内にあるものと見なし、GW2.ITSPB を指定する LCF を返します。
VZ.ITSP は宛先ゲートウェイとして GW2.ITSPB を指定する ACF を HS.ITSP に返します。
HS.ITSP は 919 コールに対して GW2.ITSPB に設定メッセージを送信します。
GW2.ITSPB は ARQ(answerCall=true 含む)を Z2.ITSPB に送信します。
Z2.ITSPB は ACF で answerCall を送信します。
HS.ITSP と GW2.ITSPB の間で H.323 コールが接続されます。GW1.ITSPA と HS.ITSP の間で H.323 コールが接続されます。
送信元のゲートキーパー(Z1.ITSPA) |
---|
origgatekeeper#show running-config Building configuration... . . . gatekeeper zone local Z1ITSPA cisco 10.16.8.158 zone remote VZITSP cisco 10.16.10.139 zone remote Z2ITSPB china 10.16.8.139 1719 zone prefix VZITSP 919* . . . ! end |
中継ゾーン ゲートキーパー(VZ.ITSP) |
---|
vzgatekeeper#show running-config Building configuration... . . . gatekeeper zone local VZITSP cisco 10.16.10.139 zone remote Z1ITSPA cisco 10.16.8.158 invia VZITSP zone remote Z2ITSPB china 10.16.8.144 1719 outvia VZITSP zone prefix Z2ITSPB 919* . . . ! end |
終端ゲートキーパー(Z2.ITSPB) |
---|
termgatekeeper#show running-config Building configuration... . . . gatekeeper zone local Z2ITSPB china 10.16.8.144 . . . ! end |
ここでは、設定が正常に機能しているかどうかを確認します。
アウトプット インタープリタ ツール(登録ユーザ専用)(OIT)は、特定の show コマンドをサポートします。OIT を使用して、show コマンドの出力の分析を表示します。
注:次のshowコマンド出力は、VZ.ITSPゲートキーパーから取得したものです。
ゲートキーパーの設定を確認するには、show running config | begin gatekeeperコマンドを発行して、ゲートキーパーの設定を確認します。
gatekeeper zone local VZITSP cisco 10.16.10.139 zone remote Z1ITSPA cisco 10.16.8.158 invia VZITSP zone remote Z2ITSPB china 10.16.8.144 1719 outvia VZITSP zone prefix Z2ITSPB 919* no shutdown
また、show gatekeeper zone status コマンドを使用してゲートキーパー設定を確認することもできます。
GATEKEEPER ZONES ================ GK name Domain Name RAS Address PORT FLAGS ------- ----------- ----------- ----- ----- VZITSP cisco 10.16.128.40 1719 LSV BANDWIDTH INFORMATION (kbps) : Maximum total bandwidth :unlimited Current total bandwidth :0 Maximum interzone bandwidth :unlimited Current interzone bandwidth :0 Maximum session bandwidth :unlimited Total number of concurrent calls :3 SUBNET ATTRIBUTES : All Other Subnets :(Enabled) PROXY USAGE CONFIGURATION : Inbound Calls from all other zones : to terminals in local zone hurricane :use proxy to gateways in local zone hurricane :do not use proxy to MCUs in local zone hurricane :do not use proxy Outbound Calls to all other zones : from terminals in local zone hurricane :use proxy from gateways in local zone hurricane :do not use proxy from MCUs in local zone hurricane :do not use proxy Z1.ITSPA cisco 10.16.10.139 1719 RS VIAZONE INFORMATION : invia:VZ.ITSP, outvia:VZ.ITSP Z2.ITSPB cisco 10.16.8.144 1719 RS VIAZONE INFORMATION : invia:VZ.ITSP, outvia:VZ.ITSP
コール キャパシティのしきい値を表示するには、show gatekeeper status コマンドを実行します。
