ATM テクノロジーのためにATM フォーラムによって発行された標準は、「 Traffic Management Specification Version 4.0」です。 この標準では、ネットワーク上で送信されるユーザ トラフィックについて説明する 5 つのサービス クラスと、これらのトラフィックのためにネットワーク側で提供する必要のある QOS が定義されています。5 つのサービス クラスは次のとおりです。
constant bit rate(CBR; 固定ビット レート)
このテクニカル ノートの目的は、次のとおりです。
CBR を定義する
CBR と circuit emulation service(CES; 回線エミュレーション サービス)の違いを明確にする
音声 CBR とデータ CBR との差異の明確化
このドキュメントに特有の要件はありません。
このドキュメントの内容は、特定のソフトウェアやハードウェアのバージョンに限定されるものではありません。
ドキュメント表記の詳細は、『シスコ テクニカル ティップスの表記法』を参照してください。
CBR サービス クラスは、接続がアクティブである期間中は継続的に使用できる一定量の帯域幅を必要とする ATM virtual circuit(VC; バーチャル サーキット)用に設計されています。CBR として設定されている ATM VC では、接続されている間はいつでも peak cell rate(PCR; ピーク セルレート)でセルを送信できます。また、PCR よりも遅いレートでもセルを送信でき、セルを全く送信しないことも可能です。
PCR を指定することで、必要な帯域幅を kbps で定義します。たとえば、cbr 64 コマンドでは PCR が 64 kbps の CBR PVC が作成されます。
CBR と CES の違いを明らかにしておくことは大切です。上で説明したように、CBR ではユーザ トラフィックの ATM クラスを定義します。一方、CES では、非 ATM の電話装置から ATM クラウドへトラフィックを搬送する方式を定義しています。実際には、CES では 2 種類のプロトコル間での通信を行えるようにする interworking function(IWF; インターワーキング機能)を提供します。これを実現するために、CES または音声 CBR(以下を参照)をサポートするCiscoの ATM モジュールには、次の 2 つのインターフェイス タイプがあります。
1 つまたは複数の CBR インターフェイス(通常は物理的な T1 または E1) - private branch exchange(PBX; 構内交換機)または time-division multiplexer(TDM; 時分割多重化装置)などの非 ATM の電話装置への接続。 CBR ポートを識別するには、PA-A2 の interface cbr コマンドか、NM-1A-OC3-1V の ces mod/port コマンドを使用します。
ATM インターフェイス 1 つ - ATM クラウドへの接続。interface atm コマンドで、ATM ポートを識別します。
送信元のルータでは、CES アプリケーションを使用して標準の T1 または E1 フレームを CBR ポートで受け入れ、これらのフレームを ATM セルに変換した後、ATM クラウドを経由してこのセルを ATM インターフェイスに送信します。宛先のルータでは、この ATM セルを再構成し、インターワーキング機能を使用して CBR ポートに返送します。
CES の仕様では、CBR VC での音声トラフィックの送信を規定しています。
CBR サービス クラスはリアルタイム アプリケーション向けに設計されています。特にネットワーク全体の遅延の影響を受けやすい、音声やビデオに関するものが対象となります。2 つの CES IWF を相互接続している ATM ネットワークによってもたらされる遅延は、次の 2 つのパラメータで構成されています。
セル転送遅延(CTD) -- ATM ネットワークの入口と出口との間で予測される最大のセル遅延を定義します。
セル遅延変動(CDV) -- 全ての特定のセルで発生する可能性のある遅延について、ジッタや変動で定義します。
ATM ネットワークの受信側での再構成プロセスでは、再構成されるセル ストリームを T1 インターフェイスに送信する前に保存しておくバッファが必要です。つまり、CES ハードウェアには、アンダーフローやオーバーフローを防ぐために、VC 上にある最大の CDV に対応できる大きさの再構成バッファが必要になります。ただし、過度の遅延を引き起こすほど大きさのバッファは必要はありません。CES をサポートしているシスコ ルータのインターフェイスでは、次のコマンドを使用して CDV の値を選択します。コマンドはインターフェイスのハードウェアによって異なります。
PA-A2 - ces circuit {circuit ID} {cdv 1-65535}コマンドを使用します。
NM-1A-OC3-1V:ces-cdv timeコマンドを使用します。
再度、この値がジッタと絶対遅延とのトレードオフを最適化することに注目してください。エンドツーエンドのパスで最小の CDV が生じる場合は、このパラメータに小さな値を設定し、この接続によって大きな CDV が生じる場合には大きな値を設定します。show ces circuit interface cbr コマンドを使用して、設定値の確認と測定値のモニタリングを行います。
