この文書は、ネットワークに新規ソリューションを導入する際の計画、設計、および実装の標準的な進め方について説明しています。新規ソリューションを導入する際の最も大きな課題は、既存のネットワークを使用可能な状態にできる限り維持すること、つまり既存のネットワーク環境への影響を最小限に抑えることです。新規ソリューションの導入を成功させるには、計画、設計、ネットワーク管理、および実装の各担当者を含む組織化されたプロセスが必要です。
この最適な方法の文書は、新規ネットワーク ソリューションの導入を成功させるために必要なステップの概略を示しています。ここでは、要件、管理、検証、および導入という重要なステップについて詳しく説明します。
次の図は、新規ネットワーク ソリューション導入時のワークフローの概要を示しています。フロー内の任意の青いボックスをクリックすると、そのステップの詳細情報が表示されます。
新規ネットワーク ソリューションの導入を成功させるための最初のステップであり、なおかつ最も重要なステップは、要件の収集です。要件の収集では、次の必要なステップについて見ていきます。
ネットワークの機能またはサービスを収集するには、ネットワークの利用方法と基本的なトラフィック フローについて理解し、ユーザ数とサイト数を把握する必要があります。これらの情報は論理設計と機能セットの作成時に使用でき、論理設計と機能セットは、ネットワーク設計者が帯域幅、インターフェイス要件、接続性、設定、物理デバイス要件などの各種要件を理解するうえで役立ちます。このステップには、ネットワークのパフォーマンス、管理性、アベイラビリティ、または相互運用性を決定するための手順は含まれていません。
パフォーマンス Service Level Agreement(SLA; サービス レベル契約)とメトリックを使用して新規ネットワーク ソリューションのパフォーマンスを定義および測定し、新規ソリューションのパフォーマンス要件が確実に満たされるようにします。提案されたネットワーク インフラストラクチャ全体にわたって、パフォーマンス監視ツールや単純な ping を使用できます。パフォーマンス SLA には、予想されるトラフィック量の平均、トラフィック量のピーク、平均応答時間、および許容される最大の応答時間を含める必要があります。この情報はソリューションの検証時に使用できます。最終的にこの情報は、必要とされる適正なネットワークのパフォーマンスとアベイラビリティを決定する際の参考となり、満足できるソリューションを確実にします。
ソリューションのスケーラビリティに関する目標を設定すると、ネットワークの設計に将来の拡張要件を盛り込むことができます。また、予測どおりにネットワークが拡張する限り、提案された設計においてリソースの制約が発生しないことを確約できます。リソースの制約には、全体的なトラフィック量、経路の数、Virtual Circuit(VC; 仮想回線)の数、近接ルータの数、ブロードキャスト ドメイン、デバイスのスループット、メディアのキャパシティ、その他のスケーラビリティ型パラメータの数などが含まれます。必要な設計寿命、予測される拡張範囲またはサイト(設計寿命を通じての予測が必要)、新規ユーザの数、および予測されるトラフィック量または変化について決定する必要があります。
アベイラビリティの目標を設定してサービスのレベルを定義すると、ソリューションによって末端のアベイラビリティ要件が確実に満たされます。特定の組織に対して異なるサービス クラスを定義し、クラスごとに適切なネットワーク要件を詳述できます。ネットワークの領域ごとに異なるレベルのアベイラビリティが必要となる場合があります。アベイラビリティの目標を高く設定すると、古いタイプのコンポーネントの安定に加えて、冗長性およびサポート手順も改善する必要があります。特定のネットワーク サービスに対してアベイラビリティの目標を定義し、そのアベイラビリティを測定することにより、コンポーネントとサービス レベルの要件を把握できます。
相互運用性と相互運用性テストは、新規ソリューションの導入を成功させるうえで非常に重要です。「相互運用性」の意味するところには、異なるハードウェア ベンダーだけでなく、ネットワークの実装中または実装後に接続しなければならない、異なるトポロジまたはソリューションまでもが含まれます。相互運用性の問題には、プロトコル スタックからルーティングに至るハードウェア シグナリングや、トランスポート タイプの問題などがあります。相互運用性計画には、異なるデバイス間の接続性や、移行中に発生する可能性のあるトポロジの問題を含める必要があります。
