このドキュメントでは、リンクステート パケット(LSP)疑似ノードについて説明します。疑似ノードとは、LAN セグメントの代表中継システム(DIS)によって生成される LAN の論理表現です。このドキュメントでは、ルータへの情報の伝播についても説明します。
このドキュメントに特有の要件はありません。
このドキュメントの情報は、次のリリースに関連するソフトウェアとハードウェアのバージョンに基づいています。
Cisco IOS®ソフトウェアリリース12.1(5)T9。
このドキュメントの情報は、特定のラボ環境にあるデバイスに基づいて作成されました。このドキュメントで使用するすべてのデバイスは、初期(デフォルト)設定の状態から起動しています。対象のネットワークが実稼働中である場合には、どのようなコマンドについても、その潜在的な影響について確実に理解しておく必要があります。
ドキュメント表記の詳細は、「シスコ テクニカル ティップスの表記法」を参照してください。
このセクションでは、DIS と擬似ノードについて説明します。
ブロードキャスト マルチアクセス ネットワークでは、1 つのルータが DIS として選択されます。バックアップ DIS は選択されません。DIS は擬似ノードを作成し、擬似ノード の代わりに機能するルータです。
DIS は、2 つの主要なタスクを行います。
ブロードキャスト サブネットワーク上のすべてのシステムにリンクの報告を行うため、擬似ノード LSP を作成し、更新します。詳細については、「擬似ノード LSP」のセクションを参照してください。
LAN 上で LSP をフラッディングする。
LAN 上でフラッディングするということは、DIS は次に情報をまとめた Complete Sequence Number PDU(CSNP)を定期的に(デフォルト設定は 10 秒)送信することになります。
LSP ID
シーケンス番号
チェックサム
残りのライフタイム
DIS はフラッディングに使用されます。DIS は、自分が接続されている各 LAN の、自分が参加する各ルーティング レベル(レベル 1 またはレベル 2)ごとに、新しい擬似ノード LSP を 1 つ作成し、フラッディングします。IS-IS の優先順位またはレイヤ 2 アドレスによって、ルータは接続されているすべての LAN の DIS にもなり得るし、接続されている LAN のサブセットの DIS にもなり得ます。DIS は、隣接ルータとの隣接関係が確立、切断、またはリフレッシュ インターバル タイマーが時間切れになったときにも新しい擬似ノード LSP を作成し、フラッディングします。DIS のメカニズムは、LAN のフラッディング量を削減します。
LAN では、インターフェイスの優先順位(デフォルトは 64)に基づいて、ルータの 1 つが自分自身を DIS に選択します。 インターフェイスの優先順位がすべて同じ場合は、Subnetwork Point of Attachment (SNPA)の最も大きいルータが選ばれます。SNPA は LAN 上では MAC アドレスであり、フレーム リレー ネットワークではローカルな Data-Link Connection Identifier(DLCI; データリンク接続識別子)です。SNPA が DLCI で、リンクの両側の DLCI が同じ場合には、システム ID が大きい方のルータが DIS になります。各 IS-IS ルータのインターフェイスは、L1 と L2 両方の優先順位が 0 から 127 の範囲で割り当てられています。
DIS の選択は、(OSPF と異なり)プリエンプティブです。 LAN で新しいルータが起動した場合に、そのルータのインターフェイスの優先順位がより高ければ、そのルータが DIS になります。このルータは古い擬似ノード LSP を削除し、新しい LSP セットをフラッディングします。
マルチアクセス リンクのノード間で、フル メッシュ構造の隣接関係を減らすために、マルチアクセス リンクそのものを擬似ノードとしてモデル化します。これは名前のとおり、仮想的なノードです。DIS は擬似ノードを作成します。DIS を含め、ブロードキャスト リンクにあるすべてのルータは擬似ノードとの隣接関係を形成します。
擬似ノードの表示:
IS-IS では、DIS は隣接ルータと同期しません。DIS は LAN の擬似ノードを作成した後、各レベル(1 および 2)の hello パケットを 3 秒おきに送信し、また CSNP を 10 秒おきに送信します。hello パケットはこの DIS が LAN のそのレベルの DIS であることを示し、CSNP は LSP ID、シーケンス番号、チェックサム、および残りのライフタイムを含む、すべての LSP の要約を記述しています。LSP は常にマルチキャスト アドレスにフラッディングされますが、CSNP のメカニズムは失われた Protocol Data Unit(PDU)を補正するだけです。 たとえば、 あるルータが Partial Sequence Number Packet(PSNP)を使用して消失した LSP を DIS に要求したり、反対に新しい LSP を DIS に提供する場合もあります。
CSNP は、1 つのルータのデータベースにあるすべての LSP の情報を他のルータに伝えるために使用されます。PSNP は、OSPF の Database Descriptor(DBD)パケットと同様、LSP を要求し、LSP の受信を通知をするために使用されます。
擬似ノード LSP は、DIS によって生成されます。DIS はメトリック 0 で、すべての LAN 隣接ルータ(DIS を含む)を擬似ノード LSP内にレポートします。DIS を含む LAN のすべてのルータは、自分の LSP 内に擬似ノードへの接続性をレポートします。これは OSPF における、ネットワーク LSA の概念と似ています。
次のネットワーク ダイアグラムを使用して、すべての LAN 隣接ルータを報告する際に DIS の生成した擬似ノード LSP がどのように使用されるかを説明します。
注:次の例では、ダイナミックホスト名機能が有効になっています。そのため、下の show コマンドの出力では、ルータのホスト名にシステム ID が自動的にマップされています。
ネットワーク ダイアグラム のルータには、次の設定が使用されました。
router isis |
---|