router# show ces circuit interface cbr 6/0 1 circuit: Name CBR6/0:1, Circuit-state ADMIN_UP / Interface CBR6/0, Circuit_id 1, Port-Type T1, Port-State UP Port Clocking network-derived, aal1 Clocking Method CESIWF_AAL1_CLOCK_Sync Channel in use on this port: 1 Channels used by this circuit: 1 Cell-Rate: 171, Bit-Rate 64000 cas OFF, cell-header 0X3E80 (vci = 1000) Configured CDV 2000 usecs, Measured CDV unavailable ErrTolerance 8, idleCircuitdetect OFF, onHookIdleCode 0x0 state: VcActive, maxQueueDepth 128, startDequeueDepth 111 Partial Fill: 47, Structured Data Transfer 24 HardPVC src: CBR6/0 vpi 0, vci 16 Dst: ATM6/0 vpi0, vci 1000
再構成プロセスで割り当てられる CDV の量は、MIB エントリの atmfCESCdvRxT でも設定できます。
上記の CDV 値については、次の 3 つの点に注意してください。
この値は受信側にのみ適用される値です。この値は、ネットワークにセルを送出する際に ATM ルータ インターフェイスによって引き起こされる遅延には影響を与えません。理想的なのは、ATM ルータ インターフェイスによって、任意の VC でのセルが均等なセル間のギャップでスケジュールされることです。この理想的な時間は 、OAM セル、物理層フレーミングを搬送するセル、または同じインターフェイス上に設定されている別の VC から送られ、同じセル タイムスロットを競合するセルによって、遅延や影響を受けたりすることがあります。
この値は、cell delay variation tolerance(CDVT; セル遅延変動許容値)パラメータとは大きく異なります。CDVT は、任意の VC の PCR をポリシングする際に、スイッチによって許容される許容値です。トラフィック ポリシングは、CES IWF によって生成され、ATM ネットワークで送信されるセルに対して実行されます。CDVT パラメータに対しては、上の段落で説明した理由によって発生するあらゆるセル遅延変動を考慮する必要があります。CES との関連で、CDVT はネットワーク オプションであると見なされ、現在は CES の勧告に従って、標準化の対象になっていません。
show ces circuit interface cbr コマンドには、2 つの値が含まれます。「maxQueueDepth」と「startQueueDepth」です。 「maxQueueDepth」の値は、セルの play-out バッファ サイズを決めるものです。「startDequeueDepth」の値は、CES IWF で「バッファの再生」を行う前に保存されるセルの数を決定し、通常は play-out バッファ サイズの半分の大きさに設定されます。バッファ サイズが大きすぎると、CTD 全体にかなりの量の遅延が起きる場合があります。
中間スイッチの数、これらのキューの管理、および回線速度は、宛先 IWF の再構成バッファで処理される必要のある CDV の分配に多大な影響を及ぼします。現在、CDVには境界を定義する標準はありません。ただし、CDVおよびリアセンブリバッファサイズの一部の情報は、GR-1110-COREおよびATMフォーラムのApproved ATM Forum Specifications B-ICI 1.1仕様セクション5.1.2に記載されています。
現在、ATM では、3 つの層で構成されるプロトコル スタックが定義されています。ATM adaptation layer(AAL; ATM アダプテーション層 )では、QOS に必要となる CBR または VBR-nrt のような ATM サービス クラスをサポートし、ATM ネットワークで異なるトラフィック タイプの搬送を行えるようにしています。AAL1 と AAL5 は、最も一般的に使用されている 2 種類の AAL タイプです。
シスコの文書では、CBR 仮想接続をサポートしている AAL タイプに従って、音声用の CBR とデータ用の CBR を区別しています。CESおよびVoice over ATMアプリケーションを含む音声用CBRはAAL1を使用します。1バイトのAAL1ヘッダーは、タイムスタンプ、シーケンス番号などのビットを使用して、ATMネットワークがセル遅延変動、セルの誤挿入、セル損失などのATM層不具合をを処理します。データ用 CBR では AAL5 を使用し、通常は同じインターフェイスで音声用 CBR はサポートしません。AAL5 では 4 バイトの CRC に 8 バイトのトレーラを追加して、protocol data unit(PDU; プロトコル データ ユニット)でのエラーの検出を行います。
