OSPF RFC 1793 に対応するため、Cisco IOS® ソフトウェア リリース 11.2 では、Open Shortest Path First(OSPF)用にデマンド回線のオプションが導入されました。 OSPF は Hello を 10 秒ごとに送信し、リンクステート アドバタイズメント(LSA)を 30 分ごとに更新します。これらの機能は、ネイバー関係を維持し、リンクステート データベースが正確であることを保証します。さらに、Routing Information Protocol(RIP)や Interior Gateway Routing Protocol(IGRP)の類似機能と比較して、はるかに少ない帯域幅しか使用しません。 ただし、デマンド回線では、この程度の量のトラフィックでも望ましくありません。OSPF デマンド回線オプションを使用すると、Hello および LSA 更新機能は抑制されます。OSPF はデマンド リンクを確立して隣接関係を形成し、初期データベース同期を実行できます。この隣接関係は、デマンド回路のレイヤ 2 がダウンしてもアクティブの状態を維持します。
Cisco IOS バージョン 12.1(2)T は、OSPF のためのフラッド リダクション機能を導入しています。この機能は、多数の LSA がある OSPF ドメインで、LSA の定期更新により作成されるトラフィックを最小化することを目的としています。OSPF デマンド回線機能とは異なり、フラッド リダクションは、通常は専用回線上に設定されます。フラッド リダクションは、定期的 LSA 更新を抑制するために、デマンド回線と同じ技法を使用します。この機能は、IETF OSPF ワーキング グループに標準化を求めて提出されています。
このドキュメントの読者は次のトピックについての専門知識を有している必要があります。
OSPF
IGRP
RIP
このドキュメントの情報は、次のソフトウェアとハードウェアのバージョンに基づいています。
Cisco IOS バージョン 12.1(2)T 以降
このドキュメントの情報は、特定のラボ環境にあるデバイスに基づいて作成されました。このドキュメントで使用するすべてのデバイスは、初期(デフォルト)設定の状態から起動しています。対象のネットワークが実稼働中である場合には、どのようなコマンドについても、その潜在的な影響について確実に理解しておく必要があります。
ドキュメント表記の詳細は、「シスコ テクニカル ティップスの表記法」を参照してください。
次の 2 つの主要な機能により、OSPF デマンド回線は通常の回路とは異なるものになっています。
抑制された定期的 Hello
抑制された定期的 LSA 更新
OSPF デマンド回線がリンク上に設定されると、定期的 OSPF Hello は抑制されます。定期的 Hello は、ポイントツーポイントおよびポイントツーマルチポイントのネットワーク タイプでのみ抑制されます。その他のネットワーク タイプでは、OSPF Hello は引き続きインターネット経由で送信されます。
30 分ごとに実行される定期的 LSA 更新は、OSPF デマンド回線では実行されません。デマンド回線リンクが確立されると、一意のオプション ビット(DC ビット)が隣接ルータ間で交換されます。2 つのルータは、DC ビットを正常にネゴシエートすると、その注記を作成し、[LSA Age] 内で DoNotAge ビット(DNA)と呼ばれる特定のビットを設定します。 DNA ビットは、[LS Age] フィールドの最上位ビットです。このビットを設定すると、LSA はエージングを停止し、定期的な更新は送信されなくなります。
OSPF デマンド回路機能の使用時に、定期的 LSA 更新がどのように実行されるかについては、次の 2 つのシナリオしかありません。
ネットワーク トポロジに変更があった場合
デマンド回線を認識できないルータが OSPF ドメインに存在している場合
まず、ルータはトポロジ変更に関してネイバーを更新するための新規 LSA 情報を送信する必要があるため、LSA 更新を停止するためにできることはあまりありません。
ただし、2 番目のシナリオには、特別な対応方法があります。(次のネットワーク ダイアグラムのルータ D である)Area Border Router(ABR; エリア境界ルータ)は、ルータ C が DNA LSA を理解できることを認識しています。これは、ルータ C から発信された LSA のオプション フィールドで、DC ビットがクリアであることを、ルータ D が認識しているためです。この場合、ABR であるルータ D は、デマンド回線を理解できるルータに対して、DNA ビットを設定した LSA を発信しないように通知します。これは、DNA ビットを理解できないルータが存在するためです。
このネットワーク図は、定期的 LSA 更新を、デマンド回線を介して送信するシナリオを示しています。
ABR であるルータ D は、バックボーン内で指示 LSA を 発信して、バックボーン内のすべてのルータに DNA LSA を発信しないように指示します。ルータ A(もう 1 つの ABR)は、この指示 LSA を確認すると、その指示 LSA を他のエリアに発信します。ただしバックボーンと、すべてのスタブまたは NSSA(not-so-stubby)エリアは除外します。ルータ D の指示 LSA を以下に示します。指示 LSA はタイプ 4 のサマリー LSA であり、そこではリンクステート ID は、自律システム境界ルータ(ASBR)ではなく、ABR そのものです。 つまり、リンクステート ID とアドバタイジング ルータ フィールドの両方は、以下に示すように同じです。
