通常、シリアル インターフェイスでは、カプセル化と呼ばれるレイヤ 2 プロトコルを設定コマンドを使用して変更します。標準のシリアル インターフェイスでは、High-Level Data Link Control(HDLC; ハイレベル データリンク コントロール)がデフォルトのカプセル化になっています。 このカプセル化は、encapsulation ppp コマンドか encapsulation frame-relay コマンドで変更できます。シリアル インターフェイス上のレイヤ 2 カプセル化には、他にも HDLC、SDLC(Synchronous Data Link Control)、X.25 などがあります。
それとは対照的に、電話会社からの ATM 回線に接続する場合は、encapsulation atm のようなコマンドで、自分のシリアル インターフェイスのカプセル化を単純に変更することはできません。(注:唯一の例外は、ソフトウェアベースの SAR を使用している MC3810 の Multiflex Trunk Module です。) Cisco 7x00 ルータ シリーズ用の PA-A3 ポート アダプタなどの「ネイティブ」ATM インターフェイスが、可変長の IP または他のデータ フレームを 53 バイトの固定長のセルに分割するための特別なハードウェアと Segmentation And Reassembly(SAR; セグメンテーション リアセンブリ)チップで構成されているためです。その代わり、encapsulation atm-dxi コマンドでシリアル インターフェイスを設定できます。Data Exchange Interface(DXI; データ交換インターフェイス)では、HDLC に似たフレーム内にデータがカプセル化され、それらのフレームが ATM Data Service Unit(DSU; データ サービス ユニット)に伝送されます。
次の show interface serial コマンドの出力例では、カプセル化が ATM-DXI に設定されています。
Serial0 is up, line protocol is up Hardware is MCI Serial Internet address is 131.108.177.159, subnet mask is 255.255.255.0 MTU 1500 bytes, BW 1544 Kbit, DLY 20000 usec, rely 255/255, load 1/255 Encapsulation ATM-DXI, loopback not set, keepalive not set Last input 0:00:02, output 0:00:01, output hang never Last clearing of "show interface" counters never Output queue 0/40, 0 drops; input queue 0/75, 0 drops 5 minute input rate 0 bits/sec, 0 packets/sec 5 minute output rate 1000 bits/sec, 0 packets/sec 15246 packets input, 14468957 bytes, 0 no buffer Received 0 broadcasts, 0 runts, 0 giants 0 input errors, 0 CRC, 0 frame, 0 overrun, 0 ignored, 0 abort 15313 packets output, 14445489 bytes, 0 underruns 0 output errors, 0 collisions, 4 interface resets, 0 restarts 1 carrier transitions RTS up, CTS down, DTR up, DSR down
このドキュメントでは、ATM-DXI のカプセル化、設定方法、およびトラブルシューティングの方法について説明します。
このドキュメントに特有の要件はありません。
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
ドキュメント表記の詳細は、「シスコ テクニカル ティップスの表記法」を参照してください。
ATM-DXI では、Data Terminal Equipment(DTE; データ端末装置)と Data Circuit-terminating Equipment(DCE; データ回線終端装置)の間にインターフェイスつまり接続が作成されます。 ATM-DXI の場合、ルータのシリアル インターフェイスが DTE になり、ATM Data Service Unit(ADSU; ATM データ サービス ユニット)が DCE になります。ADSU は、発信パケットを ATM セルに変換でき、着信 ATM セルをパケットに再構成できる特別な DSU です。シリアル インターフェイスと HSSI(High-Speed Serial Interfaces)の両方に ATM-DXI のカプセル化を設定できます。
ATM-DXI のカプセル化では、ルータと ADSU の両方で何らかの方法でパケットが処理されて、オーバーヘッド バイトが付加されます。特に、ATM ネットワークへの送信では次の処理が行われます。