AAL サブレイヤ機能にはセグメント化と再構成が含まれますが、この機能は、ルータまたは Catalyst ATM モジュールと ATM スイッチとの間の user-network interface(UNI; ユーザネットワーク インターフェイス)において、ユーザ側でのみ実行されることに注意してください。
現在、シスコでは、CBR サービス クラスをサポートするインターフェイス ハードウェア モジュールとアダプタを何種類か提供しています。最初に提供されたのは、7200 ルータ シリーズ用の PA-A2 ポート アダプタです。また、Cisco IOS® ソフトウェア リリース 12.1(2)T では、NM-1A-OC3-1V および NM-1A-T3 が導入され、どちらでも CBR がサポートされています。
インターフェイス ハードウェア | サポートされているプラットフォーム | データ CBR | 音声 CBR |
---|---|---|---|
PA-A2-4T1C-OC3SM、PA-A2-4T1C-T3ATM | 7200 | - | Yes |
PA-A3(下記の注を参照) | 7200 7500 | Yes | - |
PA-A6(下記の注を参照) | 7200 7500 | Yes | - |
NM-1A-OC3-1V | 3600 | - | Yes |
NM-1A-OC3 | 3600 | Yes | - |
NM-1A-T3 | 2600、3600 | Yes | - |
AIM-ATM、AIM-ATM-VOICE 30 | 2600、3600 | Yes | - |
WIC-1SHDSL* | 1700、2600(2691 は含まず)、3600 | Yes | No |
WIC-1ADSL* | 1700、2600、3600、2691、3725、3745 | Yes | No |
ADSL over ISDN* ポート | 826 と 827 | Yes | No |
Multiflex Trunk(MFT) | MC3810 | - | Yes |
注:VCの送信優先度を下げながら、PCRとSCRを同じ値に設定したVBR-nrt PVCを設定すると、CBRのデータに対してPA-A3とPA-A6で同等のリアルタイムサービスクラスのパフォーマンスががを提供されます。Cisco IOS リリース 12.2 では、2 種類の新しい SAR プライオリティ レベルが導入され、セルのタイムスロットに関する競合が生じたときに、CBR および VBR-rt に対する正しい優先順位付けをサポートします。また、CBR と VBR-rt をコマンドラインで設定する機能も導入されています。詳細は、『ATM リアルタイム サービス カテゴリに対するルータのサポートについて』を参照してください。
AIM-ATM および AIM-ATM-VOICE 30 では、CBR、VBR-nrt、VBR-rt、ABR、および UBR をサポートしています。パケット(またはセル)の転送要求は、オープンな「チャネル」を経由して送信されます。 VC ごとのチャネルを表示するには、show controller atm コマンドを使用します。チャネルには 4 つの優先順位のうちのいずれかと、3 つのトラフィック クラス(CBR、VBR、ABR)のうちのいずれかが設定されている場合があります。ATM フォーラムのクラス(CBR、VBR-rt、VBR-nrt、UBR、UBR+)は、チャネルの優先順位とトラフィック クラスの組み合せを使用して設定されている場合があります。CBR には最高のプライオリティ レベルが設定されています。AIM では transmit-priority コマンドはサポートされていません。
組み込みの ADSL over ISDN(ADSLoISDN)ポートでは、CBR がサポートされています。
CBR 音声サービス用の NM-1A-OC3-1V の設定には、次の 2 つのステップがあります。
ATM インターフェイスに対して CES カプセル化を行う VC を設定する。
CBR または VWIC ポートのパラメータを設定する。
CBR PVC を作成するには、PVC 文の最後にキーワード CES を追加します。これによって、interface-ces-vc 設定モードになり、オプションで受信側の CDV や、play-out バッファのサイズなどを入力できます。
ces 1/0 clock-select 1 atm1/0 ! controller T1 1/0 clock source internal tdm-group 0 timeslots 4-8 ! interface ATM1/0 ip address 7.7.7.7 255.255.255.0 no ip directed-broadcast pvc 1/101 ces ces-cdv 20 ! connect test ATM1/0 1/101 T1 1/0 0
コマンド | 説明 |
---|---|
pvc [name] vpi/vci [ces] | ATM PVC を VPI や VCI の値で設定します。オプションで CES カプセル化を設定します。これは CBR サービス クラスを定義することと同じです。 |
ces-cdv time | T1/E1 側での play-out バッファのサイズを最適化します。時間は、許容できる最大のジッタまたはセル着信レートの差異です。サポートされている値の範囲は 1 ~ 65,535 ミリ秒です。 |
