このドキュメントの目的は、同期光ネットワーク(SONET)リンクにおいてどんなときに減衰器が必要であり、信号強度を減らして受信側の光ファイバを守る必要があるのかを明らかにすることです。このドキュメントでは、電力バジェットを計算するために推奨される計算式の理解に役立つ内容について説明します。このドキュメントでは、減衰、波長、分散、出力という用語について説明し、計算式を確認します。
このドキュメントに特有の要件はありません。
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
減衰とは、連続した MultiMode Fiber(MMF; マルチモード光ファイバ)または Single-Mode Fiber(SMF; シングルモード光ファイバ)を通じて光パルスが伝搬するときに発生する、信号強度の低下や光出力の損失のことです。 通常、測定値はデシベルまたは dB/km で定義されます。
減衰は、いくつかの本質的および非本質的な要因によって発生します。非本質的な要因としては、ケーブル製造中の圧力、環境の影響、光ファイバ内の物理的な屈曲などがあります。本質的な要因については次の表で説明します。
本質的な要因 | 原因 | 注意事項 |
---|---|---|
散乱 | 顕微鏡レベルの微細な非均質性。散乱によって光エネルギーが失われます。 | 減衰の原因のほぼ 90% を占めます。波長が短くなるほど顕著になります。 |
吸収 | 材料の分子構造、ファイバ中の金属イオンや OH イオン(水分)などの不純物、ガラス成分内の不要な酸化物などの原子的欠陥。これらの不純物が光エネルギーを吸収し、少量の熱として放散します。このエネルギーが放散されるにつれて光が弱くなります。 |
ファイバ自体による減衰はケーブルの長さと光の波長によって変化します。ここでは、波長について説明します。
「波長」という用語は、光に波のような性質があることを表しています。波長は、電磁波が流れる完全なサイクルについて 1 サイクル分の距離を測定した長さです。光ファイバの波長はナノメートル単位(プレフィクス「ナノ」は 10 億分の 1 の意)またはマイクロメートル単位(プレフィクス「マイクロ」は 100 万分の 1 の意)で測定されます。
電磁波のスペクトルは人間の目に見える可視光と人間の目に見えない不可視光(赤外線付近の光)で構成されます。可視光の波長の範囲は 400~700nm で、光の損失が大きいため光ファイバへの応用は非常に限られています。赤外線付近の波長の範囲は 700~1700nm です。現在普及している光ファイバのほとんどは赤外領域の波長で伝送が行われます。
波長の説明では、2 つの重要な用語について理解する必要があります。
ピーク波長または中心波長:発光源から最大出力で放射したときに、損失量が最も小さくなる波長。
スペクトル幅:LED またはレーザーは、理論上はピーク波長ですべての光を放射し、このときに減衰量が最小になります。しかし、実際にはピーク波長を中心とした波長の範囲内で光が放射されます。この範囲をスペクトル幅と呼びます。
最も一般的なピーク波長は、780nm、850nm、1310nm、1550nm、および 1625nm です。第一窓と呼ばれる 850nm の領域は元来の LED および検知器の技術に対応していたため、当初はこの波長が使用されていました。今日では損失と分散が非常に小さい 1310nm の領域が一般に普及しています。また、1550nm の領域もリピータを使用せずに済むため、今日広く利用されています。一般に、波長が長くなるほど性能が向上しますが、費用が高くなります。
MMF と SMF とではタイプやサイズの異なるファイバが使用されています。たとえば、SMFは9/125 umを使用し、MMFは62.5/125または50/125を使用します。異なるサイズのファイバは、異なる光損失dB/km値を持ちます。ファイバの損失は動作波長に大きく依存します。一般的に使用されるファイバでは、物理的なファイバのサイズ(たとえば、9/125 や 62.5/125)に関係なく、1,550 nm の波長で損失が最も低くなり、780 nm の波長で損失が最も高くなります。
分散とは、光パルスが光ファイバを伝わる間に拡散することです。分散には、波長分散とモデル分散という、2 つの重要なタイプがあります。
出力は、LED やレーザーを使用して光ファイバに結合できる光の力の相対的な量を定義します。トランスミッタの出力レベルは弱すぎず、また強すぎない必要があります。発光源が弱いと、光信号を光ファイバの使用可能長にわたって伝送するのに十分な出力が得られません。発光源が強いとレシーバが過負荷状態になり、信号に歪みを生じます。
出力バジェット(PB)は、光リンク内の減衰を乗り越えて、受信側インターフェイスの最小出力レベルを満たすのに必要な光量を定義します。光データ リンクが適切に動作するかどうかは、変調された光が正常に復調できるだけの十分な出力でレシーバに到達するかどうかで決まります。
次の表に、リンク損失の要因と、それらの要因によって発生するリンク損失の推定値をまとめます。
リンク損失の要因 | リンク損失の推定値 |
---|---|
高順次モード損失 | 0.5 dB |
クロック回復モジュール | 1 dB |
モデル分散および波長分散 | 使用するファイバと波長に依存します。 |
コネクタ | 0.5 dB |
スプライス | 0.5 dB |
ファイバ減衰 | マルチモードの場合 1dB/km(シングルモードの場合は 0dB/km) |