Router 6 interface e0 ip address 172.16.126.6 255.255.255.0 ip router isis Isis priority 127 router isis net 49.0001.0000.0c4a.4598.00 is-type level-1 Router 2 interface e0 ip address 172.16.126.2 255.255.255.0 ip router isis router isis net 49.0001.0000.0c8d.e6b4.00 is-type level-1 Router 1 interface e0 ip address 172.16.126.1 255.255.255.0 ip router isis interface s1 ip address 172.16.1.1 255.255.255.0 ip router isis router isis net 49.0001.0000.5c75.d0e9.00 is-type level-1 Router 8 interface s1 ip address 172.16.1.8 255.255.255.0 ip router isis router isis net 49.0001.0000.0c31.c2fd.00 is-type level-1c |
次の表は、上に設定されているルータごとに、領域、MAC アドレス、およびネットワークを分類したものです。すべてのルータが同じ領域に属していることに注意してください。
ルータ | 領域 | MAC アドレス | NET(Network Entity Title) |
---|---|---|---|
6 | 49.0001 | 0000.0c4a.4598 | 49.0001.0000.0c4a.4598.00 |
0 | 0000.0c8d.e6b4 | 49.0001.0000.0c8d.e6b4.00 | |
1 | 0000.5c75.d0e9 | 49.0001.0000.5c75.d0e9.00 | |
8 | 0000.0c31.c2fd | 49.0001.0000.0c31.c2fd.00 |
このセクションで設定されているルータでは、show clns is-neighbor コマンドを使用して IS-IS 隣接ルータを表示できます。
router-6# show clns is-neighbor System Id Interface State Type Priority Circuit Id Format router-2 Et0 Up L1 64 router-6.01 Phase V router-1 Et0 Up L1 64 router-6.01 Phase V router-6# router-2# show clns is-neighbor System Id Interface State Type Priority Circuit Id Format router-6 Et0 Up L1 127 router-6.01 Phase V router-1 Et0 Up L1 64 router-6.01 Phase V router-2# router-1# show clns is-neighbor System Id Interface State Type Priority Circuit Id Format router-6 Et0 Up L1 127 router-6.01 Phase V router-2 Et0 Up L1 64 router-6.01 Phase V router-8 Se1 Up L1 0 00 Phase V router-1# router-8# show clns is-neighbor System Id Interface State Type Priority Circuit Id Format Router-1 Se1 Up L1 0 00 Phase V router-8#
上記のネイバーリストでは、マルチアクセスネットワーク(イーサネット)に接続されているルータはすべて同じ回線IDを持っていることに注目してください。回線IDは、ルータがIS-ISインターフェイスを一意に識別するために使用する1オクテットの番号です。インターフェイスがマルチアクセス ネットワークに接続されている場合、DIS のシステム ID に回線 ID が連結されます。これは擬似ノードIDと呼ばれます。また、イーサネットインターフェイスでIS-ISプライオリティが設定されているため、DISがルータ6であることにも注意してください。
次の出力は、前のセクションで説明した各ルータから IS-IS データベースを表示したものです。
Router-6# show isis database IS-IS Level-1 Link State Database: LSPID LSP Seq Num LSP Checksum LSP Holdtime ATT/P/OL router-8.00-00 0x0000006E 0xFF1A 960 0/0/0 router-6.00-00 * 0x0000006D 0xDD58 648 0/0/0 router-6.01-00 * 0x00000069 0x6DCB 1188 0/0/0 router-2.00-00 0x0000006D 0x59DE 589 0/0/0 router-1.00-00 0x00000074 0xC4B0 759 0/0/0 router-6# router-2# show isis database IS-IS Level-1 Link State Database: LSPID LSP Seq Num LSP Checksum LSP Holdtime ATT/P/OL router-8.00-00 0x0000006E 0xFF1A 947 0/0/0 router-6.00-00 0x0000006D 0xDD58 633 0/0/0 router-6.01-00 0x00000069 0x6DCB 1172 0/0/0 router-2.00-00 * 0x0000006D 0x59DE 577 0/0/0 router-1.00-00 0x00000074 0xC4B0 746 0/0/0 router-2# router-1# show isis database IS-IS Level-1 Link State Database: LSPID LSP Seq Num LSP Checksum LSP Holdtime ATT/P/OL router-8.00-00 0x0000006E 0xFF1A 934 0/0/0 router-6.00-00 0x0000006D 0xDD58 619 0/0/0 router-6.01-00 0x00000069 0x6DCB 1158 0/0/0 router-2.00-00 0x0000006D 0x59DE 561 0/0/0 router-1.00-00 * 0x00000074 0xC4B0 734 0/0/0 router-1# router-8# show isis database IS-IS Level-1 Link State Database LSPID LSP Seq Num LSP Checksum LSP Holdtime ATT/P/OL router-8.00-00* 0x0000006E 0xFF1A 927 0/0/0 router-6.00-00 0x0000006D 0xDD58 607 0/0/0 router-6.01-00 0x00000069 0x6DCB 1147 0/0/0 router-2.00-00 0x0000006D 0x59DE 550 0/0/0 router-1.00-00 0x00000074 0xC4B0 723 0/0/0 router-8#