Gatekeeper State: UP Load Balancing: DISABLED Flow Control: DISABLED Zone Name: hurricane Accounting: DISABLED Endpoint Throttling: DISABLED Security: DISABLED Maximum Remote Bandwidth: unlimited Current Remote Bandwidth: 0 kbps Current Remote Bandwidth (w/ Alt GKs): 0 kbps
中継ゾーンの統計情報を含む RAS 情報を表示するには、show gatekeeper performance stats コマンドを実行します。
Performance statistics captured since: 08:16:51 GMT Tue Jun 11 2002 RAS inbound message counters: Originating ARQ: 462262 Terminating ARQ: 462273 LRQ: 462273 RAS outbound message counters: ACF: 924535 ARJ: 0 LCF: 462273 LRJ: 0 ARJ due to overload: 0 LRJ due to overload: 0 RAS viazone message counters: inLRQ: 462273 infwdLRQ 0 inerrLRQ 0 outLRQ: 0 outfwdLRQ 0 outerrLRQ 0 outARQ: 462262 outfwdARQ 0 outerrARQ 0 Load balancing events: 0 Real endpoints: 3
次の重要な RAS 中継ゾーン フィールドが画面に表示されます。
inLRQ:— invia キーワードに関連付けられます。invia がローカル ゾーンであれば、このカウンタはローカル invia ゲートキーパーが終了した LQR の数を示します。
infwdLRQ — invia キーワードに関連付けられます。invia がリモート ゾーンであれば、このカウンタはリモート invia ゲートキーパーが転送した LQR の数を示します。
inerrLRQ — invia キーワードに関連付けられます。invia ゲートキーパー ID が見つからなかったため、LRQ が処理できなった回数を示します。通常、ゲートキーパー名のスペルミスが原因です。
outLRQ — outvia キーワードに関連付けられます。outvia がローカル ゾーンであれば、このカウンタはローカル outvia ゲートキーパーが終了した LQR の数を示します。このカウンタは、invia ゲートキーパー指定されていない設定にのみ適用されます。
outfwdLRQ — outvia キーワードに関連付けられます。outvia がリモート ゾーンであれば、このカウンタはリモート outvia ゲートキーパーが転送した LQR の数を示します。このカウンタは、invia ゲートキーパー指定されていない設定にのみ適用されます。
outerrLRQ — outvia キーワードに関連付けられます。outvia ゲートキーパー ID が見つからなかったため、LRQ が処理できなった回数を示します。通常、ゲートキーパー名のスペルミスが原因です。このカウンタは、invia ゲートキーパー指定されていない設定にのみ適用されます。
outARQ — outvia キーワードに関連付けられます。outvia がそのローカル ゾーンである場合に、ローカル ゲートキーパーが処理した ARQ の発生数が示されます。
outfwdARQ — outvia キーワードに関連付けられます。outvia ゲートキーパーがリモート ゾーンであれば、この数はこのゲートキーパーが受信して LQR が outvia ゲートキーパーに送られる原因となった ARQ の発生数が示されます。
outerrARQ — outvia キーワードに関連付けられます。outvia ゲートキーパー ID が見つからなかったため、発生した ARQ が処理できなった回数を示します。これは通常、ゲートキーパー名のスペルミスが原因です。
進行中のコールに関する情報を表示するには、show gatekeeper circuit コマンドを入力します。
CIRCUIT INFORMATION =================== Circuit Endpoint Max Calls Avail Calls Resources Zone ------- -------- --------- ----------- --------- ---- ITSP B Total Endpoints: 1 hs.itsp 200 198 Available
注:一部のコマンドと出力では、「コール」という単語はコールレッグを指します。
エンドポイント登録に関する情報を表示するには、show gatekeeper endpoint コマンドを入力します。
GATEKEEPER ENDPOINT REGISTRATION ================================ CallSignalAddr Port RASSignalAddr Port Zone Name Type Flags --------------- ----- --------------- ----- --------- ---- ----- 10.16.10.140 1720 10.16.10.140 50594 vz.itsp H323-GW H323-ID: hs.itsp H323 Capacity Max.= 200 Avail.= 198 Total number of active registrations = 1