他のソリューションでの要件の実現方法に対して、考えられるさまざまな設計を比較することを推奨します。これにより、計画中のソリューションが特定の環境に最も適合していることが確かになり、設計プロセスが個人的な先入観によって推進されなくなります。比較する要素には、コスト、復元力、アベイラビリティ、リスク、相互運用性、管理性、スケーラビリティ、パフォーマンスなどを使用します。これらの要素はすべて、設計が実装された後、ネットワーク全体のアベイラビリティに大きな影響を及ぼします。比較は、メディア、階層、冗長性、ルーティング プロトコル、および同様の機能の能力について実施します。X 軸を要素、Y 軸を考えられるソリューションとする表を作成して、ソリューションの比較結果をまとめます。また、ラボ環境でソリューションを詳細に比較すれば、さまざまな比較要素について新規ソリューションと新機能を客観的に調査できます。
ネットワーク設計文書には、基本的な論理ネットワークの接続性、ポート、アドレッシング、設定要件、デバイス間の距離、およびその他のオプションについて記述する必要があります。設計に対して、必要な機能、パフォーマンス要件、アベイラビリティの目標、管理性の目標、および相互運用性を分析します。提案された設計モデルがソリューション要件をどのように満たすのかを文書として示すために、設計フェーズを文書化することを推奨します。設計要件に関する利点や問題点などの代替モデルを検討し、それを文書化します。スペースの制限、距離、シャーシの収容能力、電源、その他の物理的な制限のために、設計段階において物理設計が重要になる場合があります。物理設計には、スペース計画、電源計画、ラックの設計とレイアウト、デバイスのメモリ要件と CPU 要件、ポートとカードの割り当て、ケーブル接続要件、キャリア要件、およびデバイスの物理的なセキュリティが必要です。
要件に適合した新規ネットワーク ソリューションを導入するためには、ネットワーク管理に関する情報収集が役立ちます。ネットワーク管理では、次の必要なステップについて見ていきます。
ネットワーク管理の目標を設定するには、サポート プロセスと関連するネットワーク管理ツールについて理解する必要があります。管理目標には、新規ソリューションが既存のサポートおよびツール モデルにどのように組み込まれるかを、考えられる相違点や新規要件との関連の中で理解することが含まれます。新規ソリューションのサポート能力はネットワーク アベイラビリティを維持するための鍵となるため、このステップは導入を成功させるうえで非常に重要です。ネットワーク管理の目標には、次のものを含める必要があります。
重要な Management Information Base(MIB; 管理情報ベース)、または想定されるネットワークのサポートに必要なネットワーク ツールの情報
新しいネットワーク サービスのサポートに必要なトレーニング
新規サービスの要員計画モデルとその他のサポート要件
ネットワーク設計の重要な側面として、ユーザまたはカスタマーに提供するサービス レベルを定義することが挙げられます。サービス レベル管理には通常、問題のタイプと重大度の定義や、ヘルプデスクの責務(報告経路、各層のサポート レベルでの報告までの時間、問題の処理に取りかかるまでの時間、優先順位に基づいて対象をクローズするまでの時間など)が含まれます。他に検討すべき重要な要素としては、キャパシティ管理の領域で提供されるサービスのタイプ、予防的な障害管理、変更管理通知、しきい値、アップグレード基準、およびハードウェアの交換があります。
要員計画の役割には、tier 1、tier 2、tier 3 のサポート、アーキテクチャ、エンジニアリング、インストール、ラボでのテストと検証、施設計画(環境、配線、電源)、ネットワーク管理ツールの操作、データベース、Simple Network Management Protocol(SNMP)とその解釈、文書作成、展開などがあります。これらの職種を埋めるために特定の数の技術員を雇用することは推奨されません。調査を通じて各グループに必要なスキルを確定し、適正なレベルの専門知識を持つ人材をこれらの役割に配置します。