マルチモード伝送の発光源に使用される LED では、光の伝搬経路が複数発生し、それぞれに光ファイバの横断に必要な経路長と時間が異なります。その結果、信号の分散(スミア)が起こります。 LED からの光がファイバ内に入り、ファイバ被覆に放射される結果、Higher Order Loss(HOL; 高順次損失)が発生します。MMF 伝送におけるパワー マージン(PM)のワーストケースを推定するときは、トランスミッタ出力(PT)が最小、リンク損失(LL)が最大、およびレシーバ感度(PR)が最小の状態を想定します。 ワーストケース分析には誤差があります。実際のシステムでは、その構成部分のすべてが最悪のレベルで動作するとは限りません。
PB は伝送される最大可能出力量です。次の等式により出力バジェットを計算します。
PB = PT - PR PB = -20 decibels per meter (dBm) - (-30 dBm) PB = 10 dB
パワー マージンは PB からリンク損失を引いて計算されます。
PM = PB - LL
パワー マージンが 0 または正ならば、通常はリンクが動作します。リンクのパワー マージンが 0 未満であると、レシーバの動作に必要な出力が得られない可能性があります。
「ファイバ損失バジェット」文書には、多数の Cisco 光ハードウェア製品についてそれらの最大の送受信 dB レベルが記載されています。使用している特定のハードウェアが記載されていない場合や、最も正確な情報を取得できるようにする場合は、使用している特定のインターフェイスのコンフィギュレーション ガイドを参照してください。推奨される数式を適用するか、または光学測定器を使用します。
次のマルチモード PB の例は、次の変数に基づいて計算されています。
Length of multimode link = 3 kilometers (km) 4 connectors 3 splices HOL Clock Recovery Module (CRM) Estimate the PB as follows: PB = 11 dB - 3 km (1.0 dB/km) - 4 (0.5 dB) - 3 (0.5 dB) - 0.5 dB ( HOL) - 1 dB (CRM) PB = 11 dB - 3 dB - 2 dB - 1.5 dB - 0.5 dB - 1 dB PB = 3 dB
正の値 3dB は、このリンクの出力が伝送するのに十分であることを示します。
次の例も前の「伝送に十分な出力が得られるマルチモード出力バジェットの例」と同じパラメータを使用していますが、MMF リンク距離を 4km としています。
PB = 11 dB - 4 km (1.0 dB/km) - 4 (0.5 dB) - 3 (0.5 dB) - 0.5 dB (HOL) - 1 dB (CRM) PB = 11 dB - 4 dB - 2 dB - 1.5 dB - 0.5 dB - 1 dB PB = 2 dB
この値 2dB は、このリンクの出力が伝送するのに十分であることを示します。リンクの分散限界のため(4km x 155.52MHz > 500MHz/km)、このリンクは MMF では動作しません。この場合は SMF を選択するのが適切です。
次の SMF PB の例では、8km 離れた 2 棟の建物が、その間にある建物の中のパッチパネルを経由して接続されていると仮定しています。間にある建物には合計 12 個のコネクタがあります。
Length of single-mode link = 8 km 12 connectors Estimate the power margin as follows: PM = PB - LL PM = 13 dB - 8 km (0.5 dB/km) - 12 (0.5 dB) PM = 13 dB - 4 dB - 6 dB PM = 3 dB
値 3dB は、このリンクの出力が伝送するのに十分であり、レシーバの最大入力を超えていないことを示しています。
あるいは、光学測定器を使用して信号強度を測定できます。波長をインターフェイスと同じに設定し、その特定のラインカードに与えられた範囲から外れないようにします。
詳細については、次の資料を参照してください。
『Broadband ISDN Customer Installation Interfaces:Physical Layer Specification』、T1E1.2/92-020R2 ANSI、the Draft American National Standard for Telecommunications
『Power Margin Analysis』、AT&T Technical Note、TN89-004LWP、1989 年 5 月
ラボ環境や Point of Presence(POP)内リンクを経由する場合などでは、近接した距離にある SMF インターフェイスをバックツーバックで接続できます。ただし、特に長距離光ファイバを使用する場合、レシーバが過負荷にならないように十分な注意が必要です。シスコでは、少なくとも 10dB の減衰器を 2 つのインターフェイス間に挿入することを推奨しています。可視光レベルの入力光範囲ウィンドウを提供するため、関連カードの入力光レシーバの技術仕様を確認してください。ほとんどのベンダーは、レシーバ可視光レベルのミッドレンジに減衰することを推奨しています。