RouterD# show ip ospf database asbr-summary Adv Router is not-reachable LS age: 971 Options: (No TOS-capability, No DC) LS Type: Summary Links(AS Boundary Router) Link State ID: 141.108.1.129 (AS Boundary Router address) Advertising Router: 141.108.1.129 LS Seq Number: 80000004 Checksum: 0xA287 Length: 28 Network Mask: /0 TOS: 0 Metric: 16777215
指示 LSA のメトリックは、無限に設定されています。リンクステート ID とアドバタイジング ルータ フィールドはいつでも、指示 LSA を発信する ABR のルータ ID です。上記のネットワーク図では、ルータ A と B の間のリンクはデマンド回線として構成されていますが、DNA LSA を認識できないルータがエリア 1 にあるため、エリア 1 では DNA LSA は発信されません。その結果、エリア 1 で発信された定期的 LSA 更新がデマンド回線を介して送信されます。
OSPF ABR が指示 LSA を生成することになる条件は、次の 2 つのみです。
ルータが IOS 11.2 以前を実行しているネットワーク内にある。
デマンド回線をサポートしていないネットワークに、シスコ製以外のルータがある。
エリア 2 をスタブまたは NSSA エリアとして設定します。これにより、ルータ D により発信された指示 LSA は、ルータ A によりエリア 2 に送信することができなくなります。その理由は、エリア 2 はスタブ エリアであり、タイプ 4 サマリー LSA である指示 LSA は、スタブ エリアにはフラッディングできないからです。こうなると、エリア 2 では指示 LSA が表示されないため、DNA LSA の生成がエリア 2 内で続行され、ルータ A と B との間のリンクは、定期的 LSA 更新が抑制されるために表示されません。
シスコは、非バックボーン エリアに OSPF デマンド回線を設定し、それらのエリアを NSSA とするか、またはスタブあるいは完全スタブとすることを推奨しています(後者を推奨)。 これは、他のエリアからデマンド回線を含むエリアに挿入される情報を最小化することが目的です。そのため、OSPF デマンド回線をアップする可能性がある変更の範囲を最小化します。OSPF デマンド回線機能に関係するトラブルシューティング シナリオについては、「OSPF デマンド回線によってリンクがアップ状態になり続ける原因」を参照してください。
上に示すのと似たような状況であっても、デマンド回線もバックボーンの一部であるという場合には、バックボーン エリアがスタブまたは NSSA として設定できないため、この解決策は使用できません。
このセクションの設定作業の例では、デマンド回線を作成するために必要な設定を示しています。インターフェイスでのデマンド回線コマンドの実行に必要とされるのは、一方の側のみです。他方の側はデマンド回線を認識でき、この機能を Hello パケットで自動的にネゴシエートするからです。デマンド回線を認識できない場合は、このオプションを無視します。
RouterA# show run interface Serial0 interface Serial 0 encapsulation frame-relay ip address 141.108.1.1 255.255.255.0 ip ospf network-type point-to-mutipoint ip ospf demand-circuit !
注:デマンドサーキットは、任意のネットワークタイプで使用できます。ただし、Helloが抑制されるのは、ポイントツーポイントまたはポイントツーマルチポイントのネットワークタイプだけです。
OSPF フラッド リダクション機能は、定期的 LSA 更新から生じるリンク上の追加のトラフィックを削減するために設計されたデマンド回線を、わずかに変更した機能です。これは定期的 LSA 更新の必要性を減らすのと同じメカニズムを使用します。一般にルータは、すぐにリンクに接続されることはなく、どちらのタイプのリンクのデータベース表現も同じであり、それがデマンド回線またはフラッド リダクション リンクとして構成されているかどうかを識別することはできません。
フラッド リダクションとデマンド回線の主な違いは、前者は定期的 LSA 更新のみを抑制するという点です。定期的 Hello パケットは抑制しません。したがって、フラッド リダクション機能は、ネイバー ルータのダウンを検出しにくくすることはありません。
フラッド リダクション リンクには、デマンド回線と同じ制約があります。特に、エリア内のすべてのルータは、フラッド リダクション機能が動作するように、デマンド回線機能をサポートする必要があります。デマンド回線とフラッド リダクション リンクでは、トラブルシューティングの技法も共通しています。
次の例は、OSPF フラッド リダクション機能の設定を示しています。
interface POS 0/0 ip address 192.168.122.1 255.255.255.0 ip ospf flood-reduction
上に示すとおり、ルータのインターフェイス POS 0/0 は、OSPF フラッド リダクション用に設定されています。定期的 LSA 更新がこのリンクを介して送信されることはありませんが、Hello は送信されます。