新規ソリューションの検証には次のステップがあります。
このフェーズでは、設計、ソリューション要件のあらゆる側面、およびスケーラビリティの予測を製品ベンダーに提示します。ベンダーは、提示されたソリューション要件に対して設計を分析し、考えられるすべてのキャパシティ問題またはスケーラビリティの問題を明らかにします。関係のあるベンダーには、さまざまな知識や技術を持つ人材が存在するため、デザイン レビューにはネットワーク設計分野の専門知識を持つ営業担当者およびサポート担当者に参加してもらいます。ベンダーは、ネットワーク設計に関して、レベル2の拡張性、レベル3の拡張性、トラフィック全体のパターンとボリューム、バッファとキューイング、メモリとCPUの要件、カードシャーシの入出力、冗長性、階層、ソフトウェアの安定性、設定など、あらゆる側面を分析できます。
ネットワーク設計のシミュレーションおよびエミュレーション ツールは、新規ネットワーク ソリューションを検証する際に非常に役立ちます。また、シミュレーションおよびエミュレーション ツールによってトラフィックに関する統計情報を出力し、キャパシティ分析またはスケーラビリティ分析を実行することも可能です。通常、ネットワーク環境は他に 2 つとして同じものが存在せず、効果的にモデル化することが困難であるため、現在シスコではラボ検証をサポートしています。さらにネットワーク検証サービスを提供し、キャパシティ問題とスケーラビリティ問題の分析を可能にしています。
ラボ検証はネットワーク ソリューションの機能、キャパシティ、およびスケーラビリティに関する情報を提供します。モデルを構築して目的のソリューションを再現し、そのモデルに経路、ブロードキャスト、およびトラフィックを注入することで、本質的な計画データと設計データが得られます。また、複数のサブインターフェイスまたは仮想インターフェイスを使用すれば、大規模なトポロジを再現するモデルを構築できます。経路、Service Access Point(SAP; サービス アクセスポイント)、またはブロードキャストを高いレートでネットワークに注入することにより、大規模環境での動作、キャパシティ、およびスケーラビリティの問題を把握できます。実際のネットワークをシミュレートするには、トラフィック ジェネレータを使用して、さまざまなタイプの負荷において、デバイスがどの程度正常に大量のトラフィックを通過できるかを理解します。ラボ検証では、機能、CPUの平均、バッファとキューの使用率、トラフィックのスループット、トラフィックのエンドツーエンドの成功率、メモリの使用率、ルーティングプロトコルの安定性などのパラメータを測定します。また、ソフトウェアやハードウェアの不良箇所が見つかる場合もあります。
新規ソリューションの検証が終りに近づいたら、提案されたソリューションをまとめるために、ソリューション要件、設計、テスト結果、予想されるパフォーマンス、およびデザイン レビュー情報を文書に記述することが重要です。この一連の情報が、新規ソリューションを構築するための基礎になります。文書を基に新規ソリューションについての基本的なレベルの理解が形成され、それに従って必要な変更もできます。ただし、その変更は自動的に保証にはつながりません。また、この情報は新規ネットワーク ソリューションに対する期待と SLA が満たされることを裏付けるデータとしても役立ちます。
ほとんどの場合、ネットワーク ソリューションまたはネットワーク ソリューションの一部をネットワークで試験的に運用できます。試験運用は決められた期間実施し、その結果によってソリューションがどの程度期待に応えられるかを確かめます。ユーザ グループと、パイロット ソリューションを通じて流れるトラフィックを注意深く選択すれば、ほとんどどんなソリューションであっても本番環境に重大な影響を及ぼさない方法で試験運用できます。試験運用は、試験運用の提案と計画、試験運用そのもの、および試験運用後分析レポートから構成されます。試験運用後分析レポートには、試験運用を通じて得られた知見や、それが期待に応えるものであったかどうかについて詳細に記述します。パフォーマンスの領域における期待には、機能の能力、アベイラビリティ、または管理性が含まれます。また、ネットワーク ソリューションのインストール機能と運用サポートについてもテストできます。続いて、試験運用の事後分析によって新規ソリューションの導入を評価し、全体的なネットワーク設計の中で変更が推奨される箇所を特定して、それを実施します。最終的に、試験運用と事後分析が新規ソリューションの検証における最終テストとなります。場合によっては、新規ソリューションがすべての目標を満たしていないという結果になり、ソリューションの要件フェーズからやり直さなければならないこともあります。
