このドキュメントでは、ファクス エラー修正モード(ECM)について説明します。
このドキュメントに特有の要件はありません。
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
ファクス通信での ECM モードはオプションであり、デジタル情報信号(DIS)/デジタル コマンド信号(DCS)メッセージ交換中のファクス コールの開始時にネゴシエートされます。送信側と受信側のファクス デバイスの両方が ECM をサポートしている場合、通常はファクス コール中に ECM が使用されます。いずれかのデバイスが ECM をサポートしていないか、ECM に同意しない場合は、ファクス トランザクションは通常の G3 コール(つまり、非 ECM コール)として続行されます。このプロセスにより、ECM をサポートするファクス デバイスが、他の ECM をサポートしないファクス デバイスとの互換性を持てるようになります。
ECM は、ファクス ページ データのエラーを検出して修正するために使用されます。ファクス ページ データのエラーを検出するために、ECM は各ファクス ページ データを複数のブロックに分割します。これらのブロックは部分ページと呼ばれます。部分ページにはハイレベル データ リンク制御(HDLC)フレームが含まれ、これらの HDLC フレームに設定されたフレーム チェック シーケンス(FCS)値をチェックすることで、その部分ページのデータの整合性を確認できます。終端ファクス マシンは、エラーを検出する手段として HDLC フレームのチェックサムを計算します。HDLC フレームが破損している場合(つまり、エラーが含まれる場合)には、HDLC フレームの再送信を要求します。 多数のエラーが含まれるページのエラー フレームを再送信するには時間がかかるため、ファクスの配信に大幅な遅延が生じたり、ファクス コール自体が失敗する場合さえあります。ほとんどのファクス マシンは、ファクス送信が成功しないと、自動的にリダイヤルします。ECM はこの自動リダイヤルに依存して、より優れた接続品質を得られる可能性があるタイミングで HDLC フレームの再送信要求を再試行します。
ECM の主な利点は、エラーのないファクスが保証されることです。ECM の主な欠点は、エラーを修正するための動作を永続的に続けるため、回線品質が不良である場合や大量のエラーがある場合は、ファクス コールが失敗したり、ファクスが正常に配信するまでに時間がかかったりすることです。このような問題が発生した場合に備え、ほとんどのファクス デバイスでは ECM 機能を簡単に無効にできるようになっています。このことから、非 ECM コールよりもパケット損失に対する耐性が低い IP 環境では、ECM に別の欠点も伴います。
ファクス転送モードとしてパススルーを使用する Cisco ゲートウェイでは、ファクス エンドポイント間の DISC/DCS ネゴシエーションでネゴシエートされる ECM 設定を変更できません。その理由は、パススルーを使用する場合、ゲートウェイは T.30 メッセージを復調しないためです。IP ネットワーク上では、メッセージが G.711 コーデックでトランスペアレントにパススルーされます。ただし、ゲートウェイがファクス転送方式としてファクス リレーを使用する場合は、ゲートウェイが T.30 メッセージを復調するため、ECM ネゴシエーションを操作できます。Cisco IOS® 音声ゲートウェイのデフォルト動作では、終端ファクス デバイスでネゴシエートされる ECM 設定は操作されることも変更されることもありません。(ファクス エンドポイントで決定される ECM 設定に関わらず)ファクス コールで ECM を無効にする必要がある場合、VoIP ダイヤル ピアで Cisco IOS fax-relay ecm disable configuration コマンドを使用して無効にすることができます。MGCP の場合は、no mgcp fax t38 ecm コマンドを使用します。(no mgcp fax t38 ecm コマンドは Cisco ファクス リレーにも適用されることに注意してください)。 ゲートウェイで応答側ファクス マシンからの DIS メッセージに指定されている ECM 設定(ビット 27)をオーバーライドできるようにするために、これらのコマンドは DIS メッセージを復調し、ビット 27(応答側ファクス マシンによる ECM サポートを合図するビット)を反転させて、ECM をサポートしないことを示します。図 1 に示されているように、このプロセスは基本的に、発信側ファクス マシンに、応答側ファクス マシンが ECM をサポートしないと思い込ませ、ECM サポート設定なしの ECS メッセージで応答させるというものです。これにより、コールは通常の非 ECM ファクス コールとして続行されることになります。
図 1. Cisco音声ゲートウェイによって無効にされたECM機能
メッセージ フローの観点からは、ECM コールと非 ECM コールは似ています。主な違いは、ECM では、ファクス ページ データが部分ページに分割されるという点にあります。部分ページは、固定サイズのデータ ブロックです。1 つの物理ページに対応する部分ページが 1つ以上ある場合もあります。
図 2 に、ECM を使用した標準の 2 ページ G3 ファクス トランザクションでのメッセージ交換を示します。この図に示されているように、最初のページは 2 つの部分ページに分割され、2 番目のページはページ全体が 1 つの部分ページで送信されます。
図 2: ECMの2ページFAXトランザクション
ECM コールの T.30 シグナリングで使用される部分ページ メッセージには、以下のタイプがあります。
PPS-NULL メッセージ。ページの最後のブロックではない部分ページ ブロックに続けて送信されます。
PPS-MPS メッセージ。部分ページの最終ページ ブロックに続けて送信されます。
PPS-EOP メッセージ。最後のページの最終ブロックの送信後に、送信されるページ データは残っていないことを示すために送信されます。
以上の 3 つの PPS メッセージのすべてを受信したことは、Message Confirmation(MCF)で確認応答されます。
ECM 全体の目的はページ エラーを検出して修正することであるため、エラーを通知するために T.30 メッセージを使用します。終端デバイスで受信した部分ページにエラーが含まれていることを通知するために使用する T.30 メッセージは、Partial Page Request(PPR)です。発信側ファクス マシンはこのメッセージに応答して、該当するデータ ブロックを再送信する必要があります。PPR は、呼び出し側ファクス デバイスに対し、部分ページのどこでエラーが検出されたのかを具体的に通知します。このプロセスにより、発信側ファクス マシンが部分ページ全体を再送信することを防ぐと同時に、ページ全体のデータ整合性も確保します。
図 2 に示されている、2 番目の物理ページが分割された部分ページには、エラーが含まれています。これらのエラーが既知となる理由は、終端ファクス デバイスが、部分ページの破損している部分の再送信を要求するために PPR を送信するからです。部分ページの破損している部分は、発信側ファクス マシンが別の Partial Page Signal(PPS)/End Of Procedure(EOP)メッセージで再送信します。エラーが検出されなければ、修正されたデータ ブロックが MCF で確認応答され、DCN(接続切断)メッセージによってコールがグレースフルに切断されます。
改定 | 発行日 | コメント |
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1.0 |
25-Mar-2013 |
初版 |