このセクションは、設定のトラブルシューティングを行う際に参照してください。
この設定に関連するトラブルシューティング情報を次に示します。設定をトラブルシューティングするには、次の手順を実行します。
IPIPGW のトラブルシューティング手順は、TDM-to-IP H.323 ゲートウェイのトラブルシューティングと同様です。通常、トラブルシューティングの作業は次に示すように行います。
障害シナリオを切り分けて再現します。
debug コマンドと show コマンド、コンフィギュレーション ファイル、およびプロトコル アナライザを使用して関連情報を収集します。
プロトコル トレースや内部 debug コマンド出力では、障害の最初の兆候を識別します。
原因をコンフィギュレーション ファイルで探します。
中継ゾーンがコールの失敗の原因として疑われる場合は、影響を受けるサブ機能を特定することで IPIPGW またはゲートキーパーに問題を絞り込み、そのサブ機能に関連する show コマンドおよび debug コマンドに集中します。
トラブルシューティングを開始する前に、ゲートウェイまたはゲートキーパーに問題を絞り込む必要があります。ゲートウェイおよびゲートキーパーは次のタスクを処理します。
ゲートウェイのタスク:
メディア ストリームの処理と音声パスの整合性
DTMF リレー
ファクス リレーとパススルー
番号変換およびコール処理
ダイヤル ピアとコーデックのフィルタリング
キャリア ID の処理
ゲートウェイ ベースの課金
ゲートキーパーのタスク:
ゲートウェイの選択とロードバランシング
コール ルーティング(ゾーン選択)
ゲートキーパー ベースの課金
コール アドミッション、セキュリティ、帯域幅の制御
コール キャパシティの適用
アウトプット インタープリタ ツール(登録ユーザ専用)(OIT)は、特定の show コマンドをサポートします。OIT を使用して、show コマンドの出力の分析を表示します。
注:debug コマンドを使用する前に、『debug コマンドの重要な情報』を参照してください。
ゲートウェイ debug コマンド
debug voip ipipgw:IP-to-IP コールの処理に関連する情報を表示します。
debug h225 asnl:H.225メッセージおよび関連イベントのasn1部分の実際の内容が表示されます。
debug h225 events:H.225メッセージおよび関連イベントのasn1部分の実際の内容が表示されます。
debug h245 asn1:H.245メッセージおよび関連イベントのasn1部分の実際の内容が表示されます。
ゲートキーパー debug コマンド
debug h225 asn1:H.225 RASメッセージおよび関連イベントのasn1部分の実際の内容が表示されます。
debug h225 events:H.225 RASメッセージおよび関連イベントのasn1部分の実際の内容が表示されます。
debug gatekeeper main 10:LRQ 処理、ゲートウェイ選択、アドミッション要求処理、プレフィクス照合、コール キャパシティなどの重要なゲートキーパー機能をトレースします。
debug gatekeeper zone 10:ゲートキーパーのゾーン指向の機能をトレースします。
debug gatekeeper call 10:トラッキング コール参照などのゲートキーパーのコール指向の機能をトレースします。
debug gatekeeper gup asn1:ゲートキーパー更新プロトコルメッセージおよびクラスタ内のゲートキーパー間の通信に関連するイベントのasn1部分の実際の内容が表示されます。
debug gatekeeper gup events:ゲートキーパー更新プロトコルメッセージおよびクラスタ内のゲートキーパー間の通信に関連するイベントのasn1部分の実際の内容が表示されます。
debug ras:送受信された RAS メッセージ タイプおよびアドレッシングを表示します。
ゲートウェイ show コマンド
show h323 gateway h225:このコマンドは、H.225メッセージとイベントのカウントを維持します。
show h323 gateway ras:このコマンドは、送受信されたRASメッセージの数を維持します。
show h323 gateway cause:このコマンドは、接続されたゲートウェイから受信した原因コードの数を表示します。
show call active voice [brief]:アクティブ コールとクリアされたコールに関する情報を集約します。
show crm:IPIPGW の IP 回線に関連付けられているコール キャパシティ値を示します。
show processes cpu:詳細な CPU 使用率の統計情報(プロセス単位の CPU 使用率)が表示されます。
show gateway:ゲートウェイの現在のステータスが表示されます。
ゲートキーパー show コマンド
show/clear gatekeeper performance stats:このコマンドは、コールの処理に関連するゲートキーパー統計情報を表示します。
show gatekeeper zone status:ゲートキーパーが把握するローカルおよびリモート ゾーンに関する情報をリストアップします。
show gatekeeper endpoints:IPIPGW を含め、ゲートキーパーに登録されているエンドポイントに関する重要情報をリストアップします。
show gatekeeper circuit:複数のゲートウェイ間の回線使用率に関する情報を組み合わせて示します。
show gatekeeper calls:ローカル ゾーンで処理されるコールに関する重要情報をリストアップします。
改定 | 発行日 | コメント |
---|---|---|
1.0 |
02-Feb-2006 |
初版 |