connect connection-name atm slot/port [name of PVC/SVC|vpi/vci] T1 slot/port TDM-group-number | CBR ポートを ATM VC に接続します。 |
clock-select priority-no interface slot/port |
NM-1A-OC3-1V は、ベースとなる ATM ネットワーク モジュールにプラグインする voice processing deck(VPD)に付属しています。(初期出荷では、VPD はフィールドでのアップグレードが可能なオプションではありません)。 VPD は、音声用 CBR と AAL1 CES サービスを Cisco 3600 シリーズに追加します。VPD では、4 つまでの標準 T1 および E1 ポートからのフレームを受信して、それらのフレームを ATM セルに変換してから、セル インターフェイスより ATM ベースのカードに送出します。次に、このカードでは、これらのセルの物理ワイヤでの転送をスケジューリングします。
NM-1A-OC3-1V に取り付けられている VWIC は、音声デバイスと接続され、最大 2 つの T1 または E1 ストリームを提供します。VWIC はオプションで NM-1FE2W などの他のネットワーク モジュールに取り付けられ、追加の T1 または E1 ストリームを提供します。他の NM からの相互接続機能は、TDM 対応のバックプレーンと MIX モジュールと呼ばれるマルチサービス交換カード(MIX-3660-64)を備えた 3660 でしか使用できないことに注意してください。
シスコでは次の VWIC を推奨しています。
VWIC-1MFT-T1=、VWIC-1MFT-E1=
VWIC-2MFT-T1=、VWIC-2MFT-E1=
VWIC-2MFT-T1-DI=、VWIC-2MFT-E1-DI=
NM-1A-OC3およびNM-1A-T3は、AAL5を使用するデータのCBRをサポートします。CBR PVCを作成するには、cbr {rate}コマンドを使用してPCRを定義します。
interface ATM4/0.1 multipoint ip address 192.168.1.2 255.255.255.0 pvc 1/50 cbr 16000
CBR では、VC がアクティブである限り、VC への PCR の帯域幅が保証されることに注意してください。show atm interface atm コマンドでは、CBR 設定文で指定された予約済み帯域幅を利用可能な帯域幅から差し引いた総量が表示されます。次の例では、ATM OC-3 インターフェイスは155 Mbps の帯域幅で開始し、CBR VC のために 16 Mbps が予約されています。
Router#show atm interface atm 4/0.1 Interface ATM4/0.1: AAL enabled: AAL5 , Maximum VCs:1024, Current VCCs:5 Maximum Transmit Channels:64 Max. Datagram Size:4496 PLIM Type:SONET - 155Mbps, TX clocking:LINE Cell-payload scrambling:OFF sts-stream scrambling:ON 877 input, 120843834 output, 0 IN fast, 20 OUT fast Bandwidth distribution :CBR :16000 Avail bw = 139000 Config. is ACTIVE
MC3810 用の multiflex trunk module(MFT)には、CSU/DSU を内蔵した T1/E1 ポートが 1 つあります。設定コマンドを使用して、T1 と E1 との間のフレーミングや、サポートされているレイヤ 2 モードを変更することができます。
モードの種類を変更し、論理インターフェイスatm0を作成するには、mode atmコマンドを使用します。ATMモードでは、MFTはAAL1形式のデータとビデオ、およびAAL5形式の圧縮音声またはデータをサポートします。
router(config)#controller {t1 | e1} 0 router(config-controller)#mode atm
インターフェイス atm0 を作成したら、ATM カプセル化のタイプを指定できます。MFT では 5 つのタイプの ATM カプセル化がサポートされています。
カプセル化 | ATM サービス クラス |
---|---|
aal1 | CBR |
aal5snap(トラフィックシェーピング パラメータなし) | VBR-nrt |
aal5snap(トラフィックシェーピング パラメータなし) | UBR |
aal5mux voice | VBR-rt |
aal5muxframe-relay | VBR-nrt |
MFT で ATM をサポートするには、使用している MC3810 で Cisco IOS の Voice over ATM イメージが実行されている必要があります。実行イメージを表示するには、show version コマンドを使用します。Voice over ATM のイメージでは、イメージ名に「a」が使用されています。たとえば、「IP Plus VoATM no ISDN」の場合は mc3810-a2i5s-mz になります。