ルータのシリアル インターフェイスでは、DXI フレーム ヘッダーと(オプションで)Logical Link Control(LLC; 論理リンク制御)/Subnetwork Access Protocol(SNAP; サブネットワーク アクセス プロトコル)または Network Layer Protocol Identification(NLPID; ネットワーク層プロトコル識別子)ヘッダーを伴う可変長のフレームがプリペンド(これまでに付加されたものの前に付加)されて、DXI フレームが作成されます。
シリアル インターフェイスが DXI フレームを ADSU に送信します。
ADSU では DXI ヘッダーが削除されます。LLC/SNAP または NLPID のヘッダーがあればそのまま保持されます。
ADSU では、ATM Adaptation Layer 5(AAL5; ATM アダプテーション レイヤ 5)トレーラをアペンド(末尾に付加)することで、ATM レベルの処理を行ってから、パケットを ATM セルにセグメント化します。
ADSU が DXI Frame Address(DFA; DXI フレーム アドレス)を解析して、DFA に格納されている VPI/VCI を、ATM の標準の 5 バイトのセルヘッダーの仮想パス識別子または仮想チャネル識別子(VPI/VCI)フィールドにマッピングします。
セルが ATM ネットワークに送信されます。
このセットアップに関して重要なのは、ADSU ではフレームを ATM セルに変換する必要があることです。標準の DSU/CSU の製造元でも、特別な ADSU を提供しています。推奨される ADSU については、電話会社にお問い合せください。Kentroxは 、ADSUのメーカーの1つです。
ATM-DXI では、3 つのモードがサポートされており、次の 4 つの点が異なる場合があります。
サポートされる仮想回線の数。
Protocol Data Unit(PDU; プロトコル データ ユニット)またはデータ フレームの長さ。
サポートされる ATM Adaptation Layer(AAL; ATM アダプテーション層)のカプセル化
16 ビットまたは 32 ビットの Frame Check Sequence(FCS ; フレーム チェック シーケンス)。
Cisco では、DXI ヘッダー フォーマットにモード 1a を使用しています。
設定に応じて、ATM-DXI では、OSI 参照モデルのレイヤ 2 の 2 つのヘッダー内にパケットがカプセル化されます。これらの 2 つのヘッダーには、DXI ヘッダーと LLC/SNAP か NLPID のどちらかのヘッダーがオプションで使用されます。次のセクションでは、これらのヘッダーについて説明します。
DXI フレームはルータのシリアル インターフェイスで作成されます。完全な DXI フレームは、ATM-DXI ヘッダー、(オプションで)LLC/SNAP か NLPID ヘッダー、およびレイヤ 3 プロトコル データ ユニットで構成されています。
DXI フレーム ヘッダーはルータのシリアル インターフェイスで作成され、サイズは 2 バイトです。このヘッダーは次のフォーマットになっています。
DXI Frame Address(DFA; DXI フレーム アドレス)フィールドによって、ATM の VPI と VCI のアドレッシング情報が ADSU に渡されます。DFA フィールドは通常は 10 ビットです。ATM ネットワークへの送出中に、ADSU では実際に DXI ヘッダーが削除され、DXI ヘッダー内の VPI/VCI の値が、ATM セルの 5 バイトの標準ヘッダー内の VPI/VCI の値にマッピングされます。
各 ATM-DXI PVC では、1 つ以上のレイヤ 3 プロトコルが伝送されます。RFC 1483およびRFC 1490 は、ATMネットワーク上でマルチプロトコルトラフィックをカプセル化および転送する標準的な方法を定義しています。シリアル インターフェイスでは、使用する方法を次のコマンドでルータに指示する必要があります。
router(config-if)# dxi pvc vpi vci [snap | nlpid |mux]
RFC 1483 には、2 つの転送方法が規定されています。1 つの方法では、1 つの PVC 上で複数のプロトコルの多重化が可能です。もう 1 つの方法では、異なるプロトコルを伝送するために異なる仮想回線が使用されます。
mux:multiplex(MUX)オプションは、1つのプロトコルだけを伝送するようにPVCを定義します。各プロトコルは、異なるPVCを介して伝送される必要があります。
DXI Header= 0x28A1 IP Datagram= 0x45000064.....
snap:SNAPオプションはLLC/SNAPマルチプロトコルカプセル化で、RFC1483と互換性があります。SNAPは現在のデフォルトオプションです。次の出力では、SNAP ヘッダーに 0xAAAA03 という値が設定されています。この値は、1 つの SNAP ヘッダーが次に続いていることを示しています。0x0800 という Ethertype 値は、DXI フレームで IP パケットが伝送されていることを示しています。
DXI Header = 0x28A1 SNAP Header= 0xAAAA03 OUI= 0x000000 Ethertype = 0x0800 IP Datagram= 0x45000064.....
nlpid:NLPIDオプションはマルチプロトコルカプセル化で、RFC 1490と互換性があります。このオプションは、Cisco IOS®ソフトウェアの以前のバージョンのデフォルト設定との下位互換性のために用意されています。
DXI Header= 0x28A1 Control= 0x03 NLPID for IP= 0xCC IP Datagram= 0x45000064......