導入の前に、明らかになった問題に対処するため、検証と試験運用の最終レビューが必要となります。レビューには、ユーザの意見や操作に関する報告、技術的な問題、サポートの事例、試験運用時の導入の問題、現在の市場動向、およびその他の改善ステップを含める必要があります。承認プロセスは、導入プロセスの一部に含める必要があります。
新規ソリューションの導入には次のステップがあります。
ソリューション テンプレートには、コア、ディストリビューション、またはアクセス レイヤにおける個々のネットワーク モジュールの設定と、物理設計および論理設計の基準が含まれています。ソリューション テンプレートを使用することで、同じ設計、設定、ハードウェア、およびサポート能力を備えた共通モジュールが確実に実装されます。共通モジュールは通常、ワイヤリング クローゼット、ディストリビューション ポイント、またはコア ネットワーク ロケーションを表します。共通モジュールの要件を指定することで、各ロケーションの属性が同じものになるため、ネットワーク環境のサポートが容易になります。一般にソリューション テンプレートには、命名規則、標準設定、ハードウェア要件、アドレッシング要件、ラックのレイアウト、ラベリング要件、色分け規則、帯域外管理要件、ネットワーク管理統合要件などが含まれます。
導入の前および後に既存ネットワークのベースライン レポートを作成し、新規ソリューションに対する期待を評価します。一般にベースライン レポートには、CPU、メモリ、バッファ管理、リンクとメディアの使用率、およびスループットに関連したキャパシティの問題が含まれます。また、ネットワーク環境の安定性とアベイラビリティの向上を実証するアベイラビリティのベースラインが含まれる場合もあります。ソリューション要件を検証するために、新旧のネットワーク環境から出力したベースライン レポートを比較することも有効です。
新規ソリューションを導入するときは、すべてのトレーニング要件を明確にし、それらを実行する必要があります。新規ネットワーク ソリューションの新機能、テスト、および論理設計と物理設計について実装チームのトレーニングを実施することを推奨します。取り上げるべきその他の問題には、ケーブル接続要件とその確認、所要電力とその確認、ラベリング全般、実装中のテスト要件と検証要件などがあります。大規模な実装の場合は、必要に応じて定期的にレビュー ミーティングを開催し、起こりうる問題について討議します。
新規導入の際は通常、新しいネットワーク環境を容易にサポートできるように、操作教育とサポート手順が必要となります。これは、運用グループが新しい設定、機能、またはハードウェアに慣れていない場合に特に重要です。運用上の固有の問題、たとえば、使用する可能性のある操作コマンドの影響、ハードウェアの交換、コンフィギュレーション ファイルのアーカイブ手順、インストール/設置のガイドライン、ソフトウェアのアップグレード手順、変更管理、トラブルシューティングのガイドライン、管理性に関するガイドライン(ポーリングのしきい値など)などの問題すべてについて再確認します。実装を行う前に、ネットワーク エンジニアリングおよび運用グループに関係するサポート手順を文書化し、レビューします。これらのチームには、実装を行う前に、必要な運用サポート要件を消化吸収するための時間と機会を十分に与えます。
導入計画の最後の段階は、実装計画とスケジュールの立案です。基本的に実装計画は、円滑な移行とユーザへの影響の最小化を図るために、ステップ方式のインストール手順として作成します。実装計画には、インストール スクリプト、訂正またはずれの処理方法、品質管理、セキュリティ管理、必要なリソースの特定とスケジューリング、定義済みのタスク、ハードウェアや各種機器の調達、タスクの依存関係、工程表などが含まれます。実装計画は、インストールを行う前に、定められた変更管理手順に従って承認される必要があります。