上記の出力が示すように、show isis databaseコマンドは、データベース内のLSPのリストを表示します。この場合、すべてのルータが同じ領域の Level 1 ルータであるため、IS-IS データベースにはすべて同じ LSP が含まれています。各ルータが 1 つの LSP を生成することに注意してください。DIS は自分の LSP を生成するとともに、擬似ノードに代わって LSP も生成します。この例では、擬似ノード LSP は 0000.0C4A.4598.01-00 です。
LAN 上のルータは、その LAN の擬似ノードにだけアドバタイズメントを送信すると説明しました。疑似ノードは、次のshow isis database lsp detailコマンドの出力例に示すように、メトリック0の疑似ノードLSPのすべてのLANネイバーを報告します。
(Router 8 から見た)Router 6 LSP
Router 6 は、自分が直接接続しているネットワークと擬似ノードにだけ到達できることをアドバタイズしていることに注意してください。この場合、擬似ノードのメトリックは10です。前述したように、LAN上のルータは、LANの擬似ノードだけに到達できることをアドバタイズします。
router-8# show isis database router-6.00-00 detail IS-IS Level-1 LSP router-6.00-00 LSPID LSP Seq Num LSP Checksum LSP Holdtime ATT/P/OL router-6.00-00 0x00000071 0xD55C 456 0/0/0 Area Address: 49.0001 NLPID: 0xCC Code: 137 Length: 8 IP Address: 172.16.126.6 Metric: 10 IP 172.16.126.0 255.255.255.0 Metric: 10 IS router-6.01 router-8#
(Router 8 から見た)擬似ノード LSP
擬似ノード LSP は、メトリック 0 での LAN 隣接ルータをすべてアドバタイズします。擬似ノードに代わり、この場合は Router 6 で、DISによって擬似ノード LSP が生成されます。
Router-8# show isis database router-6.01-00 detail IS-IS Level-1 LSP router-6.01-00 LSPID LSP Seq Num LSP Checksum LSP Holdtime ATT/P/OL router-6.01-00 0x0000006D 0x65CF 759 0/0/0 Metric: 0 IS router-6.00 Metric: 0 IS router-2.00 Metric: 0 IS router-1.00 router-8#
(Router 8 から見た)Router 2 LSP
再度、Router 2 LSP には、直接接続しているネットワークと擬似ノードのみへ、到達が可能かどうかの情報が含まれています。
Router-8# show isis database router-2.00-00 detail IS-IS Level-1 LSP router-2.00-00 LSPID LSP Seq Num LSP Checksum LSP Holdtime ATT/P/OL router-2.00-00 0x00000072 0x4FE3 791 0/0/0 Area Address: 49.0001 NLPID: 0xCC Code: 137 Length: 8 IP Address: 172.16.126.2 Metric: 10 IP 172.16.126.0 255.255.255.0 Metric: 10 IS router-6.01 router-8#
(Router 8 から見た)Router 1 LSP
Router 1 LSP に含まれている LAN ネットワークの情報は、ネットワークそのものと擬似ノードへの到達が可能かどうかの情報です。Router 1 は別のネットワークであるシリアル ネットワークにも接続されているため、直接接続されているネットワークもアドバタイズされます。
Router-8# show isis database router-1.00-00 detail IS-IS Level-1 LSP router-1.00-00 LSPID LSP Seq Num LSP Checksum LSP Holdtime ATT/P/OL router-1.00-00 0x00000079 0xBAB5 822 0/0/0 Area Address: 49.0001 NLPID: 0xCC Code: 137 Length: 8 IP Address: 172.16.1.1 Metric: 10 IP 172.16.126.0 255.255.255.0 Metric: 10 IP 172.16.1.0 255.255.255.0 Metric: 10 IS router-6.01 Metric: 10 IS router-8.00 router-8#
Router 8 LSP
この場合、Router 8 は LAN に接続されていないため、自分への到達が可能であることを擬似ノードにアドバタイズしません。ただし、(自分への到達が可能であることを)自分自身、Router 1、および直接接続されているネットワークにアドバタイズします。
Router-8# show isis database router-8.00-00 detail IS-IS Level-1 LSP router-8.00-00 LSPID LSP Seq Num LSP Checksum LSP Holdtime ATT/P/OL router-8.00-00* 0x00000072 0xF71E 554 0/0/0 Area Address: 49.0001 NLPID: 0xCC IP Address: 172.16.1.8 Metric: 10 IP 172.16.1.0 255.255.255.0 Metric: 10 IS router-1.00 Metric: 0 ES router-8 router-8#