シリアル インターフェイス上に ATM アクセスを設定するには、次の 4 つの作業を行う必要があります。
シリアル インターフェイスを選択して、シャットダウン状態ではないことを確認します。必要に応じて、no shut コマンドを実行します。
ATM-DXI カプセル化を有効にします。
router(config-if)# encapsulation atm-dxi
VPI と VCI を指定して、ATM-DXI Permanent Virtual Circuit(PVC; 相手先固定接続)を作成します。接続されたデバイス(通常はプロバイダーの ATM ネットワークのスイッチ)には同じ PVC 値を設定する必要があります。
router(config-if)# dxi pvc vpi vci [snap | nlpid | mux ]
レイヤ 3 プロトコル アドレスを ATM-DXI PVC の VPI と VCI. にマッピングします。プロトコル アドレスは、リンクのもう一方の端のホストに属します。
router(config-if)# dxi map protocol protocol-address vpi vci [broadcast]
PVC で伝送されるプロトコルごとにこの作業を繰り返します。
ATM 用のシリアル インターフェイスを設定したら、インターフェイス、ATM-DXI PVC、あるいは、ATM-DXI マップのステータスを表示できます。インターフェイス、PVC、あるいは、マップ情報を表示するには、次のコマンドを EXEC モードで使用します。
show interfaces atm [slot/port]
show dxi map
show dxi pvc
Router# show dxi map Serial0 (administratively down): ipx 123.0000.1234.1234 DFA 69(0x45,0x1050), static, vpi = 4, vci = 5, encapsulation: SNAP Serial0 (administratively down): appletalk 2000.5 DFA 52(0x34,0xC40), static, vpi = 3, vci = 4, encapsulation: NLPID Serial0 (administratively down): ip 172.21.177.1 DFA 35(0x23,0x830), static, broadcast, vpi = 2, vci = 3, encapsulation: VC based MUX, Linktype IP
フィールド | 説明 |
DFA | DXI フレーム アドレスで、フレームリレーの Data-Link Connection Identifier(DLCI; データリンク接続識別子)に似ています。DFA は、10 進数、16 進数、および DXI ヘッダー フォーマットで表示されます。このアドレス値は VPI と VCI の値からルータで計算されます。 |
カプセル化(Encapsulation) | dxi pvc コマンドで選択されたカプセル化のタイプ。SNAP、NLPID、VC ベースの多重デバイス(MUX)のいずれかが表示されます。 |
Linktype | MUX カプセル化の場合にだけ使用されるので、PVC に定義された単一のネットワーク プロトコルでだけ使用される値。MUX カプセル化が指定された PVC に設定されているマップには、これと同じリンク タイプが指定されている必要があります。 |
Router# show dxi pvc PVC Statistics for interface Serial0 (ATM DXI) DFA = 17, VPI = 1, VCI = 1, PVC STATUS = STATIC, INTERFACE = Serial0 input pkts 0 output pkts 0 in bytes 0 out bytes 0 dropped pkts 0 DFA = 34, VPI = 2, VCI = 2, PVC STATUS = STATIC, INTERFACE = Serial0 input pkts 0 output pkts 0 in bytes 0 out bytes 0 dropped pkts 0 DFA = 35, VPI = 2, VCI = 3, PVC STATUS = STATIC, INTERFACE = Serial0 input pkts 0 output pkts 0 in bytes 0 out bytes 0 dropped pkts 0
フィールド | 説明 |
DFA | DXI フレーム アドレスで、フレームリレーの DLCI に似ています。DFA は、10 進数、16 進数、および DXI ヘッダー フォーマットで表示されます。このアドレス値は VPI と VCI の値からルータで計算されます。 |
PVC STATUS = STATIC | スタティック マップだけがサポートされています。マップは動的には作成されません。 |
input pkts | 受信パケットの数。 |
output pkts | 送信パケットの数。 |
in bytes | すべての受信パケットの合計バイト数。 |
out bytes | すべての送信パケットの合計バイト数。 |
dropped pkts | 通常はゼロ(0)が表示されます。ゼロ以外の値が表示される場合は設定に問題があります。具体的には PVC が存在しません。 |
ATM-DXI のカプセル化では、2 つの debug コマンドもサポートされています。debug コマンドを発行する前に、『debug コマンドの重要な情報』を参照してください。
debug dxi events
debug dxi packet
注:debug dxi packetコマンドの出力は、パケットごとに1つのメッセージを出力します。デバッグを有効にするときには常に注意が必要ですが、実稼働環境では特に注意が必要です。
改定 | 発行日 | コメント |
---|---|---|
1.0 |
15-Nov-2007 |
初版 |